憧れと好きの違い
神田先輩は話してみたら、とっても面白い人で何度大きな口をあけてしまたかわからない位だった。
ただかっこいいだけじゃなかった事に改めて凄いと思いつつも、いかに表面だけしかみていなかったのだと思い知らされた感じがしてしまった。
それにしても……さっきから今野の手は繋がれたままで、私が笑う度にその手が一層強く握られた。
カウンターから樹里先輩を呼ぶ声がした。
だけど、立ち上がったのは神田先輩。
手で樹里先輩を座っていろよと言う風に促しカウンターに向かった。
その時の樹里先輩の顔を見ていたら何となく状況が読めてきた。
そっか、そうだよね。
こんな綺麗な樹里先輩に彼氏がいないのは、きっと直ぐ近くに神田先輩がいるからなのだろう。きっと神田先輩だってそうに違いない。
それは私の直感だった。
今野は知っているのかな。
ちらりと見る今野の顔は無表情だった。
その顔をみた途端にざわつく私の心臓。
怒ってるのかな
思わずそう思ってしまった。
自然と目が繋がれた手に向いていた。
しっかり握られた手に少しだけ安心するけども……
おまたせ
そう言って神田先輩がコーヒーとカフェオレを運んできてくれた。
これはおまけだよ、とプチケーキまで。
ありがとうございます。
とお礼を言った。
先輩も席に着いたので早速カフェオレを飲もうとカップを持った。
片手だけで持つのはと思い、今野の顔を見て、繋がれた手をちょっと引いてみた。
あっさりと解かれてしまった手。
自分から引いたにも関わらず、寂しく思ってしまった。
本当はさっきから気がついている。
今野が声を出していないことに。
それに気がついてからは、神田先輩の話しもすんなりと頭に入ってこなくて。
さっきまであんなに笑っていた自分は何処かにいってしまったみたいだった。
カフェオレに口をつけてみた。
程よいコーヒーの苦味とミルクの甘みが絶妙だった。
フォークでケーキをつまんで口に入れるとほんのりブランデーの香りがした。
あっさりとしたこのケーキはもっと食べたくなるような、ほっぺが落ちてしまいそうなくらい美味しいものだった。
大好きなカフェオレに美味しいケーキ。
嬉しくないはずないのに。
隣にいる今野のことが気になってしまって、ちょっぴり泣きたくなってきた。
「どうした?香梨菜ちゃん。美味しくなかったのか?」
神田先輩の声にはっとした。
そっか、そうかもしれない。
うぬぼれてるかもしれないけれど、きっとそうだ。
だって、先輩がくるまでは今野普通だったし。
「いいえ、先輩。とっても美味しかったです。また来てもいいですか?もしかしたら一人でも来ちゃうかも。」
「絶対こいよな。香梨菜ちゃんだったらいつでも大歓迎だよ。」
先輩がそう言ってくれたところで私は立ち上がった。
「本当に美味しかったです。これから私ちょっと出掛けたいところがあるので失礼しますね。」
今野はびっくりしたみたいでやっと私の顔を見てくれた。
「行こう、陽人。」
かなりドキドキしながら初めて名前を呼んでみた。
樹里先輩が小さくガッツポーズをしたのが見えた。
もしかしたら、よそよそしい私達に一石投じてくれたのかもしれないなんて思ったりして。
だって、何回も呼ばなくてもいいところまで私の名前を呼んでいたから。
今野はというと。
耳まで真っ赤になって、そっぽを向いていた。
でも横顔はまんざらでもない顔だよね。
私は先輩達の前だというのに大きな今野の手を取って歩き出した。
カウンターの前では樹里先輩のお母さんが満面の笑みで見送ってくれた。
繋がれた手が熱い。
今野も暖かいけれど、私のそれとは比較に成らないほど。
神田先輩とは話していて楽しいけれど、ドキドキはしないんだ。
今野の表情一つで私の心は激しいほど上下してしまう。
これが、憧れと好きの違いかもしれない。
今野のことで頭がいっぱいになってしまう、もうどうしようもないほどに。