これが本物のラノベ高校だ(5)
「ま、良かったじゃないか。抹茶を飲むことができて」
あれからずっと顔を真っ赤にしている大淀。南森の後ろに立って彼と顔を合わせないようにしている。
「それと舌は大丈夫?」
「うるさい」
「いや、それでも盛大に火傷をしたみたいだし」
「たこ焼きを食べた時には既に火傷をしていたから大丈夫!!」
思いっきり限界まで舌を伸ばしてみる。
「いや、それって大丈夫なのか?」
と、色々言い合いながら南森達は廊下を歩いて行く。第一校舎でも中崎西高校の1.5倍ある。つまりそれだけ教室が増えているということだろう。それにも関わらずどこの教室も使用しており、開いている教室がない。ここから谷町高校の教室の多さを伺える。
「それで次どこに入ろうっか?」
「私は入りたい場所はない」
どうやら大淀は茶道部でかなりの恥をかいたようだ。それも無理はないか。作法とか色々気にしたけど実際にはそんなことは気にしなくても大丈夫と言われる。さらに本物の抹茶を飲もうとしたがそれはインスタントと言われる。とどめは猫舌の彼女は舌を火傷してしまう。役満レベルだ。
「それなら僕の行きたい場所に行こうかな」
と、地図を見る。
「だけど……色々と教室があるからね。行きたい場所はたくさんあるな」
実際、この地図を見ても今南森がどこにいるのかが分からない。
「どこに行こうかな」
地図から視線をそらし、部活の名前などを見る。
「取りあえずここに入ろっか」
そして南森が入ろうとしたのは天体観測部だった。廊下にはホワイトボードでプラネタリウムやっていますという文字。
南森が扉に手を掛ける。しかしまた南森が立ち止まってしまった。
「どうしてこんなところに入ろうとするの?」
「いや、なんとなく星がみたくなったからかな」
正直のところ南森にもこれと言った理由はなかった。ただ、目の前に面白そうなものがあたから入っただけだ。
「でも二人と星を見るなんて……」
もう大淀の頭は今にも噴火をしそうだ。
「まるでカップルみたいじゃない?」
「いや、別に」
と、南森の即答。そして何も気にせず彼は中に入っていく。
その背中を思いっきり蹴りたいと大淀は感じる。
(なんなの。こいつ。さっきから女子と二人っきりでいるのに動揺の一つも見せないで)
大淀は別に動揺をして欲しいわけではない。ただ、動揺をしない南森に対して異常と感じてしまうのだ。
(ドMの変態のくせに。動揺しないなんて。私と二人っきりでいることを何も思わないなんて……)
そんな南森を見ると大淀も思わず気が抜けてしまう。
(ま、私も別にこいつに対して特別な感情とかないからいいけどさ)
今度は興奮の一歩を踏み出した。
ここは茶道部とは違って手が凝っている。
普段授業をしている教室とは思えないほどだった。元々ここがプラネタリウムなのではと思うほど天井には沢山の星がでていた。
「ふぇぇぇ。これは凄い」
思わず大淀は声を漏らしてしまう。
「ベガ、アルタイル、デネブ。これが夏の大三角形だね」
と南森は指で星と星を結んでみる。
「へぇ、詳しいんだ」
「これぐらい一般常識さ」
胸を張りながらそういう。
「嘘。本当は少し前にテレビの特集とか見て覚えたのでしょ?」
「ばれちゃったか。いや、別にテレビじゃないけどさ……長柄に教えてもらったの」
「長柄先輩に……」
長柄という言葉を聞いて思わず黙りこんでしまう。大淀自身は彼女のことを何も知らない。ただ不思議な人だとは思っている。
「そういえば、どうして長柄先輩はここに来なかったの?」
「まぁ……色々複雑な事情があるけど……長柄はここの特進に落ちたんだ」
偏差値は中崎西高校の方が上だ。しかし、それはあくまでも普通科だけの話。特進となると谷町高校の方が上となる。
「それでここに来ると複雑な思いになって……」
「いや、それもあるけど」
大淀は深刻な顔をする。
「そんな深刻に思うのは無駄だぞ。それは表の理由で裏の理由はただここの生徒会長に会いたくないだけだ」
「……そんなにここの生徒会長って嫌な人なの?」
「嫌な人っていうか変人だな」
南森は苦笑いをして見せる。ここから谷町高校の生徒会長はヤバイ人だ。と大淀は察してしまう。
「それに長柄は大丈夫だよ。アイツは二番目に中崎西高校に恋をしているのだから」
「ついでに一番は?」
「僕に決まっているだろ」
プラネタリウムから一つの光が涙のようにきらりと流れる。
「ここのプラネタリウムの流れ星のお祈りしたら願いがかなうかな」
「なんて?」
「いつまでも中崎西高校が平和でありますようにって」
「自分のことはお祈りしないんだ」
「これは自分のことだよ。中崎西高校の生徒会長だから」
そしてしばらく星を見続ける。よく観察するとこれらの星は徐々に動いている。数分それを見て気づいた。
(本当にこの人はおかしな人だ)
大淀はこれまで沢山の人に出会った。しかし彼女にとってみれば初めて出会った人種だ。
(それにしても……)
眠い。と思わず欠伸をしてしまう。元々、大淀はこういうずっと何かを見続けるという行為が苦手なタイプだ。
「眠そうだな。そろそろ、外に出るか」
とずっと星を見ていたはずの南森が大淀に声をかける。
(なんなの!? 私が欠伸をしていたことも見ていたの!?)
そしてそのまま外へ出た。
さっきまで暗かったところにいたせいか明順応で廊下が全て白い世界に見える。
しばらくして窓、人影がハッキリとしてきた。
「大淀。前を見てみろよ」
と震えた声で南森が言う。その指示通り、彼女は廊下の前をみた。
ここに入る前、廊下は人であふれていた。それが今は違う。人は全て右側に固まっていた。そしてその中央に偉そうに大幅で歩く男性がいた。
身長はかなり高く、半袖から出ている腕はラクダこぶが出来ていた。
その男性は南森達の横を通過する。ただ歩いていただけなのに心臓が飛び跳ねた。
「あの人がつけている腕章の文字が見えるか?」
と南森は冷や汗をかきながら言う。その人のラクダこぶにつけられた腕章には執行部と書かれていた。
「まさか……」
「そう。あれがお前の完成形だ」
いやいや、と激しく心の中で突っ込んでみる。




