ラノベの出会いはいつも突然じゃないか! (18)
そしてそのビデオは長柄の編集によってプロモーションビデオに変わった。
金曜日にそれを渡され、上映会を開いた。その際、長柄の目にクマがついていたのでこれが原因なのかと聞いてみる。
「いや、ワラワラ動画を見ていたら3時過ぎていて」
「ビデオ編集は関係ないのね」
そして淀屋を含めた四人でそのビデオを鑑賞する。
初めは不安そうにバドミントンラケットを持つ大淀。しかしそれは次第に笑顔に変わっていく。そして最終的には満面の笑みでシャトルを打っていた。まだ、角度はついていないもののスマッシュらしきものを打っている。
淀屋とは別のバドミントン部員と試合。これも楽しそうだ。そして最後に『初心者大歓迎』とバイトの求人でよく見るような文字。
「うん、無料にしては十分なPVだね」
首肯しながら淀屋は言う。どうやら満足したらしい。
そしてバドミントン部の許可が降りたため(まぁ、別に見せなくても許可は貰えたが)これを次の朝礼に流すことにした。
それから土日を挟み月曜日。体育館に全校生徒が集まる。
あれだけ広い体育館も人で埋め尽くされてしまう。
校長先生の話が終わり、二人ほど表彰式。そしていよいよ生徒会の出番が来た。
まず会長の話。と言ってもテンプレに近いものだった。まず入学したての新入生に学校生活のことについてを話し、二、三年生には今度の進路についてを語った。
そしてそれが終わり体育館の灯りを消し、スクリーンを降ろした。
プロジェクターの光をスクリーンに当てる。そしてパソコンの中に入っているバドミントン部のPVを流した。
一応、生徒会がバドミントン部を贔屓したということがバレないようにこれはバドミントン部側から再生を依頼されたということにした。
そしてそのまま上映が終わり朝の朝礼は終わる。
その日の放課後。今日の教室は一般教室だ。
そこで椅子に座り南森は手を祈るように握っていた。
「さて、今朝の映像がどのような影響を及ぼすのか注目だわね」
長柄は黒板に適当な動物の絵をかいていた。どうやら落ち着かないらしい。
「そうだな」
現在、大淀は仮入部届の枚数を集計している。本日のそれが終わったら南森達に教えると言っていた。
「まぁ、明日突然増えるということも考えられるし。今日の結果が全てじゃないわ」
仮入部届には印鑑が要らない。だから思い立ったらすぐに入れる。しかし少し考える人だって勿論いる。
と、扉が開く。その音を聞いて南森は立ち上がる。長柄はチョークを置き、扉の方に向かう。そこには息を切らしていた大淀がいた。
「それで結果はどうだったかしら?」
「えっと……バドミントン部は金曜日に比べ+九人。一番減少したのはテニス部で-四人」
「取りあえず成功か」
腰を抜かしたかのようにもう一度椅子に座る。
「僕の予想通りやっぱりテニス部が一番減少したな」
「バドミントンと形が似ているからかしら」
「そうだな。ま、実際にやってみたら全然違うスポーツということに気づくけどな」
「そうね。でもこれはテニス部にとっては大きな損害だわね」
元々テニス部は部員数が多いわけではない。仮入部もいつも一桁だ。そんなテニス部がバドミントン部に取られるとなるとかなり危機感を感じるだろう。
「あぁ。後はここから各部活がどう動くかだな」
そして二日後の朝。南森にとってみればいつもよりも足が重い朝になった。
(さて、一体何種類の部活が勧誘をしているのか)
南森にとってはたいした期待をしていない。何故ならたった二日でビラを作るのは少し難しいと考えたからだ。それでもやはり数人は勧誘をして欲しいと思う。
校門の前に通る。そこには元気よく勧誘するテニス部。
そしてその後ろに続く複数の部活。大体四部。どうやらこの間のPVの影響でみんな勧誘をするようになったみたいだ。
南森にとっては大成功だ。
そして放課後が来る。今日の生徒会は第一会議室だ。一番乗りは長柄だった。それから一人椅子に座りラノベを読み始める。
大淀は仮入部処理の為、少し遅れてやってきた。
「遅れてすみません。ってあれあの不埒な男は?」
「南森君なら来ていないわよ」
「へぇ、珍しい」
いつも、この生徒会は南森が一番乗りで来ていた。そして黒板などで本日の課題などを書いて準備をしている。
「何か遅れるとか連絡はあったのですか?」
「いや、ないけど」
「それならサボりですか?」
「ま、ある意味そうね」
本をパタンと閉じ、扉の方へ向かう。そして長柄に向かって手招きをした。
「私について来なさい。多分南森君はあそこにいると思うから」
長柄の言われた通り、大淀はその背中に着いて行く。
彼女達が向かったのは四階だった。階段を渡り切ったところで長柄は手を横に伸ばし静止するように伝えた。
そして階段の端から少し頭を出す。二人が見たものは窓の外を眺める南森だった。
「アイツは何をしているのですか?」
「窓の外を見ているのよ?」
「それは分かっています。どうして外を見ているのかという……盗撮とかですか」
「安心しなさい。もしそうだったら既に兵庫県警に身柄を渡しているわ」
この時、大淀は思った。随分平和な解決方法だなと。
「とにかく南森君はどうしてもこの計画を成功させないと駄目だった。その理由が今窓の外を見ているのと関係しているわ」
「そうなんですか。私も窓の外を見てみたいです」
「そうね。三階から見てみましょう」
そして二人は階段を降りていた。
南森は窓の外を見る。
外には一人の生徒がいた。髪は短く弱々しそうに眉を吊り下げている少女だ。
その少女は一枚の紙を持って校門前をうろちょろしている。
(彼女は恐らくどこかの部活に入りたいんだ)
だけど入れない。その理由は入る勇気がないから。自分が排除されるかもしれないから。
(ラノベのような出会いをするには少しの勇気が必要だぞ。素晴らしい青春を送るのには少しの勇気が必要だぞ)
頑張れ、頑張れと応援してみる。
南森はこの少女をずっと気にしていた。ここ数日この校門前でウロチョロしていたからだ。
初めは不審者なのかと思っていた。しかし理由を知ると何とかしないといけないと思う。
その少女は今日もいつもと同じように校門前をウロチョロしていた。そして、校門の外に出る。これはダメか。と肩を落とそうとした瞬間、再び少女は校門の中に入ってきた。
彼女の右手には今朝配られていたビラがあった。
そしてそのビラをギュッと握りしめ体育館の中に入る。
これを見て、南森の顔は綻んだ。
(あれは大丈夫だな)
ビラを握りしめた手からは決意から垣間見えた。
(部活に入れ。そして誰かと出会え。そうすればラノベのような学園生活を送れるさ)
そうだって……ラノベは
(ラノベの出会いはいつも当然じゃないか)
その三階で同じように少女を眺めていた二人。
「私が南森君に力を貸す理由はこれね」
「これって……」
「彼の目標はただラノベのような学校を作ることじゃない。全員にラノベのような学園生活を送ってもらいたいと思っているのよ」
「そんなの無理じゃないですか」
「そうね」
「でも……それはいいなと思います」
頭の後ろから暖かい風が吹く。それはまるで体育館で撫でられた南森の手の体温と似ている。
「私も内申点とかそんなのは関係なしに一緒に活動したいと思いますし」
「うん。それじゃ、私たちの本当の仲間だね」
長柄は手を差し伸べる。それを白い歯を見せながら大淀は手に取った。




