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この一瞬が続きます様に。

作者: みかんネコ

ここが真に現実の世界であろうと、ゲームの世界であろうと、物語の世界であろうとそう大差はないのだろう。

なぜからいつだって、運命は必然と言いかえてしまっても差し障りはないのだろうから。




「ここが今日から貴女が通う学校だから。良く見て 」


私の両親は私がこの学校を初めて見るものだと思ってそんなふうに言ってくれる。ほんと優しい両親だ。


だけど私はこの学校を知っている。知っているのだ。ただの足の一つも敷地内に入ったことがないくせに。私はこの学校の保健室の位置も、図書室の位置も知っている。ついでに言ってしまえば、校長の頭がテッペンだけ寂しいことも知っているし、私がこれから入るクラスも知っている。


なぜならそれらは全て必然だから。

これらは全て茶番なのだから。

一つの壮大で純情な物語のための。

そのために私が居るのだから。


私は生前、単なる女子高生だった。数学が嫌いで、国語はまぁまぁ。だから文系に逃げ込んだようなそんなありふれた高校生。


そんな私は弟の影響で、ゲームが好きだった。モンスターと友達になってボールに入れて持ち運んでバトルするゲームとか、配管工のオジサマが攫われたお姫様を助けに行くゲームとか。結構弟とカセットを共有していた。二つも同じカセットをわざわざ買うほど、うちは裕福じゃなかったから。


そんなゲーム事情を抱える私でも、弟と共有しなかったカセットがある。ソレはいわゆる乙女ゲームと言われるジャンルのもの。好きだった。こっそり買ってこっそりプレイして、こっそりグッズを集めるぐらいには。公式本も二次創作も読み漁って、公式設定は丸暗記した。それぐらい好きだった。


そして私は今、そんな大好きだったゲームの世界にいる。


「もしかして緊張してるのかい?」


そう私を心配してくれているのは、幼馴染みであり、婚約者のユクト。細身の体に、蒼い髪がサラリと揺れる。


「大丈夫だよ。サヨは可愛いからね。きっとすぐに友達ができるよ」


可愛いなんて。そんな気安く言っていい言葉じゃない。勘違いしそうになる。

彼が私の事、好きだって勘違いしそうになる。


コホッと軽く咳が出るユクトに貴方の方が大丈夫?心配すると、大丈夫だよと言われてしまった。でも今日のユクトは物凄く元気そうだから私も安心できる。


さぁ、行こう、と手を差しのべる彼に私は笑顔を貼り付けた。そうじゃないと手を重ねるなんてとてもできやしないから。


ユクトを盗み見ると、ユクトは今日物凄く楽しそうだ。ワクワクしているのが私にもわかる。


「ユクト今日ものすごく楽しそうだね」

「サヨと同じ学校に通えるからね」

「それだけじゃないでしょ」

「もちろん。新しい自分の居場所ってワクワクしないかい?」

「ちょっと分かるかも」


新しい場所はワクワクさせてくれる。でも私にとってここは新しい場所じゃない。ここは私がさんざん遊んだ乙女ゲームのメイン舞台なんですもの。そしてここは私が失恋する場所でもある。


そう、失恋。私の婚約者は攻略対象だ。ヒロインに攻略される人。なら妨害すればいいって思った?残念。それはできない選択なの。


「ユクト、式場に行く前に新しいクラスがどこか見に行かない?」


式場にはヒロインがいる。できるだけ彼を彼女に合わせたくない。分かってる。これは私のワガママだって。でも止められない。


「同じクラスだといいね」

「そうね」


ごめん、ユクト。私貴方と同じクラスじゃないの。貴方はヒロインと同じクラスよ。良かったわね。


「サヨ、どうしたの」

「えっ」


ユクトが足を止める。つられて彼の顔を見れば彼は悲しそうな顔。


「今日のサヨ、おかしいよ。最初は緊張しているのかと思ったけど違うよね。どうしたの」


あぁ、ほんとユクトは優しいなぁ。私には勿体ないよ。そっか、勿体ないからユクトはヒロインにとられちゃうのか。納得。


「何でもないの。ちょっと不安なことがあるだけ」


私は肩をすくめて笑ってみせる。だけど変な所で鋭いユクトには全部見透かされているようなそんな気がする。


「僕になにか出来ることがあったら言ってね」


ずっと隣にいて。


そう言いたかった。

けれどその言葉は私は言ってはいけない。言っていいのはヒロインだ。

私がここで言ってしまったら彼は優しいから、ヒロインとお付き合いするのに後ろめたさを感じてしまうもの。

だから私はユクトに愛を伝え事はただの一度も無い。


「じゃあユクト。ユクトが毎日元気に学校に来てくれると嬉しいな」


そして早くヒロインさんの心を射止めてね。


「そうだね。頑張るよ」


風が吹く。桜の花びらがふわり舞っては落ちていく。なんて幻想的。


「綺麗だね、サヨ」

「ええ綺麗ね。ユクト」


花びらの量が増えて遠くが見えない。まるで私たち二人しかこの世にいないみたいに錯覚する。隣にユクトがいる。桜に映る影を見ると私たちは手をつないでいてまるで彼氏と彼女みたいだ。


でもそれもきっとここまで。

明日から本格的に乙女ゲームが始まる。ユクトはヒロインに攻略されて貰わないといけない。攻略して彼の病気を直してもらわないといけない。


分かってる。分かってるけどお願い。

この一瞬の奇跡のような時間が一生続きます様に。

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