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喫茶店

大きな今野の手に私の手が包まれて。


まるで手が別の生き物のようにドクドクしているみたいだった。

緊張してしまっているせいか中々言葉が出てこない。

2人で黙々と歩いているこの状況ってどうなのかしら?

でも不思議と嫌な感じはしなくって。


半歩先行く今野に引っ張られているみたいについて行く。

地元だから良く知っているつもりだったけれど、表通りから一本入ったこの道は通ったことがなくてきょろきょろしてしまう。

そんな私に今野は笑いながら


「大丈夫、変なところに連れ込むわけじゃないから。」

と言ったのだけれど、私はその言葉に身構えてしまって、踏み出す足が小幅になってしまった。


連れ込むってー


「浅田?」

優しい声に反応してしまう私の顔。


「何でもないよ。」

そう言ったのだけれどさっきの連れ込む発言が私の頭の中をくるりと回ってしまっている訳でして。いらぬ想像をしてしまった。

きっとこの前のことがあるからなんだろう。

嫌な事なんてない、反対に……

いけない、いけない。そうは思うのだけれど、とことん変な方向に行ってしまう私の頭の中。

何か違う事を考えなくちゃ。

そうだ、会話会話。

何か話せば大丈夫、とは思いつつも何を話せばいいのか分からないんだよね。


すると、今野方から話掛けてくれた。


「中学の時はさ、こうやって手を繋げるだなんて思わなかったよ。ふざけて笑いあって、お前直ぐムキになってからかわれた奴の背中とか叩きにいっただろ、勿論俺もそんな一人だったけど、お前が他の奴追いかけていくと目で追って、止めろーって念力送ったりしてた。って何いってるんだか俺。」


私にとったら爆弾発言だからそれ。

私の顔で水が沸騰するかもしれない。

それ位顔が熱くて……。


「言ってくれればよかったのに。」

と思わず呟いてしまった私。

途端に握った手がぎゅっとなって。

ちらっと今野の顔を覗いてみると今野は上を見上げていて、顔は見えなかったんだけど、耳が真っ赤で。

それを見ている私も負けじと真っ赤なわけで。

すれ違う人がいなくて本当に良かったかも。


そして、また沈黙が始まってしまった。

中学の頃はぽんぽん言い合っていた仲なのにね。


「あそこだから。」

の声に目を向けるとそこには可愛いお花に囲まれた一軒の喫茶店?

初めて見る所だった。

こんな近くに可愛いお店があるなんて、驚きだよ。


まだ新しいらしく、ベージュ色の壁には少しだけ蔦がはっていた。

お店の周りは色とりどりの可愛いお花がめぐらせてあり、厚みのありそうな深いこげ茶のドアには金色の鐘が付いていた。


今野君は迷う事なくそのドアを開けた。

同時に澄んだ音色の鐘の音がした。今野とはちょっとミスマッチかもと思ったのは言えないね。


一歩足を踏み入れると、木の香りがふわーと広がった。

そして、次に香ばしいコーヒーの香り。

一瞬で虜になってしまった。


店内を見渡すと


「いらっしゃい。待ってたわよ。」

とにっこり微笑む樹里先輩がいた。


言葉が出ずに大きく頷く。


「連れてきてとは言ったけれど、ここまで見せ付けてくれるとは思わなかったわ。」

と。


目線を辿ると、私達のしっかり繋がれた手だった。

慌てて手を離した。


「あららら。余計な事言っちゃったかしら。」

そう言う樹里先輩に大きく手を振って


「そんな事ないですから。」と口篭ってしまった。


じゃあこちらへどうぞ。

と部屋の角にあるテーブルに案内された。


「ブレンドな。浅田はどうする?」

ここに来て初めて今野が口を開いた。


同じものがいいかなと思ったのだけど、目に入ってしまったあの文字が。


「カフェオレお願いします。」

私が注文すると、樹里先輩はにっこり笑って”お勧めよ”と言った後にカウンターに向かって


「ブレンド1つに、カフェオレ2つです。」

カフェオレ2つ?と思うまもなくはじめからそのつもりでいたのだろう、当たり前のように私の隣に座ったのだった。

私は緊張して、目の前のテーブルに視線を落とした。


あっ


重厚な感じの深いこげ茶色のテーブルには透明なテーブルクロスがかけてあって。

その真ん中には、落着いた色の和紙、そして――その和紙にちょこんと置かれた4葉のクローバー。

隣のテーブルにも後ろのテーブルにも大きいものや小さいものなど大きさは様々だったが、やっぱり4葉のクローバーがあったのだった。


素敵


思わず口から言葉が漏れた。


「気が付いてくれたんだね。」

樹里先輩はご機嫌なようだった。


今まで黙っていた今野君が口を開いた。


「ここは俺達の祖母の家があったんだ。喫茶店を開くのが夢だったんだって言って。思い切って喫茶店に改築してしまったんだ。」


ここにおばあさんの家があったんだ。

結構近くなのに知らなかったな。


「そうそれで、今あそこのカウンターにいるのが私の母で、一応ここのオーナーなの。」

見ると、樹里先輩によく似た素敵な女性がサイフォンを暖めていた。

すると目が合ってしまって、慌ててお辞儀をした。

樹里先輩のお母さんは柔らかな笑みを浮かべてお辞儀をしてくれた。


そして、さっきの一言が気になった。

「一応って?」


何となく樹里先輩ではなく今野を見てしまった私。


「じゃんけんだったから。」

ぽつりと今野が呟いた。


「そうじゃんけん。だからみんな分かっているけどすねちゃってね。特に陽人のおばさんなんて、もう二度とグーは出さないって凄かったわよね。」


「そうだったな。でも家ではけろっとしてたけどな。」


「そうだったの?それは初耳だよ。」

と樹里先輩が怪しげな顔をする。

ほんの少しだけど、今野の周りの話が聞けて嬉しくなってしまう私がいた。


カランと鐘のが響いた。


スポーツバックを片手に入ってきたのは神田先輩だった。

その姿を見ていたら、急に今野が立ち上がった。


帰っちゃうのだろうか?と私も立ち上がろうとすると、先に樹里先輩が立ち上がった。


「ハイハイ、分かってますって。」そういって今野の座っていた席へ。


今野は私の隣の席に。


「よう、丁度、席替えタイムだった?」

樹里先輩と目配せする神田先輩は確信犯だろう。


「煩いって。」

そういう今野は照れているようだった。


「こんにちは浅田さん。何か浅田さんって呼び辛いな。香梨菜ちゃんでいいかな。」

これぞ必殺スマイル。


「はい。」

と返事をした。


ちょっと前まではこのスマイルに何度やられてしまったか。

でも不思議、こんなに近くで神田先輩が私に微笑んでんくれているのにあの頃のときめきは全く感じなくなっているのだから。格好いいとは勿論思うけれどね。

って私、一瞬でこんな事を考えてしまった。

テーブル下では今野の手が私の手を握り締めていた。











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