このイベントは私が頑張ります(12)
駒川は幽霊である。学校では存在していない。いや、存在はしていても誰にも見えなかったのだ。
大淀は幽霊であった。学校では存在していなかった。誰にも見られることはなかった。しかし一人の手によってそれは救われることになる。そう南森の手によって。
(これは……私が頑張らないといけないことなんだ)
そう自覚する。だから足を強く踏みこみソフトボール部の部室へと向かった。駒川を現世の世界に連れ戻すために。
しかし、そうは言ったものの彼女は初対面の人と話すということはできない。少なくとも自ら話しかけたことはなかったのだ。
だから部室前で立ち止まってしまう。ここから一体どうやって駒川を救おうか。何も作戦など考えていなかった。その後悔が今になって襲い掛かる。
(私は……一体なんていえばいいのだろう)
分からない。知らない。追い返されるだろう。もしかしたら叱られるかもしれない。とにかく怖い。そう感じていた。
そんなこともあって大淀は部室前に数十分立ち止まったままとなる。
それからしばらくして、部室の鍵がガシャリと開く。そこに、相変わらず不愛想な少女が出てきた。
その瞬間大淀は心臓が一気に跳ね上がる。駒川だ。
(……来た。なんていえばいいのかな)
やはり南森を連れてくるべきであったか。しかし彼を連れて来てもどうせ交渉しないだろう。だから意味がないことは知っていた。
(とにかく口を開け)
口が重い。何もしゃべることが出来ない。
「そこで……何をやっているの?」
先に口を開いたのは駒川だった。訝しむかのような表情で大淀を見つめていた。
「……えっとですね」
額からは大呂の汗。まさか向こうから話をかけてくるとは予想だにしなかった。
「もしかして覗き?」
「違いますよ。私は女ですし……」
「最近女でも儲けるために盗撮とかする人がいるし。まっ違うならいいわ」
駒川は彼女が盗撮ではないことが分かった瞬間興味がなさそうにその横を通り過ぎて練習をしようとしていた。よく部室を耳すませば中からは騒がしい女性の声。どうやら他の部員はまだこの中にいるらしい。
そこでまたこの間の交渉の時のことがフラッシュバックする。そういえばあの時も一人だった。他に部員がいなかった。
部室からはロンとかという声が聞こえる。
(よりによって麻雀か)
それならぜひ麻雀部へ行けと思ってしまう。まぁ、もし全国大会があるとしたら奈良県のとある高校にボコボコにされると思うが。ここは兵庫だし。
「まってください。先輩!」
「せっ……!?」
驚いたかのように足をとめる。そして顔を赤くして振り向いた。
(あれ……何故か精神的ダメージを受けている?)
そして駒川は大淀の方へ顔を近づけた。
「いい? あなたはソフトボール部じゃない。だから先輩でもなんでもない」
「でも……同じ中学出身じゃないですか。それなら先輩というんじゃ……」
「言わない。それ絶対に言わない」
「取りあえず今は先輩ということにしてもらえませんか?」
「無理。絶対に無理」
ドンッと大淀を突き放した。
「それで駒川先輩」
「だから……私は」
はぁとため息を吐く。そして一言。
「どうせ……球技大会のことでしょ」
「はい」
「一応言うけど無理だから」
「何でですか?」
「今は大会が近いから。怪我をしたくない」
「そんなの建前じゃないですか!! 私にはわかります」
それでも何も語らない。そして無視するかのようにそのまま去ってしまった。
(……結局何もできなかった)
これ以上駒川と交渉しても何もできないような気がする。恐らくそれは正しいだろう。結局はやってください無理の言い争い。そして仮にそれで了承したとしてもそれは南森の言う『強制』というものになってしまう。だからできなかった。
「それなら……どうすれば」
考えるんだと自分の心の中で聞かせる。自分が南森になる。もし南森ならこの時一体どうするのだろうか。というよりどうしたのか。
多分……そして一つの光が見えてくる。
(そうか)
大淀は走りだした。そう、多分あれが出来る。予算がないのだから。予算がないからこそ。その逆を考える。
そして校舎を駆け上る。運動神経の悪い彼女は階段を昇りきったところで一旦休憩をした。そしてしばらくして……とある部屋にノックをした。
そこは地理準備教室。中津がいる場所だ。そして
「今度はお前か。めんどくせ」
いきなり先生らしくない言葉が飛んできた。
「はい。私です。予算のことなんですが?」
「だから予算増額は無理となんど……」
「いえ、違います。その逆です」
そう彼女は口を開いた。予算を増やすことが無理ならもうそれでいい。だからその代わりに……




