このイベントは私が頑張ります(10)
「それで……あと残り1人だったのですかソフトボール部に断られてしまって……」
「それに対して南森君は一体どんな反応をしたわけ?」
「しょうがないって言っていました」
昼休み、大淀は長柄の教室にお邪魔して一緒に昼ご飯を食べていた。
中崎西高校には違う学年の教室に入ってはいけないという校則はなく、この二人が一緒に弁当を食べるのは珍しいことではない。
「本当にそれでいいのですかね」
「別に、南森君がそう判断したのだからそれに従うしかないわね」
「だけど……これだとみんな協力をしたことに」
「いや、元から文化部とか協力していないでしょ。それなのにソフトボール部も協力しろはそれこそ南森君が言っていた『強制』になるわよ」
「……確かにそうですけど」
違う。そうじゃない。そう言いたいが言葉が思い浮かばない。
「まぁ、とにかくこれはしょうがない。むしろやってくれる部活が協力的過ぎると考えるべきね」
長柄の担当した部活も全員許可が貰えたらしい。ついでに堂山も。
「でもやっぱり……違う」
「どこがどう違うのかしら?」
「……いや、その」
口をパクパクと動かすがやはり言葉が出ない。それを見た長柄はプッと息を吐き出し、その後声をあげて笑った。
「やっぱり似ているわね。大淀さんと南森君は」
「それってどういうことなのですか? 嫌味なのですか?」
「あら、違うわよ。私はちゃんと南森君を尊敬しているし。大淀さんは?」
「私は……その……」
手に持っていた箸を止める。
「尊敬は……していないけど。でもやっぱり……凄いなとは」
「それは尊敬しているというのではないかしら?」
「違います。羨望です」
「それって同じようなものでは」
「羨望と尊敬はまったく違う言葉です!! 広辞苑でもひいてください」
「そうね。鳥取と島根ぐらい違うわね」
「それは一緒です!!」
流石にこれは鳥取県民に謝らないといけない。いや、鳥取県民だけじゃない。鳥取県生まれの人に謝らないといけない。
鳥取と島根を一緒にする人がいる。しかしそれは大きく違う。よく鳥取と島根の関係を聞かれたら『あれでしょ? 滋賀県と琵琶湖みたいな感じでしょ』とかいう輩がいう。だがしかし! それとはまったく違う。第一、鳥取県には湖山湖、島根県には宍道湖という立派な湖があるじゃないか!
鳥取県は梨とらっきょうとスイカ。島根県は……松江と出雲と浜田。こんなにも違いがある。それなのに一緒にされるとはけしからんことだ。
兵庫県と隣接しているのが鳥取。何故か関西連合に加盟しているのが鳥取と覚えれば覚えやすいだろう。そう、鳥取には関西連合に加盟できるほどの力を持っているのだ。ロシアがEUに加盟ぐらいあり得ない気もする。でも実際に加盟している。
しかしそんな鳥取と島根にも悩みがある。それは安来市が一体どっちなのかだ。これは何かニュース番組で司会しているとある人もナチュナルに間違えていた。そしてそれに対して鳥取県生まれの遠い人物も気づかなかった。
「流石に鳥取県と島根県は違うわ」
「そうなのですかね」
「そう、バーロで有名になろうとしているほうが鳥取だわ」
と言っている間に長柄の弁当箱は空になっていた。
「とにかく……南森君が凄いことは認めるのね」
「悔しいですが。それははい。認めます」
「そう。大丈夫。私だってあなたみたいに南森君が凄いということを認めたくなかった時があったわ」
「そうなんですか?」
「そうね」
それはまだ長柄が生徒会に入ったばかりの時だった。長柄は中学時代には委員長など数多くの委員会をやってしばしば人前には出ていた。だから南森よりも仕事ができるという自信があった。そして勝負を挑んだ。
「やっぱり私は南森君には勝てなかったわ。あなたは南森君に勝負したいと思っているのかしら?」
「まさか。私は……アイツに勝てるなんて思ったことありませんし。だけど……近づきたいと思ったことはあります」
「そう」
「そして私は思ったのです。もし、ソフトボール部を説得させることがあったら私はアイツに近づけるのかなって」
「それは強制じゃなくて」
「勿論。納得をさせるのです。このイベントは私が頑張ります!!」
「そう」
大淀の弁当箱にはまだ、半分ほど弁当が残っていた。その中で長柄はハンバーグをヒョイっと取り上げる。その時、彼女の口から思わずあぁ、という声が漏れてしまう。
「それなら早く弁当を平らげなさい。休み時間まであと30分しかないわ」
長柄は大淀の弁当を次々に食べていく。それは平らげるのを手伝っているというより自分が食べたいから食べているようにも思える。
「私も大淀さんをサポート出来ることがあればするから」
今の長柄には大淀の顔は少し小さめの自分に見えた。
あの頃、どこに進めばいいのか分からなかった自分のように。そして南森に進められその道を進むことにした自分のように。あの時、長柄は南森に完敗したのだ。




