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Gold Plum ー 西多摩地区鎖国国家地帯 ー  作者: 宿り木
第一章 はじまりの種 ~吉田太一の場合~(高木)
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少年、親友の家でゲームをする①

 チームを再編成するのも面倒だと言うことで、太一たちが抜けると同時に解散となった。0ー1と負けてはいるが、試合は明日へ持ち越しだ。


「明日こそはホームランを打ってやるんだ」


 太一は、隣を歩く翔に声を弾ませながら言い放つ。しかし翔の返事は、太一のやる気を削ぐものだった。


「ホームランもいいけど、お前はもう少しコントロールの練習をしろよなー」


 反論しようにも事実なので、言葉が見つからない。その間にも翔は、自分を置いてスタスタ歩いて行ってしまった。


「ちょっと待ってよー」


 レンガ風の低い塀に囲まれた2階建ての翔の家が見えてきた。門扉の前には色とりどりのパンジーの鉢植えが置かれている。


「ただいまーっと」


 翔がステンレス製の門扉を開けると、左の方から歌でも歌っているかのような柔らかい声が聞こえてきた。


「おかーえりー」


 ピンク色の手袋に、ピンク色の腰巻きタイプのエプロンをつけた翔の母、野木崎律子(のぎざきりつこ)が出迎えてくれた。


「ただいま。って、また庭いじってたの? ちゃんとご飯食べてからやった?」


 翔が、スコップを手にしたままひらひらと手を振る律子にどちらが親かわからないような言葉を送る。律子は、それを気にするふうでもなく頷いて答えた。


「ええ、そろそろ終わりにするところだったのよ」


 綺麗と言うよりは、可愛い部類に入るのだろう。律子が頬にえくぼをのせ、こちらを見た。


「太一君、いらっしゃい。お腹すいたでしょう? 今、ホットケーキ作るわね」

「やったー、おばちゃんのホットケーキ大好きなんだ」


 自分の家では決して出てくることのないおやつに、太一は両手をあげて喜んだ。


「じゃあ、太一君のために腕を振るっちゃおう」


 律子は自身の腕に、力こぶを作るように曲げる。そして、スコップと手袋を木製の小さな物置に戻し、家の中に入って行った。後をついて行こうとしたが、靴を脱ぐ前に止められてしまった。


「あっ、あんたたち、そのままお風呂へ直行しないさい。太一君の着替えもちゃんと置いておくから、洗濯カゴに入れておくのよ」


 指を差してきた律子に促されるように、太一は自分の制服を見た。焦げちゃ色の半ズボンはところどころ白茶けており、ボタンの止まっていないブレザーからは茶色に染まったシャツが見え隠れしている。思っていた以上に汚れていたことに目を見張る。太一は自分だけがこんなに汚れているのかと不安になり、翔の方を見た。すると、さして変わらない汚れ方をしている親友と目が合い、苦笑いする。



※ ※ ※ ※ ※



 風呂から出た太一がリビングへ入ると、焼きたてのホットケーキのいい匂いがしてきた。体を動かした後はおやつの時間だ。食欲をそそる香ばしくて甘い香りが、太一の腹の虫を活発化させる。その音は、隣にいる翔にまで聞こえてしまったらしい。おかしそうにケタケタと笑いながら、翔は台所にいる律子へ話しかけた。


「お母さん、太一の腹がうるさいから、このホットケーキ食べてもいい?」

(何もお腹が鳴ったことまで言わなくてもいいのに……)


 太一は心の中で、翔に文句を垂れる。すると、律子までもがクスクスと笑いながら、いいわよ、と了承してきた。


「二人して笑わないでよー」


 そんなに笑うなら食べない。そう言い出そうとしたが、太一が不貞腐れる前に、翔から謝罪と一緒にフォークを渡された。


「ごめん、ごめん。それより早く食べようぜ。オレもお腹ペコペコ」


 フォークを持ったまま立ち尽くしている太一を尻目に、翔はさっさと椅子に座わってしまった。


「太一、食べないのか?」


 翔がホットケーキの上にバターを乗せながら聞いてくる。熱で溶けていくバターを見た途端、太一は意地を張ることを止めた。


「食べるに決まってるよ。おばちゃん、いただきます」


 急いで翔の隣の席に座り、後片付けをしているであろう律子に声をかける。そしてホットケーキを頬張った。メープルシロップの甘さとバターのしょっぱさが口の中に広がる。無言のままむさぼるように食べたホットケーキは、あっという間になくなってしまった。


『ごちそうさまでした』


 食後の挨拶が、翔と重なる。偶然にも同時に食べ終えたようだ。


「あー、おいしかったー」


 太一は満たされたお腹を左手で軽く叩いた。背もたれに寄りかかり、幸せな気分でふぅーっと息を吐き出す。


「お粗末様でした」


 律子が、えくぼを深く作り笑いかけてきた。その横を、流し台へ食器を置きに行っていた翔が通り抜ける。


「太一、オレの部屋に行こうぜ!」


 太一は、うん、と頷き、席を立った。先を歩く翔の後に続いて部屋を出ると、その後ろから太一たちを見送るかのように律子もついてくる。


「太一君。4時半くらいにお母さんが来るからねー」

「はーい」


 背中から聞こえてきた律子の言葉に、太一は階段をのぼりながら返事をした。部屋へ入るなり、翔が机の上に置いてあったポータブルゲームに電源を入る。そして、自慢げに画面を見せてきた。黒かった画面に映し出されたものを観て、太一は目を見開いた。


「あっ! 『すごタロ』だ!」


 それは、最近発売されたばかりの人気ソフト『すごいよ太郎さん』というアクションゲームソフトだった。黄金梅の童話をモチーフに、太郎少年が悪者である宇宙人にさらわれた雪姫を救い出すといった内容だ。


「今日はこれで遊ぼうぜ」

「いいの? やったー!」


 太一は、翔の提案に歓喜した。


「まずはオレが手本を見せてやるよ。それでオレが死んだら次、お前な」

「うん」


 太一は、相槌を打ちながら、ベッドを背もたれ代わりにして座る翔の隣を陣取る。ゲーム画面を覗き込むと、すでにゲームはスタートしていた。操作方法は他のアクションゲームとそんなに変わらないみたいだ。着物姿の太郎少年が、次々にジャンプして敵や障害物を避けたり、倒したりしている。


(あっ、お肉食べたら犬に変身しちゃった)


 このゲームの面白いところは、敵が獣人ではないことだろう。今までどんなゲームも、敵といえば獣人だった。たぶん祖母のように獣人を忌み嫌っている人が多いからだろう。それがこのゲームでは、獣人の特性を活かしたアイテムを獲得、駆使して雪姫を助けに行くのだ。一風変わったこのゲームのことは、発売前から話題になっていた。


(本当に、これで遊べんるんだ)


 太一は心を躍らせ、画面の中にいる太郎少年を見つめる。


(早くぼくの番にならないかなー)


 太一の願いが届いたのか、翔が悲鳴にも似た声を出した。

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