このイベントは私が頑張ります(9)
「なんだか……凄い部活だったね」
文芸部を後にした大淀がそう漏らす。
「あぁ、ただ問題なのはこれからもっと問題な場所に行くからな」
「問題? 承認してくれるかどうかわからないっていうこと?」
「いや、そうじゃない。多分承認はあっさりしてくれると思うよ。だけど……少しお子様には刺激が強すぎるというか。R18指定にしないと駄目っていうか」
「そんなこと私は行きたくない」
「僕だってそうさ。出来るならな。だけどここを長柄達に任せるわけにいかないし……」
そして、二人は別校舎にある『部室棟』へ向かった。そこの二階。バドミントン部の隣にある部室にお邪魔する。
「ここが問題の部室?」
「あぁ……」
そこの表札にはテニス部と書かれている。
「部員自体はかなり真面目でいい人しかいなんだ。本当に問題なのはこの教室だけなんだ」
「まさか、不良?」
「いや、部長はいい人だよ。ただね……まずここに入るのに気をつけないといけないのはノックしないといけないこと」
コンコンとノックをする。するとすぐさま内側から鍵を開ける音が聞こえてくる。
「よかった。今日は何もない」
そしてそのまま扉を開けて中に入っていく。その途端、大淀は思わず鼻をつまんだ。さっきの文芸部とは違う匂い。これは人工的につくられたものだ。そう、香水の匂い。
それは鼻にそのまま突き刺さり匂いという感覚を失わせていく。
「はい。今日は何しに来たのかな?」
そしてそこに立っていたのは一人の少年。髪は長くまるで女子のようだ。手にはたくさんのキラキラの指輪。そして大淀が疑問に思ったのは部室内に置いてあるベッドだ。
中崎西高校は部室に関しての校則は緩い。だから部室にベッドが置いてあったとしても何も問題はない。しかし、やはりテニス部がベットを置くのは違和感がある。
「……いや、少しな。お前に用事があってここに来た」
「もしかして注意しにかな?」
「いや、依頼だ。っていうかまた女の子をここに誘い込んだのかよ?」
「勿論。さっきノックする音がしたからそこの本棚の後ろに隠したよ」
「それ言っちゃうんだ!」
「それにしても、可愛い女の子が後ろにいるじゃないか」
「あぁ、これには手を出すなよ」
「分かっているって。人様の彼女に手を出したりはしないさ。というより人様の彼女には一切の興味を持てない」
「なっ!!」
大淀は顔を赤く染める。そして足に力を入れた。今にも南森を蹴りそうだ。
「それで……依頼ってなんだい?」
「あぁ」
今回のイベントのことについて細かく話す。そして……
「あぁ、別に問題ないぞ」
「そっか。それじゃ、僕はここを失礼するぞ」
「早くいってくれ。俺たちはこれからこのベットを使用するつもりだったのだから」
それは一体どういう意味なのか。多分知りたくないだろう。知る必要がないのだろう。
結局二人はそのままテニス部を後にする。
「いや、あいつは他校の女子だろうがお構いなしにこの学校に呼んでくるからさ。ただ呼んでくるなら問題ない。だけどこの部室でR18なことをしたりするし」
だからアイツは危険なんだ。と南森は説明する。しかしその説明は大淀の耳から通り抜けているようだ。
彼女は顔を赤く染めて肩を震わしていた。よく見ると唇も震えている。
(なぜだろう。心臓もだんたん……)
これは多分、南森のせいだ。そう感じた大淀は取りあえず……
「誰が彼女よ!!」
「それを言ったのはアイツだぞ!?」
取りあえず目の前にいた南森を蹴る。本当に大淀にとっては不思議な感情だ。これでもすっきりしないのだから。
それから、二人はあちこちの部活に色々と依頼をする。
まずバレー部。
「それででかい胸にお願いをしたいのだが」
バレー部の部長はまるで胸あたりにボールをいれているかのような大きさだ。
「もう……南森は変態なのだから」
取りあえず許可を貰えた。
その次に陸上部。その部長は身長が小さくツインテールに髪を纏めていた。外で見た時は小学生と間違えそうだ。
「それで、陸上って身長とか関係ないのか?」
「そんなわけないのだ」
今にも噛みつきそうに八重歯むき出しで陸上部部長は言う。
「だけど、とにかく早く走れば問題ないのだ」
「でも身長とか関係あるんじゃ……」
「うるさい。噛みつくぞ」
ここも最終的に許可を貰える。
「それで……どうしていつも卓球部ってこんなに不遇なのか」
ヒョロリとした眼鏡の人物がそう愚痴る。卓球部部長だ。
卓球部員たちは体育館内ではなく、校舎内でもなく、体育館裏で卓球をしていた。
「そうだよな。よくスポーツ漫画では強豪校に外に追い出されたりしているよな。野球部の室内練習とかのために」
「そう……俺達だって頑張っているのに」
シクシクと泣き始める。これには苦笑いを浮かべるしかできない。
「大淀はこれをなんとかすること」
「無理に決まっているでしょ」
「ですよね」
後で中津先生にでも相談をしよう。そう考えてしまう。絶対に嫌な顔をすると思うけど。あの先生に『協力』というものがないのだから。
それからテニス部(女子)、バスケ部などにも許可を取る。
その隣を見て、大淀は言葉にならないほど感心していた。誰も、南森を拒む人がいなかったのだ。みんな南森と話している人達は楽しそうに何かを語っている。信頼をしているようだ。
そういえば、自分も最初は南森を信用していなかったって。と気づく。しかしそれもいつからか南森の隣が温かく感じるようになってくる。
自分と話す人はこんな表情をしてくれたのだろうか。どの人達もどこか退屈そうな顔をしていた。まるで業務連絡のような。違う。大淀は求めているものはこんなものではない。みんなと楽しく話したいのだ。決して業務連絡をしたいというわけではない。
「とにかくこれであと、一つかな」
南森の顔が輝いているように見える。
(それなのに……自分はどうなんだろう……)
一体何が出来るのだろう。何もできないだろう。実際今もこうやって南森と一緒にいないと何もできないじゃないか。いや、今だって何もしていない。
中学時代、彼女は一人ボッチだった。それは決して自分から望んだわけではない。ただ何もできなかった。そしてそれが悔しかった。泣きたかった。
そして高校生になったら同じ過ちをしないように誓った。しかし入学して一週間からはまた何も出来ず同じようなことをループしようとしていた。
そんなときに大淀は彼と出会った。
「よし、取りあえず次いくか」
その人は手を差し伸べた。今と同じように。そして大淀の時は動き出したような気がした。
「そうだね」
この人と一緒にいれば何か変わるような気がした。
(だけど……それは違ったんだ)
ソフトボール部はグラウンドで練習をしていた。そこで一人の髪が短い少女に話しかける。彼女が部長らしい。名前を神崎愛美と言った。
「それで……」
今回の依頼のことを話す。その時も顔を一切変えずずっと固い表情をしていた。だから大淀は嫌な予感がしていた。
「嫌です。それは断ります」
その嫌な予感は見事に的中。そして大淀は思う。
(私が変わるには今しかない)




