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戦国浪漫  「愛乱武優」  作者: 三ツ星真言
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母上の怒り

「こんな夜遅くどこに行っておった。」

 百合姫の正体がばれぬよう、着物を着せ替え、頭巾を被せて、

屋敷に連れて帰った柔磨を待ち受けていたのは、般若の形相をした

母上であった。

「それは母上もご存じのはず。

 私が手にかけた者の冥福を祈りに行っておりました。」

「それはわかっておる。お前は優しい子じゃ。

 しかし、その女は誰かと聞いておる。」

「はい、戦で家を失い、行き倒れになった娘でございます。

 それが、何か。」

「噓つきは泥棒の始まりと、教えておったはず。

 いや、私の眼を節穴と馬鹿にするか。

 その女は、百合姫であろう。

 お前に武芸を仕込んだのは、誰か忘れたか。

 仮死の術を教えたのも、この私じゃ。」

 そう言い放つと、母上は激しく女の頭巾を取った。

 果たして、その頭巾の下に現れたのは、美しい百合姫であった。


「この女狐め。よくも、息子をたぶらかしたな。

 成敗してやる。」

 いつの世にも嫁姑問題は起きるものである。

 母親というものは、いくつになっても息子が可愛くてしょうがない。

 恋人でさえも、敵とみなすものである。

 巴御前の生まれ変わりと呼ばれる武芸十八搬の母上は、腰の刀を抜き、

神速で百合姫に斬りかかった。

『斬られた。今日で死ぬのは、二度目か。』

 百合姫がそう思い眼を閉じたが、様子が変であった。

 恐る恐る眼を開けると、百合姫の前に柔磨が立ちはだかり、

真剣白刃取りを行っていたのである。流石である。

「母上、どうか刀を納めください。

 私は、百合姫をお慕いしております。」

「何、惚れたとな。お前がか。

 家中のどんな美女に言い寄られても心を動かすことがなかったお前がか。」

 母上は息子を奪われたと、嫉妬の炎を燃やした。

「はい、愛しております。」

 横にいた百合姫の顔が赤くなるほど、潔い返事に母上は唖然となった。

「この大馬鹿者め。牙王様にばれたら、一家断絶。 

 私とお前は仲良く張り付け獄門首。いや、それで済んだらましじゃ。

 両手、両足に縄をかけて四匹の牛に引っ張らせ八つ裂き、火あぶり、

生きながらの鋸引き・・・。ああ、恐ろしい。考えただけで、こう胸が

苦しくなる。」

 母上は納刀すると、今度は、か弱い母親を演じた。


 その姿にいたたたまれなくなった百合姫が、

「私が出ていきます。」と叫ぶと、柔磨が止める。

「百合姫様が出ていかれると、直ぐに牙王様の手に捕まります。

 そうなると、母上、困りますよね。」

「ふん、勝手にいたせ。今晩だけじゃぞ。

 明日になったら、放り出す。

 よいな。それから、夕ご飯が残っておる。

 捨てるのはもったいない、処分を任せる。」

 初めて息子に反抗された母上は、そう言い放つと自分の部屋に

戻って行った。



 



 


 


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