このイベントは私が頑張ります(6)
「僕に景品をつける?」
突然の意見に驚いたかのように指を指す。
「そう。それでいいでしょ? そうすれば……」
「本当にいいのかしら」
不敵な笑みで大淀の意見に口を出す長柄。
「南森君には1円の価値もないわよ」
「知っている!! だからその価値のないこいつに景品をつけて価値を無理矢理つけるの」
「あの……二人さん。少し酷すぎませんか?」
「本当は喜んでいる癖にデース」
「いや、僕は別にドMじゃないけど。確かにこういうプレイもありだけど」
「そうね。確かにドMの南森君にしてみればこの方法はありたがいかもしれない」
「いや、流石にドッジボールで当たったぐらいでは何も感じないな」
と上級者は語る。
「とにかく……これはどう?」
するとう~んと南森が唸る。
「確かにこれはナイスアイデアだ。採用はしたい。だけど……何かが違う」
「その何かがって何かしら?」
「分からないんだ。それが……」
「まるで小説家みたいなことを言うのね」
小説にも書いているうちに何かが違うと思うことがある人がたくさんいる。またその逆で何も考えずにどんどん書き進める人がいる。
「そう。私の意見では」
大淀にとってみれば自分の意見が完全に否定されたような気分だ。空から降ってきたインスピレーションは間違いだった。小説を書く人にとって見てもかなり凹むところだろう。
「いや、別にそんなわけではないんだよ。少なくとも僕達のアイデアよりもマシだし」
南森の言っていることは当たり前と言えば当たり前。この意見が出る前にでたものと言えば小説を書いてドッジボールの楽しさを広めるというとんでもない意見だったのだから。スラ○ダンクレベルにならないとそれは無理だろう。
「だけど……これにもう一つ何か加えたいなと」
と、言ったところでチャイムがなる。本日の生徒会会議はこれで終了となった。
南森にとってみれば白い靄を頭の中でかけた状態で今日の一日を終えることになる。
その靄は一日寝た程度では晴れることがなかった。次の日。まだ頭の中に靄がかかっている。そのせいか、いつもより学校を30分早く登校する。まだ朝の棘ついた空気が南森の肺を攻撃する。
学校を登校してまず聞こえたのはテニス部の掛け声だった。相変わらず朝から練習を頑張っている。
そして彼は昇降口に入る。
「あれ、三嶺じゃん」
そこで南森は淀屋と出会った。袈裟懸けしたバドミントンラケットケース。そして、ボサボサになった彼女の髪。これから今日朝練があるがうっかり寝坊してしまったということが容易に想像できる。
「おっす」
「どうした? そんな浮かない顔をしてさ」
「いや、……まぁ悩みだな」
「なんだなんだ。そんなことバドミントンすれば解決するって」
ニコリと袈裟懸けしたラケットケースから一本取り出しそれを南森に渡す。
「お前はいつでもバドミントンなんだな」
「当たり前でしょ!!」
胸を張る淀屋。
「別に褒めているわけじゃないのに……そんなドヤ顔をされても」
ともあれ、南森は淀屋と一緒にバドミントンをすることになった。彼女から逃れることができないことを知っていたからだ。
そして、体育館に到着する。その中に瞬間、あちこちから「おはようございます」という声が聞こえる。それで南森は一応こんなのでも部長で……さらにこの三年生であるということを思い出す。もっといえば南森の先輩にあたる。
「どうやら私が一番遅いみたいだね」
「それは果たしていいことなのかな?」
いや、ダメに決まっている。いつも誰よりも早くそして時間にルーズな南森にとってはかなり気になる部分だ。
「とにかくバドミントンをしましょうか」
速足で開いているコートの中に入る。今回はたまたま開いていたからいいものの、これがもし満杯だったら無理矢理どけで彼女はコートの中に入る。そのくせ、何故かみんなに尊敬されているというわけのわからなさ。
「時々思うんだが……お前は本当にここの部長なのかよ」
南森はシャトルを上にあげる。
「三嶺だって同じでしょ。本当に委員長なのかよとか私は何度も思ってたり……」
「どの部分が?」
「う~んと変態なところとか」
「それはひどいな。僕は別にそこまで変態じゃないのに」
「三嶺で変態じゃなければ、この世界の男性9割が変態じゃないということになるわ」
「……9割は多い。せめて8割にしろ」
部員の数名ほどは南森達の方を見ていた。それは羨望の眼差しであり、素直にすごいと感心している眼差しだ。それも無理はない。バドミントン部員じゃないのに、それ以上に上手いのだから。
「それで、何か悩みがあるの?」
「なんだよ、結局聞いてくれるのかよ」
「勿論。バドミントンをしてくれているからね。話ぐらいならいくらでも」
「お前は時々いいやつだな」
「時々じゃなくて常にね」
さっきまでどうして部長になったのか分からないとか、どうしてみんなから尊敬されているか分からないかとか言っていた。それは南森にとて今でも分からないところだ。しかし少なくともこういうところで評価されているんだなと感じる。
「それで……一体何があったの?」
「今度の球技大会でドッジボールに決まったらしい」
スパっ。コートに突き刺さるスマッシュが飛んでくる。
「バドミントンじゃないんだ……」
「あぁ、それは流石に無理だな」
そもそもバドミントンのような個人スポーツを200人単位でどうやってやるのかが問題になってくる。
「それで……また三嶺はそれに関して何か悩み事を抱えてしまったていうこと」
「あぁ」
首肯する代わりにシャトルを飛ばしてみる。
それから南森は球技大会がドッジボールに決まったことから、景品をつける案があるということまで全てを話した。本当は機密事項なのかもしれない。しかし淀屋の前では別に話しても問題がないような気がしていたのだ。
別に淀屋は口が軽いというわけじゃない。しかし……安心はできる。
「そっか。なるほどね。これに対して三嶺はどう思っているの?」
「何かが違うなと感じている」
「でしょうね。だってこれには決定的な問題があるもの」
「問題?」
「そう、的が三嶺だけという」
「的が僕だけ?」
南森は思わず明らかなアウトライン方向にシャトルを打った。それを素早くフットワークして取る。バドミントン技術だけは最高に凄いなと感心する。
「えぇ。そう、的があなただけ。それが問題」
「一体どんな?」
「だって……結局はあなただけでイベントを盛り上げようとしているだけじゃん」
その言葉は南森にとって風だった。フワリと髪を後ろにかきあげる厄介な風だ。
「そうね。結局あなた一人の力で学校を変えようとしている。でもそれが出来るのかしら」
「それは……」
「仮に変えられたとしてもそれはみんなにとって楽しい学校なのかな? 結局は三嶺が求めていただけの学校でしょ? みんなが求めている学校とはまた違うのだから」
「みんなが求めている学校とは違う」
「そう。一人の力で変えた学校なんてそんなものよ。だけどみんなで学校を変えようとしたらそれはまた別のものになるのではないかしら? そう思わない?」
「……違うものに」
「例えば的は三嶺だけじゃなくて私もする。いや、この学校の運動部部長全員が的になる。そうしたらみんなで協力したことになって素晴らしいものになると思うの」
(そうだ。僕はバカだ。僕一人で作るのが理想の学校ではない)
何故ならラノベは一人では話が進まないから。二人以上いてやっとストーリーが進むから。
「そうだね……」
南森は深く大きくそしてずっと奥にシャトルを飛ばす。それはコートの後ろの線を越えていた。南森がこんなミスするのはかなり珍しいことだ。
笑みを浮かべながら余裕な表情で淀屋はシャトルを返す。
「ねぇ……もし僕が手伝ってっていったら」
「そんな当たり前のことを聞かないでよ」
大きく浮きあがったシャトルを淀屋は全ての体重を乗っけ南森の身体の正面にぶつける。
「手伝うに決まっているでしょ」
やはり淀屋はバドミントン部の部長だ。




