白菊の化身
狙撃手は若く美しい女であった。
身にまとう気品、気高さ・・・・・。
白菊の化身、そう思えた。
それだけではなかった。
何故か、その美女に、最初で最後の恋人、柔磨が心から愛した百合姫の面影を
見てしまったのである。
「百合・・・・・」
思わず、悲痛な叫びをあげてしまった。
謎の美女の怨念と憎悪で溢れる瞳に、戸惑いが生じた。
その時であった。背後から、襲われた。
ビューン
いつもの柔磨なら、ここまで敵の接近を許さないが、心が動揺していたのであろう。
危ない。首が飛ぶところであった。
地面に前方回転してかわし、振り向くと、初老の婦人がいた。
「姫様から離れろ。憎っき牙王の手下にして、百合姫様の仇。
成敗してくれる。」
初老の婦人は、中々の剣の腕前であったが、柔磨の相手にはならない。
しかし、その気迫、謎の美女を守らんとする必死さに亡き母上の姿を見た。
事情を詳しく聞きたいところであったが、家来を引き連れた牙王が
駆けつけてくるのが見えたので、いたしかたない。
「拙者は、百合を殺していない。」
それだけ告げると、柔磨得意の重ね当てを心臓にお見舞いした。
「伯母上~。」
謎の美女が悲鳴を上げる中、意識を失い、地面に倒れ込む。
「ふふふ。わしのために、年老いた女をも手にかけるとは、
見上げたものよのう。
さて、その若い女を連れて行け。
この牙王様の命を狙ったことを、後悔させてやる。」
残虐な喜びに満ち溢れる牙王に、柔磨はたまらなくなり声を上げる。
「牙王様。」
「何じゃ。」
「いえ・・・、この女の方はいかがなさいますか。」
「お前に任す。そこに捨て置くもよし。良きにはからえ。」
「御意。」
牙王の頭の中は、この若く美しい女をあらんかぎり責め立てることで
一杯だったのである。超ド級のS。
家来に命じて舌をかまないように猿轡をかませ、身動きできないように
縄をかけて、早々に城に戻って行った。