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Gold Plum ー 西多摩地区鎖国国家地帯 ー  作者: 宿り木
第一章 はじまりの種 ~小越麻里の場合~(朝川)
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ドジっ娘、お嬢さまとすれ違う

「まずい、まずいわ……」


 結局一度も確認できないまま、放課後になってしまった。小さく頭を抱えていると、ふいに横合いから声がかかる。


「何がまずいの?」


 声に反応して視線をやった瞳に、相田の不思議そうな顔が映った。


「あ、いえ、なんでも……」


 慌てて誤魔化すと、ホームルームから帰ってきた数学の松波隼人(まつなみはやと)が、唸りながら職員室へ入ってきた。


「あー頭重い」


 眉間を軽く叩きながら、松波が自席へと向かう。


「松波先生、風邪ですか?」

「んーどうかなあ?」


 声をかける相田に答えながら、よっこらせ、と席へ座る。


「昨日なんだかんだで寝るの遅かったしなあ」


 ぼやく松波を見ながら、麻里は彼が3年1組の担任であることを思い出した。


「松波先生、梅宮みのりさんって今日見かけました?」

「ん? 見たよ。ついさっき2組の教室前で」

「ありがとうございます!」


 話の途中で勢いよく席を立ち、驚いて目を瞠る二人を尻目に急いで扉へ向かう。


「小越さん! 今日夜七時からの飲み会、忘れないでね!」


 相田の声を後ろ手に、麻里は教室へと急いだ。


 廊下を小走りに歩いていると、前方から見知った顔が歩いてきた。梅宮みのりのクラスメイトで、彼女の前に座っている子だ。


「山野辺(やまのべ)さん!」


 山野辺に駆け寄ると、少女が目をまたたいて見つめてきた。


「小越先生? どうかしたんですか?」

「梅宮みのりさんを捜しているんだけど、どこにいるか知らない?」


 必死の思いで尋ねるが、山野辺は首を横に振ってきた。


「すみません。私、彼女とはあまり親しくないから」


 気まずそうに視線を逸らす山野辺に、麻里は頷く。


「そう……」

「彼女、梅田さんと以外あまりお話もしてくださらないし。やっぱり私たちとは違うっていうか……」


 ためらいがちに告げてくる言葉からは、山野辺の本音が滲み出ていた。


(つまりは、本当は仲良くなりたいのに、ってことか……)


 麻里は自分の学生時代を思い出し、内心で苦笑しつつ山野辺を見る。


「そう。ありがとう。ごめんなさいね。引き止めてしまって」


 礼を言って微笑みかけると、山野辺は、いいえ、と再度かぶりを振ってきた。


「ごきげんよう」

「さようなら。気をつけて帰ってね」


 一礼して歩き出す山野辺へ頷き後ろ姿に声をかける。誰もいなくなった廊下を見つめ、麻里は小さく息を吐いた。



「もういない……わよねえ……」


 とは思うものの、素直に戻る気にはなれない。


「やっぱり教室の様子を見ておくべき、よね?」


 とりあえず、報告だけ先にしておけばいいか。麻里は携帯を取り出し、連絡先を検索する。上司の名前を見つけ、リダイヤルを押した。耳にあてながら窓の外へ視線を送りつつ廊下を曲がる。と、ふいに前方から人影が走った。


「麻里先生、ごきげんよう」


 突然のことに目を瞠るも、挨拶をされたので慌てて笑顔を向ける。


「ごきげんよう」


 口の端を思いきり上げながら返答したところで、携帯から見知った声が聞こえてきた。


『どうした? 進展はあったのかい?』

「いえ、それが……」


 麻里は気まずい気分で視線を移す。 目の端に見慣れた桜色のブレザーと、陽の光にふわりとなびく黒髪が映った。流れるように揺れる髪の先へ、知らず視線が止まった。息を詰めていると、携帯越しに上司の怒号が飛んでくる。


『おい! 小越君! 聞いてるのか!』

「あ、はい! すみません!」


 謝りながら先刻の女生徒たちへ視線を送ると、2人が手を繋ぎ足早に去っていくのが見える。高校になっても手を繋いでるなんて。共学なのに珍しいことだ。


「よっぽど仲がいいのね」


 ぽそりと呟くと、上司の怪訝そうな声が聞こえてきた。


『どうしたんだい?』


 我に返り慌てて返答する。


「いいえ、なんでもありません」


 すると上司がそうか、とあっさり受け流し話を転じてきた。


『それで、どうなんだい?』

「は?」

『梅宮みのりとは接触できたのか、と訊いてるんだよ』


 若干苛立ったような上司の声に、麻里は視線を泳がせる。


「ええっと。それが、ですね……」


 どうやって説明しよう。麻里は急ぎ言い訳を考えながら、廊下を行く女生徒たちへ再度目をやった。長い黒髪を持つ少女と、茶色のグラデーションに染めているらしい少女。2人が階段を降りるその瞬間、黒髪の少女の筋の通った横顔が目の中に飛び込んできた。


「あ……」


 麻里は口をぽっかりと開け、間の抜けた声を上げる。歳に似合わぬ憂いを帯びたあの横顔。間違いない。


『え? なんだい?』


 麻里は上司の問いかけにも答えず、声を震わせる。


「……り」

『は?』

「梅宮みのりぃぃぃぃぃ!」


 麻里は絶叫すると、携帯を切るのも忘れ全速力で少女たちの後を追った。

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