これが本物のラノベ高校だ(2)
次の日。なんだかんだで真面目な大淀は集合時間の五分前には既に集合場所に来ていた。嫌々足を引きずりながら。季節外れの台風で大雨洪水警報が発令されることを祈りながら。実際の天気は神様が悪戯をしたかのように晴れなのだが。
「神様のバカ」
そう、駅前の広場で言う。それなら一分でも遅刻したら帰ってやる。そう決意をした。しかしそれすらも残念ながらする必要がなかった。何故なら大淀が既に集合場所に着いた時は、南森はその場所で携帯をいじっていたからだ。そして大淀を発見するなり、手をあげて反応する。
「……随分早いこと集合場所にいるのね」
「まぁね。僕は人を待たせるのが嫌いなんだ」
確かにそれはあるのかもしれない。大淀はそれに関して思い当たることがいくつかあった。
例えば、生徒会会議の時。ほぼ毎日のように南森は一番乗りで来ていた。授業の遅れによって来るときだって、走って来る。大淀は無遅刻無欠席の優等生だ。しかしもしかしたら南森はそれ以上の優等生なのかもしれない。
「とにかく行こうか」
南森は大淀に背を向けてスタスタと駅の中に入っていく。いつもとは違う大淀のピンク色のワンピースには一切触れることはなかった。いや、もしかしたら敢えて触れなかったのかもしれない。
さて、谷町学園があるのは市内でも南の方だ。残念ながら二人が持っている定期の適応範囲外となる。と言ってもそれでもかかる交通費は150円。往復でも300円で済むのだが。
切符を買い、改札口の中へ。普通車しかないローカル路線で行く。ローカル路線とはいえ、混雑時には5分に1回くるほどだが。
そしてそのまま4駅ほど乗ってそこで降りる。降りたホームの目の前は改札口で、そこから外へ出る。近くには広大な公園があり、それが観光スポットとなっているため、月によっては臨時電車が走っていたりする。
二人はアパートやマンション、一軒家などが並ぶ住宅街を歩き続ける。
「こうやって二人並んで歩くとまるでデートみたいだね」
その途中で南森が変なことを言うのだから思わず大淀は蹴ってしまった。
(確かに男女が並んで歩くとそう見えるのはしたがないのかもしれないけどさ!!)
それでもやっぱりそう言われるのが大淀は嫌だったのだ。
(これはあくまでも生徒会の仕事として行っているのだから)
それから10分ほど歩いたところに、まず50メートルほどある屋外プールが見えてくる。そしてその横に白い校舎がドンッと立っていた。
(大きい……)
谷町高校の校舎だ。黄ばみのない白い建物というだけで南森達はあぁ私立だなと感じてしまう。中崎西高校は灰色で所々炭のように黒ずんでいたりする。最近立て替えた体育館だって、まるでプレハブのような外見をしていた。
その谷町高校へと入る。スプリング祭の会場はこの奥で行われているようだ。
「ついでにこれは第二校舎だよ」
「へぇぇぇ!?」
ここでも驚いた時にでる大淀特有な声が漏れる。驚くのも無理はない。だって第二校舎だけで既に中崎西高校の校舎を超えているのだから。
「主に授業をやるのはここだけどね。今回祭りがあるのは第一校舎。この校舎の角度を曲がると山があるんだ。そこを数百メートルほど上ると教会があって……因みに体育館とかはこの校舎の裏側にあるよ」
大淀は驚きのあまりに茫然とするしかなかった。
南森の言った通り、校舎の角を曲がると坂があった。その坂は階段で舗装されておりその奥にはまた別の白い校舎が見える。その階段の横にはケーブルカーの軌道らしきものが置いてあった。
「だけど冷静に考えると不便だと思うよね? だって第一校舎に行くのに一々山を登らないといけないのでしょ?」
「まぁね。そもそもここはかつて動物園だったけどそれが廃園になってその跡地に学校を作ったらしいし」
「その隣のケーブルも」
「多分動物園の名残だろうね」
とまぁ、階段を進むと教会が見える。
「ミッション系の学校なんだ」
「そう。幼稚園と小学校もまた別の場所にあるよ」
ここまで来るとざわざわと騒がしくなってくる。そして階段を全て昇りきったところ。
第一校舎が見え、その横には沢山の屋台が出ていた。
「ついたようだね」
そこは休日の学校とは思えないほどの人ごみが出来ていた。学生だけではなく、明らかに中学生以下の子供や、白髪の生えた年よりもいた。
「どうやら近隣住民も来ているみたいだね」
これは本当の地域のお祭りだ。とても学校が主催しているとは思えない。
「流石だよ。これが僕の目指す学校だね」
「……それだと……ハードルは高すぎない?」
大淀の額には一滴の汗が零れ落ちる。
「そうだね。僕もそう思う。だけどハードルは高い方がいいじゃないか」
取りあえずこの祭りを楽しもうよと颯爽と人ごみの中へ混じっていく南森。
大淀は未だに目の前の光景を信じられなかった。このようなイベントが学校の予算だけで出来るのかということを。
「まっ、折角来てくれたことだし何か一つは奢るよ」
「あなたにしては随分気前がいいのね」
「いや、僕は女子には優しいから」
「そう。それならたこ焼きでも食べようかな」
「おっ、流石関西人」
「それは関係ないから」
それからたこ焼きの屋台へと向かう。そこには十人以上の行列ができていた。
「この祭りに参加している人、全員楽しそうでしょ?」
「そうだね……」
「僕たちの学校ではあり得ないことだよ」
それを言われると、大淀の胸に矢が突き刺さったような気がする。
「お前だって分かるだろ」
「なんで、次々に私を攻撃するの?」
といいつつも確かに分かる。
中学時代は嫌々にイベントを参加していたからだ。イベントなど嫌いだ。だけど休めない。みんなから強制される。
「本当、文化祭や体育祭は学園生活の醍醐味だよ。だけどやっぱり辛い人にとっていれば辛いものなんだよね」
大淀は知っている。学校の勉強は逃げ道が少しでもあるかもしれない。だけど体育祭などはない。
「本当は強制されるものではないんだよ。体育祭とかは。だけど、中には強制されている人だっている。だって集団イベントだもん」
「そうね。低ヒエラルキーの人にとってみれば体育祭は高ヒエラルキーの人のためのイベントだし」
飲み会だってそう。結局リア充達の自己満足じゃないかと大淀は思う。
「だから僕はこの学校のように全員が自主的にイベントを活動する学校を作りたいと思うんだ」
「それは難しいことね。だってイベントを楽しめない私がいるし」
「それなら僕が楽しませてあげるよ」
南森は柔和な表情をする。それを見た大淀は顔を赤くして咄嗟に目線を反らした。
(これはセコイよ……)
何故だろうか。大淀の心臓は高鳴っていた。




