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これが本物のラノベ高校だ(4)

「抹茶、抹茶」

 大淀は足を弾ませながら階段を昇る。

「そんなに抹茶が好きなのか」

「そうだけど……なんか文句ある?」

「いや。そうだな……もし良かったら今度長柄に頼んでみようか? 抹茶お菓子を作ってくれと」

「うん、そうして」

 そしてあっという間に茶道部がある四階に到達する。

「抹茶と言えばどこのブランドが思いつく?」

「そんなもん宇治抹茶とかだろ」

「でしょうね」

 ま、これは関西圏に住んでいるから京都のことを良く聞くというのもありそうだが。

「だけど西尾抹茶とかも私は好きだな」

「あぁ、愛知の」

 南森は長柄に名古屋ドーム帰りのお土産として渡されたから知っている。ついでに言えば長柄は野球が大好きだ。しかし別に中日ファンとかではない。

「そう。他にも有名なブランドは色々あるよ」

「それを語ると色々長くなる?」

「当たり前。物事を語るなんて数分で終わるものではないわ」

 大淀が抹茶を語り始める前に茶道部の展示場に着く。

 しかし教室前で彼女は立ち止まる。あれだけ楽しみな雰囲気を醸し出した大淀の表情は一転、曇り顔に変わる。

「だけど……問題があるの」

「コミュ障なら僕がなんとかするよ」

「いや、違う。確かに私はコミュ障だけど……これぐらいなんとかするよ」

 ただ、と小声になる。

「私は今まで娯楽で抹茶を飲んだりしていたの。だから正式な飲み方とか作法とか全く知らないの」

「なんだ、そんなことか。大丈夫。俺も知らないから」

「ますます、不安になってきた……」

「ま、実際に中入ってみたら優しく教えてくれるだろ」

 と、南森は扉に手を掛ける。しかしそれでもまだ不安がありそうな顔だ。

「なんだ? 他にも問題があるのか」

「うん。後、私は猫舌なの」

 顔を真っ赤にして告白。

「だから熱いものは飲めないの」

「それで、よく抹茶が好きなんだな」

「いや、私が好きな抹茶とかはスイーツな感じの……ほら、パフェとかによくある感じの」

 なんとなく大淀の言おうとしたことを南森は分かる。長柄と梅田方面に行った時、南森は駅校内にあるミルク抹茶を奢らされた。値段はなんと一杯350円と割高だ。これのせいで南森の財布はすっからかんになる。

 そしてそのミルク抹茶を南森は一口だけ貰った。それまで抹茶は苦い物だと思っていたが、それはカフェオレに近い感じの甘さだった。

「なるほど……つまり甘い抹茶が好きという」

「いや、苦い抹茶も好きだよ。だけどあまり本物の抹茶を飲む機会がなくて……」

「それならいい機会じゃん。これを機に飲めばいい」

 南森は扉を完全に開ける。そして教室の中に入っていった。

「いつまでも逃げていては、楽しい事なんて絶対に来ないと」

 そしてそう言い捨てる。

「うるさいな」

 大淀も大きな一歩を踏み込んでみる。

 茶道部の部屋は、別段特別凝っているというわけではなかった。教室の黒板に大きく茶道部と書いて後は机を適当に動かした程度だ。

「ようこそ、茶道部へ」

 そして茶道部の一人が二人を迎え入れる。服装は割烹着なようなものだ。そして茶道部と思われる人の人数は大体8人。

「ここにいる人全員茶道部なのですか?」

 思わず南森は聞いてみる。

「そうですね」

「随分多いのですね」

「この学校では少ない方ですよ」

 やはり谷町高校は凄い。そう南森は感じてしまう。8人など、中崎西高校の運動部ですらあり得る数字なのに。ましてや絶対に文化部系ではこんな多い人は入部しない。

「それで抹茶を飲みたいんだけど」

 大きな一歩を踏み出したつもりの大淀だったが、やはりまだ恥ずかしいのか南森の陰に隠れていた。

「あっ、はい。それはこちらです」

 そして、そのまま椅子の上に座らせる。

「へぇ。正座とかしないんだ」

「そのような茶道体験は文化祭でしかしませんよ。今は取りあえず抹茶の味を楽しんでもらう。それだけで充分と考えていますから」

 つまり大淀の不安は一つ解消されたということだ。

「とにかく、どうぞ。抹茶です」

 湯呑に緑色の抹茶が入れられる。

「これが本物の抹茶か」

「あっ、いえ。そこら辺のスーパーで売っているインスタントをそのままだしただけです」

 それを聞いて拍子を抜かす二人だった。取りあえずグビッと大淀は抹茶を飲んだ。そしてすぐさまに舌を出す。どうやら火傷をしてしまったようだ。


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