2.先生、ネタが思いつきません(結末を決めろ)
『拝啓。安藤先生、突然のメール失礼します。
先日は友人のぴぴぴ電波少女さんの相談に乗ってくださり、ありがとうございました。
彼女はとても喜んでいました。
私も同じく『小説家にニャろう』で小説を書いているゲロ蛙3号という者です。
よろしければ、小説のアドバイスを頂けないかと思い、勝手ながらメールを送りました。
伺いたいこととは、『話のネタの作り方』です。
先生がどうしても秘密にしているのでなければ、是非とも教えてもらえませんか?
誠に勝手なお願いだと思いますが、どうかよろしくお願い申し上げます。』
安藤はメールを見て、ほくそえんだ。
自分のアドバイスが1人の小説家の役に立ったというのは、彼にとって悪い気はしなかった。
以前の安藤は『小説家にニャろう』のことはあまり知らなかった。
が、ぴぴぴ電波少女の相談以降、ちょくちょくニャろう小説を読み漁っていた。
最近の若者がどんな小説を求めているかを調べるために。
安藤はゲロ蛙3号の投稿した小説を検索し、読む。
ジャンルはファンタジー、主人公は転生した男、神様からチートという超能力をもらい、無双してゆく。
ふむ、よく見かける話だな。安藤はそう思った。
小説は最新話から2ヶ月ほど更新が止まっている。
安藤は以前と同じく、自分なりの解析を手持ちのメモ帳にメモし、アドバイスを考える。
よし、と掛け声とともに文章作成ソフトを立ち上げ、カタカタと文章を打つ。
『ゲロ蛙3号さんへ。メールありがとう。
話のネタの作り方ってのは、作家同士でもよく話す話題の1つだ。
言うまでもなく作家によってずいぶんと異なる。正解なんてない。
いや違うな。正解は1人1人違って、全く同じということはないんだ。
君に合った方法は、君自身が見つけるべきだ。
とはいえ、そんな投げやりな回答を君は望んでいるわけではないのだろうね。
きっと藁にもすがる思いでメールしてくれたはずだ。
だから、1つアドバイスを送ることにしよう。
君の小説、少々読ませてもらった。
テンプレートに沿った、ニーズに応えた無難な小説だった。
そして、テンプレートを使用して済ませられる話が無くなってしまったみたいだね。
更新が止まっているのは、話が思いつかなかったせいなのだろう。
君の小説の何が問題か、それは、終わりを決めていなかったことだ。
終わりとは何も、小説のラストだけの話じゃない。
各章の結末、各話の結末、それをどうしたいのかを明確に意識することだ。
え? 決められない?
大まかにでいいんだよ。
もっと言えば、最初に決めた結末通りにしなくたっていい。
あくまで目安だ、目安。
目安さえあれば伏線を張ったり回収することが容易になるし、話を筋書き通りに進められる。
脇道しても、すぐに軌道修正することが出来る。
目的地がしっかりしていないと、歩兵は歩くのが苦痛になるそうだ。
文章家だって同じだ。おおまかな最終目的の目安がなきゃ、やってられない。
だからその目安が決められない?
そんなわけがないだろう。
ありきたりでいいんだ、ありきたりで。
決められないのは、凄いラストにするぞーって、背伸びしすぎて自滅しているだけなんだ。
大丈夫。最後に至るまでの過程をしっかり丁寧に書けば、読者はきっと納得するはずだ。
君が話作りに困らなくなることを祈って。安藤将正』
この男、上から目線で独善的である。
安藤はメールを返信して満足し、久しぶりに小説仲間と食事にでも行くか、と電話をかけることにした。
後日、ゲロ蛙3号の小説の更新が再開した。
1~2週に1回くらいのマイペースだが、それでも再開した。
感想欄には、「おかえりなさい」コメントがいくつかあった。




