3.先生、キャラが立たないです(比喩でイメージをつかめ)
安藤は自分専用のHPを持っていた。
安藤の小説の試し読みが出来る他、Ama○onへのリンクが貼ってある。
他に文庫に載せずボツにした小説をこちらに載せたり、ブログを少々書いていたりする。
ブログには安藤がアドバイスを与えたことなども書いていた。
本人の了承を取って、メールの中身も載せている。
その内容を見た編集長は、小説の書き方を本にしてはどうかと言ってきた。
それに対し安藤は一言。
『馬鹿馬鹿しい』
この男、既にたくさん小説の書き方マニュアルが溢れている中、わざわざ自分が書くまでもなかろうという意味で言った。
が、言葉足らずなせいで編集長を怒らせて、1ヶ月ほど仕事を外されてしまった。
そろそろ別の出版社に移るべきか、そう思いつつ新着メールをチェックした。
『安藤先生のブログ拝見しました。
是非俺にもアドバイスください』
安藤は手をおでこに当てて天井を仰いだ。
自分が貰ったメールの中で一番失礼なメールだった。
送り主があまりに馬鹿すぎて、怒る気にすらなれない。
『君のハンドルネームと書いている小説、何についてアドバイスが欲しいのか、を添えて送って欲しい。
あと、社会に出たら一人称は私を使うこと』
と、とりあえず返信。
しばらくして返事が来る。
『私はゴスロリ好き好き隊2番長と申します。小説家にニャろうで書いている底辺作家です。
先ほどのメール、大変失礼しました。
私にもひょっとしたらアドバイスが貰えるかもしれないと舞い上がり、慌てて途中送信してしまったのです。
一人称についても、これから気を付けたいと思います。
さて、私が悩んでいるのは、キャラが立たないことです。
私の拙作『重力操作チートで魔王も勇者もまるで相手になりません』に登場するキャラについて、読者からこんな感想がありました。
『あなたの作品のキャラは金太郎あめやカマボコみたいに、同じのしか出て来ない。つまらない』と。
私は必死に考えてキャラに個性を与えていたつもりですが、読者視点ではキャラが立っていなかったらしいのです。
悩みに悩み、先生にこうしてメールした次第です。
どうか私の悩みに対し、アドバイス頂けないでしょうか?』
ふむふむ、と安藤は呟く。
該当小説を検索して軽く読み、いつものごとく気付いたことをメモする。
よし、と掛け声とともに文章作成ソフトを立ち上げ、カタカタと文章を打つ。
『ゴスロリ好き好き隊2番長さんへ。メールありがとう。
キャラが立つ=キャラが個性的で魅力があり生き生きしていること、と定義させてもらうよ。
物事を論じる時には、まず言葉の定義があいまいではいけないからね。
さて、君の小説読ませてもらった。
読者の指摘通り、同じ様なキャラばかり出てくる。
何故? 君が同じ様なキャラばかり書くからだ。
では何故そうなってしまうのだろうか?
まず、君は物を知らなさすぎる。
作家というのは、自分の知っていることの延長でしか物語を書けない。
だから自分の見聞を広めるために読書したりブログを読んだり旅行したりボランティアに参加したり……。
色んなことをやっているんだ。
キャラについても同じ。
知っている価値観を持つキャラ以外は、どうしても生き生きと書くことは出来ない。
きちんとイメージ出来ないからだ。
だから、君が色々なキャラを書くためには、色々なキャラを知らなければならない。
それが架空であれ、実物であれ。
君もパソコンの前に座ってばかりでなく、外に飛び出してみるといい。
まだ若いのなら、いくらでも吸収して成長出来る。
私みたいな老人と違って。
ま、一般論よりも、今すぐ役に立つ方法が君は知りたいのだろうね。
だからこんなつまらない説教ではなく、一つの考え方を教授してあげよう。
ずばり、比喩を使うんだ。
人物を描くには、イメージが大事だからね。
例えば動物を使ってみよう。
豚のような女、白鳥のような女。
どうだ?
おおまかな体型くらいは浮かんだのではないだろうか?
では性格。
ゴキブリのような小男。アリのような男。
前者がこそこそおちつきなく動くような男で、後者は堅実に働く男だ。
例えを使った方が分かりやすいだろう?
我々書き手は、自分が分からないことはどうしても書けない。
分からないなりに理解し、思い描くことが大事だよ。
いろんな例えを使って、君のキャラを作ると良い。
例えが似てる場合、キャラが被っているということだ。
その場合は遠慮なくボツにして、新しいキャラを作ればよい。
受けるキャラというのは、私の主観だが、しっかりと個性を持つキャラであると思っている。
まるでそのキャラが生きているかのように、会話が本当に聞こえそうになるように書くことが出来れば君は一人前だ。
君が魅力的なキャラを作れるようになることを祈って。安藤将正』
この男、上から目線で独善的である。
安藤はメールを返信して満足し、自分も小説家にニャろうに小説を投稿することにした。
なにせ、急に1ヶ月も仕事が無くなってしまったので。
書き続けなければ鈍るのは、小説の世界でも変わらないのだ。
後日、ゴスロリ好き好き隊2番長の小説は何度も改稿された。
そして、キャラについての文句のうち、少なくとも同じキャラばかりであるという意見は消えた。
小説の人気については、まだまだ発展途上である。
そして、謎のハンドルネームANDOO!による、1ヶ月間だけの連載小説が始まった。
ANDOO!の小説はそれほど評価されなかったが、一部のファンが付くこととなり、連載終了を惜しまれた。
1ヶ月後、安藤を担当していた編集長が異動になった。
独断で安藤を遊ばせていたのを社長にバレて、怒られたらしい。
面白い方法としては、適当なキャラ3人を足して3で割る、みたいなのもあります。




