応援
とうとう今日で1ヶ月。
結局今日まで枕にしてしまった。
おまじないをしたからって両思いになれるとは思ってはいなかったけど、とても複雑な心境だった。
学校へ着くと早速歩美が近寄ってきた。
「おはよー。確か香梨菜のおまじないって今日の夜で最後だよねー。」
ニコニコしながら私の顔を覗きこむ歩美。
「うん。」
そう頷いてみるものの。
私の心は複雑で。
「最近元気ないじゃん。どうしたの?でも明日はお楽しみだからね。私まで気合入っちゃうよ!」
なんて。
そっか、明日だっけ。
明日の土曜、私達の高校と今野の学校の練習試合がある。
見たい気持ちはあるのだけど、サッカーしている今野を見てしまうともっと好きになってしまいそうで怖かった。
行きたいけど行きたくない、それが本音だった。
「そうだね。」
作り笑顔で歩美に答えた。
昼休み、次の美術授業のため、教室を移動していると廊下の先に神田先輩がいた。
神田先輩は友達に囲まれて大声で笑っている。
知らないうちに頬が緩んだ。
やっぱり格好良いよな、なんて。
でも知ってしまったから、本当に好きな人とのドキドキの違いを。
すれ違う瞬間、神田先輩は私を見て笑ってくれた。
笑ってくれた?!
気のせいかと思ったけど、麻耶と歩美はキャーキャー騒ぎだした。
「「香梨菜いつの間に!」」
2人は声を揃えて私を肘で突っついた。
私の方が聞きたかった。
なんでだろう?
愛だけは何も言わずに隣を歩いていた。
そうこうしているうちに土曜の朝はきてしまって。
私はまた英語の辞書を枕にしてしまった。
とうとう1ヶ月。
私の葛藤も今日でおしまい。
ちょっぴりホッとしている私がいた。
今日の試合もちゃっかりみんなと待ち合わせまでしてしまって、でも心の中ではまだ迷っていたりもする。
ドタキャンしちゃおうかな
って。でもそんな私の心を見透かしてか、待ち合わせ1時間前に愛からメールが届いた。
「行くよね。」
ただ一言、それだけ。
返事は中々出せなかった。
風邪をひいた、頭が痛い、おなかの調子が悪くて……
いろいろ断る理由を考えてみたのだけれど、学校の違う今野に会うことはそんなにない訳で。
これ以上好きになってしまうのは怖かったけど、今野の姿を見てみたい気持ちが勝ってしまった。
待ち合わせにぎりぎり間に合う時間に
「行くね」
と愛に返信した。
直ぐに
「待ってるよ」
と返ってきた。
私の返信を待っていてくれたのかもしれない。
愛らしいな、って思ってちょっと嬉しかった。
慌てて制服を着て学校へ。
土曜日とはいえ学校へいくので他校の生徒以外は制服着用だ。
みんなと校庭へ行くと、試合時間はまだだったが、両校の選手はアップの為既にグラウンドで練習していた。
その中に今野の姿を見つける。
我ながらその見つける速さにビックリした。
好きな人というのはこんなにも周りの人と違うのだろうかと。
そのうち麻耶に
「香梨菜どこ見てるのよ。」
と呆れ顔をされてしまう。
歩美も
「照れてるの?顔赤いんじゃない?」
なんてニヤリと笑う。
愛は事情を知っているせいか、相変わらずにこっと笑うだけで。
麻耶と歩美は
「やっぱり神田先輩はめの保養になるねぇ」
なんて言っている。
彼氏に聞かれたら大変だなんて思ったりして。
私はやっぱり今野に目が行ってしまう。
中学を卒業してそんなに経っていないのにこんなに感じが違うものだろうか?
それとも私の見る目が違っているから?
そして、試合が始まった。
驚いた事に今野は1年生だというのに、ピッチに立っていた。
凄いじゃん。
始まりから、白熱した試合だった。
ボールは両方のゴール前まで行ったり来たり、でも寸でのところでボールを奪い返して。
私は両手を握り締めながら、ボールの行方を追った。
今野がボールに触る度に、両手の爪が手に食い込む。
そして、もう少しでハーフタイムというその時
「陽人行けーっ」
と一際大きな声がした。
声の方を見るとそこにはあの時の彼女がいた。
彼女は頬を赤くして、一生懸命応援している。
私達の高校の制服を着ているのにそんなことはお構いなしとばかりに。
麻耶もあの人凄いねぇなんて言っている。
私は居たたまれなくなって。
目がちょっとウルっとしてしまった。
そんな私に愛が気づいた。
「大丈夫?」
と。
「ちょっと目にゴミが入ったみたい。顔洗ってくるね。」
と水道へと走った。
駄目だよまだ、涙でちゃ駄目。
自分で自分に言い聞かせ水道へと急いだ。
思いっきり蛇口を捻り顔を洗った。
何度も何度も顔に水を浴びさせて。
動揺した心まで冷やすように。