揺れる想い
机に向かって、じーっと4葉を見つめる。
あれほど探していた4葉なのに私はイニシャルを書くのを迷っていた。
大好きだと思っていた先輩の顔が思い出せない。
浮かんでくるのはあの公園であった今野の顔ばかりだった。
何やってんの私。
今野は彼女がいるっていってたじゃない。
ちょっと初恋だって言われたからって反応している自分が怖かった。
頭の中を空っぽにしたくて何度も首を振った。
目が回っただけだった。
明日学校行って先輩の顔みたら復活するよね。
よし、今日はもう寝よう。
先ほどのように大事に4葉をハンカチにくるみ、引き出しの奥へしまった。
この時点で本当は解っていたんだ。
既に今野を好きになり始めている事を。
「また駄目だったんだぁ。」
麻耶が話し掛けてきた。
結構暗い顔していたのだろうか?
自分ではそう思ってはいないんだけど。
「うっうん・・・」
嘘をつくつもりじゃなかったのだけど思わずそう言ってしまった。
愛は私の肩を叩いて
「あんまり根つめちゃ駄目だよ。」
って言ってくれた。
ごめん。
そんなに優しい顔しないで。
本当は昨日見つけてしまったのだから。
それは4葉ではなく初めから上手く行くことのない恋の相手なのだから。
「ほら、元気出して、渡り廊下行くんでしょ!」
歩美の言葉にはっとした。
次は神田先輩の体育の時間。
神田弘樹先輩。
1つ上のサッカー部、
サラサラヘアーに、小顔で、背も高く、頭も良い。
我が校のアイドル的存在だ。
昇降口から校庭に行く姿を毎回欠かさず見ていたのに、今日はすっかり忘れていた。
そんな私の様子を愛はじっとみていたのを気がつかなかった。
「やっぱり、今日も格好よかったねぇ」
歩美の言葉に頷く私。
「何かテンション低くない?」
麻耶が私の顔を覗き込んだ。
「そんなことないよ。」
そんなことないよ、と言いつつ今度こそはっきり解ってしまった。
ドキドキが違うのだ。
確かに格好よいけど
素敵だと思うけど
あの今野の顔を見たときのドキドキとは全然違っていたのだから。
恋をする前から解っていたことなのに気持ちがドーンと沈んでいったのだった。
なんで会っちゃったんだろう。
あの時イチゴショートを食べに行っていたならこんな思いをする事なかったのに。
おまじないかぁ。
4葉のクローバーが頭を過ぎる。
そして彼女いるからと笑ったあいつの顔が頭から離れなかった。
教室へと戻る廊下で愛が
「何か悩み事?さっきからため息ついてるよ。大丈夫みんな気がついていないから。」
視線は前を向いたまま、私だけに聞こえるような囁き声だった。
どうして愛はわかるんだろう?
相談しても大丈夫かな?
彼女をいる人を好きになるなんて軽蔑されないかな。
そんな思いが駆け巡り躊躇してしまう。
「大丈夫だよ。ただちょっと疲れただけ。」
私も愛だけ聞こえるように囁いた。
了解とばかりに愛はこくりと頷くと前を歩く麻耶と歩美の話に混ざっていった。
3人の後ろ姿を眺めながら、昨日までの私を羨ましく思ってしまった。
「香梨菜今日も探しに行くの?」
麻耶の言葉にちょっぴり胸を痛める。
本当はあるんだよ、昨日見つけたんだ。
そういえばいいのに何故か言えない私。
どうして嬉しそうじゃないの?と聞かれるのが怖いのかもしれない。
「今日は何だか疲れてるから家でぼーっとしてるよ。」
”ぼーっとしてるって”
言ってる私が恥ずかしい。
「そうだよ、その方がいいかもよ。ゆっくり休んで明日に備えなって。」
歩美はにこっと笑って私の頭を撫でた。
愛は黙って私を見ていた。
勘が鋭いからなぁ。
人を気遣う事の出来る愛はみんなの様子を良く見ていてさり気無くフォローもいれてくれたり。
バッチリ目が合い愛もまた優しい笑みをみせてくれた。
ごめんよーみんな。
心の中で何度も謝った。
帰りのHRが終わると直ぐに家へと向かう。
家に着くと制服も着替えずにまた机の上の4葉と睨めっこ。
1時間以上悩んだものの結局私はイニシャルを書いて
そおっと英語の辞書にクローバーを挟んだ。
今日から宜しくね。
少々ごついがこの際我慢だ。
ちょっとの不安を抱えつつ食事をする為に部屋を出た。