大魔王の企み
虎王院牙王は、家老を呼び寄せ、声高らかに命じた。
「家中にお触れを出せ。
『 兵士の士気を高めるべく、武芸試合を開催する。
優勝者は、ワシの武芸指南役として召し抱える。』とな。
それだけでは、ないぞ。
試合を盛り上げるべく、まず最初に関口柔磨に試合を
させるのじゃ。よいな。」
「御意。」
その相手は先の合戦で滅ぼした隣の国の城主の娘、百合姫であった。
「百合姫の捕らえられて生き恥をさらすより、実際に父の首を獲り、
命を奪った仇である関口柔磨と刺し違える覚悟で戦いたいという本人の
強い希望に、痛く感動して、試合をさせてやるのじゃ。
ワシは慈悲深いからのう。」
本人はそうのたわまっているが、実のところ、三国一美しい百合姫を
愛人にすることができなかった腹いせで公開処刑にするのだとと秘かに
囁かれていた。
家老もそこら辺の所は見知っているが、逆らうことはできない。
ワンマン上司に逆らえないのは、今の世と同じである。
それはさておき、家中の目立つところに立てられたこのお触れに、
ちょっとした騒ぎとなった。いつの世でも、民衆は騒がしい。
「お姫様相手に、どんな試合をするのかのう。」
「やはり、手加減とかするのか。」
「いやいや、それは相手に失礼と言うもの。」
国の英雄である関口柔磨が果たして、どんな試合をするか
色々噂されていた。
「そんなことより、優勝者は誰か。」
「あいつじゃないか。」「いや、それはない。」
「じゃあ、賭けようか。」「おう、望むところじゃ。」
とうとう、国を挙げて賭けが行われるようになった。
賭けの胴元を操る者は、もちろん虎王院牙王。
やはり大魔王と言いたいところだが、大魔王のその真の目的に
気づく者はまだいなかったのである。




