公開処刑で・・・・
謎の美女の公開処刑の日が決まった。
恐らく牙王が美女を責め立てるのに飽きたに違いない。
柔磨は謎の美女の正体も気になり、その身も心配でたまらなく、
幾度となく接触を試みたが警護が厳しく、断念していた。
いよいよ公開処刑当日、柔磨は新しい武芸指南役として牙王の真横に
特等席を用意された。
牙王の魂胆は十分わかっている。
柔磨に対する敬意どころか、完全なる悪意。邪悪と言えよう。
『美女が無残に死にゆく姿を目に焼き付けるがよい。
心優しいお前が苦しむ姿が、楽しみじゃ。』
牙王の顔が、魔王の如く笑っていた。
見物客は牙王のせいで刺激に飢えていた。いや、血に飢えていると
言ってもよいであろう。
牙王の命を狙った罪人にどんな刑罰が下されるか、楽しみでたまらない。
刑場に引きずり出された罪人を見て、見物客はどよめいた。
先日の百合姫に負けず劣らずの美しさで、気品がある。
「牙王が滅ぼしたどこかの藩のお姫様に違いない。」と、噂しあった。
そして、罪人に刑罰を下すものが、姿を現した瞬間、見物客は恐れおののき、
悲鳴を上げた。
今まで見たことのない大型の生物、美しい黄色の毛並みに黒い縦の縞模様がある。
虎であった。
古い日本の伝統文化を嫌い、南蛮渡来の文化に執着する牙王らしい。
「虎と言ってな、密林の王者とも言われておる。」
「さようでござるか。」
口では軽く流したが、いてもたってもいられない気分であった。
愛した百合の面影がある美女が生きたまま喰われる姿を想像し、柔磨は両拳を
爪が食い込むほど固く握りしめた。
「あっさり喰われれてしまっては面白くない。かと言って、刃物を与えて
自害されたら台無しじゃ。」
牙王は美女に鞭を持たせた。ここまでくると、牙王は人の皮を被った悪魔である。
虎が勢いよく飛び出すと、美女に襲い掛かった。
「うおっ。」
美女がかわしたので、見物客は歓声を上げた。
ビシッ
美女が鞭で反撃を試みるも、素人の鞭が野生の虎に当たるはすがない。
虎にあっさりかわされ、逆に鞭を奪われた。
「うわあああ。」
寸鉄も帯びない美女に虎が涎垂らしている姿を見て、見物客の興奮は
高まった。
まさに、虎が美女に飛び掛からんとしたとき、阻止せんと刑場に
飛び降りた者がいたのである。