恋のおまじない
私の通っている高校には代々伝わる恋のおまじないがある。
私はそのおまじないをするのに必要なものを探す為、子供の頃に良く遊んだ原っぱへと久し振りに足を運んでいた。
たかがおまじない、されどおまじない。
両思いになりたいとは思うけど、そこまでは欲張らなくてもいい。
少しでも、憧れの先輩に近づけますように。
そう思っていたのだけれど……
その時すでに私の本当の恋は始まっていたのかもしれない。
「おはよう〜」
誰にいうわけでもなく、声を出しながらドアをくぐり、自分の席に着いた。
ここは廊下側のあまり日の当たらない外れの席。
すると、直ぐに麻耶がやってきた。
「香梨菜。見つかった?」
私の顔を見れば解るでしょ!
「まだ、ちっとも見つからないよ〜」
学校帰りに探し続けてもう4日も経ってしまった。
私以外の子は1日、かかったとしても次の日には見つかっているというのに。
「香梨菜は集中力がないんじゃないの。」
なんて、自分は直ぐに見つかったからってー。
少し恨めしい気持ちで麻耶を見上げた。
そう私が探しているのは4葉のクローバー。
4枚枚の葉のうち合い向かって2枚に自分のイニシャル、その間に好きな人のイニシャルを書いて、英語の辞書に挟むんだ。
何で英語の辞書なのかは解らないけど。
そしてクローバーを挟むページも何処でもいいわけじゃなくて。
自分の誕生日と同じページに挟んで置くの。
5月31日の私は531ページという具合に。
その辞書を1ヶ月間、1日も欠かさず枕にして寝ると両思いになれる確率が上がるっていうおまじないなの!
「探す場所変えてみたら?結構目先が変わると見つかるもんなんじゃないの?」
麻耶の言葉に納得するものの。
「場所を変えちゃうと何だか負けたような気がしない?」
なんだか、悔しいじゃない?きっとあるはずなんだから。
私の言葉に反応して麻耶が大声をあげた。
「香梨菜ったら可笑しいよ〜負けちゃうって何?」
その言葉に釣られて歩美と愛がやってきた。
「香梨菜が負けちゃうって?」
歩美と愛に説明する麻耶。
「何か解るかも。」
ふと考え込む顔をみせるも、愛はにっこり微笑み、そう声に出した。
やっぱり愛!解ってくれるんだ。
でも、次の瞬間
「「全然解らない〜」」
麻耶と歩美の言葉が重なった。
解ってくれなくてもいいんだもん。
今度は2人を恨めしい目で睨んでみた。
「まあまあ、みんないい加減にしなよ。2人はもう突っ込まない。香梨菜もそんな目でみないの。それより久し振りにみんなであそこ行かない?」
こうやって愛はいつも私達の仲裁をしてくれる。
私達4人がいつも一緒にいれるのも愛がいるからかもしれない。
生まれ月は4人の中で一番遅いのに一番お姉さんみたいな存在だったりする。
「私はパスかな」
せっかく、仲裁してくれた愛には悪いけど、天気もいいし、今日こそ見つけられそうな気がするんだ。
「香梨菜行かないの?あんたが一番好きなのに!」
麻耶に言われた。
私だって、こんな風に断る日がくるなんて思いもしなかったよ。
あそこというのは1つ先の駅近くのケーキ屋さん。
そのイチゴショートは絶品!
生クリームは甘いのにくどく無くていくつ食べても飽きないくらい。
でも、予算の都合で2つまでしか食べたことはないけどね。
そんなことを言っていたらチャイムが鳴った。
がやがやとしていた皆の声は席に着く為に引かれる椅子の音によって掻き消される。
高校に入学して3ヶ月が過ぎようとしていた。
私は放課後の4葉探しに気持ちが飛んでいたようで、かなり上の空だったらしい。
ちょっと大げさかもしれないけど、あっという間に放課後になっていた。
「香梨菜ぁ、本当に行かないの?」
歩美がひじを突っついた。
「美味しいぞ〜。苺だよ。もうシーズン終わっちゃうんだから」
今度は麻耶まで私の前に来て誘いに来た。
ちょっと後ろ髪をひかれるも、ここは4葉の方が重要だ。
想像しただけでも涎が出てきそうなのを堪えて、教科書をカバンに詰め込んだ。
「じゃあ、お先に」
振り返りもしないで一目散に教室をでた。
あのままあそこにいたら、誘惑に負けちゃいそうだったから。
学校から私の家までバスで20分。
バス停から徒歩で3分の場所にある。
バス停に着くと発車時刻3分前。
タイミングはバッチリで今日こそ見つけられそうな気がした。
直ぐにバスは到着して
先輩に振り向いてもらえますように
まだ見つけてもいない4葉を思い描きながら、バスに揺られた。
バスに乗りながらもちょっとした公園が見えるとあそこにもあるんだろうなぁなんて、思ってしまって。
ぼーっと外を見ていたら私の降りるバス亭だった。
バスから降りると歩く時間も勿体無くて少し早足で家に向かった。
家に着くと靴を脱ぐ事もなく、玄関にカバンを置くと
「ちょっと出かけてくるー」
と家にいるだろう母さんに声を掛け返事を聞く前に自転車に飛び乗った。
「さぁ今日こそ見つけてやるから、待ってなさい4葉ぁ〜」
心の中で叫びながら、公園へ向かったのだった。