ラノベの出会いはいつも突然じゃないか! (16)
「大淀さんに関しての問題? ラケットなら二つ持っているから心配ないよ」
淀屋はラケットを手に持ちそれを渡そうとする。
「いや、そうじゃなくて……私……運動神経が悪いので」
大淀の中学の成績はかなりいい方だ。ただし体育を除いて。
真面目な彼女は一応体育の試合は全て出席した。しかし、どの体育の授業も憂鬱になっていた。昔も今も学校の授業で一番必要ないのは体育と淀屋は考える。
持久走、50メートル走、腹筋、背筋どれに置いても平均以下のステータスしかない。
「知っているよ」
と南森。
「だからこそ大淀にやってもらいたい。運動神経が乏しい大淀が楽しそうにやっているのを見て誰でも楽しめることをアピールしたいんだ」
「そんな安っぽい通販番組みたいなこと」
「確かにそう思うかもしれないわね」
腕を組みながら長柄は後ろから言う。
「でも、私たちが持っている予算で一番のプロモーションビデオを作るにはそれしか考えられないわ。だからお願い」
そう言われ、大淀は辟易な表情をする。
「長柄先輩にそう言われる……断るわけにはいきませんし」
「そう、ありがとうね」
南森は思う。これを南森自身が頼んでいたら絶対に断られたのかもしれないと。
「だけど期待しないでください。私の運動神経の悪さは生まれたての馬レベルですよ」
「大丈夫、バドミントン部はそういう人が多い。だから私がバトミントンの面白さを教えてあげる」
淀屋が南森の背中をパンパンと叩く。
バドミントン部に運動神経が悪いのが集まるのかどうかは学校による。しかし野球部などとは違って経験者が集まりにくい部である。そのため高校に入ってから初めてバドミントンをするという人が多い。経験者の少ない部活だから少し運動が苦手な人も入りやすい部活でもある。その反面みんなが思っている以上にハードなスポーツだ。
「まず……スマッシュの打ち方」
「えぇ!? いきなりですか!?」
「いや、スポーツ漫画とかでは絶対無敵の必殺のように扱われているけど実際の試合ではスマッシュを平気な顔をしてでも打ち返せるようにならないと」
確かにスマッシュは強烈な一撃である。しかし試合の中ではお互いに何度もスマッシュを打つことになる。その為、スマッシュを打たれて一々怯むなどということをしていては試合に勝てないのだ。ただ勿論最初から習得できるようなものではない。
「違うだろ。まずラケットの握り方からとかだろ」
「えぇ、だって早く打ち合いしたいじゃん」
南森に指摘されプクッと頬を膨らませる。
「まっ、取りあえず握手しよっか。大淀」
そして南森は右手を差し出す。
「やっぱり私をセクハラしようと……」
「違う。握手をした手の形がバトミントンの持ち方だ」
結局、大淀は淀屋と握手を交わす。そして右手を握手した形に保ちそのままラケットを握る。
「それじゃ……始めるね」
淀屋はコートを跨ぎ大淀と向かい合うような形になる。
南森と大淀はコートの外へ出ていく。そして舞台の上で座ることにした。丁度、舞台は高台のようになっており、大淀と淀屋を俯瞰することが可能だ。
長柄はブレザーの中にしまっていたビデオカメラを取り、それをまわす。そして二人が練習をしているコートの方へカメラを回す。
「それにしてもバドミントン部なんて……よく考えたわね」
「あぁ、淀屋なら運動神経が下手な人の扱いになれているしな。それにしてもよくアイツが運動神経悪いと知っていたな」
「当たり前でしょ。生徒会補佐であるもの生徒の情報を全て頭に入れておかないと」
「まるでラノベのような人だ」
「ありがとう。それはあなたにとって最大の褒め言葉ね」
大淀の練習が始まる。淀屋が大きくあげたシャトルをオロオロしながら打ち返そうとする。しかしそれを床に落とす。
「それにしてもこれは……誰のためのプロモーションビデオなの?」
「そりゃ、部活を活性化させるためだろ」
「そうだけど……それともう一つ何か目的があるように思えるわ。まるで大淀さんのためのようにも」
「当たり前だろ。大淀は執行部候補なのだから」
もう一度淀屋がシャトルをあげる。大淀は体を正面にしたままシャトルを打っていた。
「執行部が青春を知らなくてどうする」
「……そうね」
「そんなことより僕の声が入っているのだが? どうするの?」
「大丈夫。あなたの汚く目障りな声はパソコンで綺麗さっぱり消すから」
「そうかい」
「その前にあなたの声を聞くことになるのが精神的苦痛だけどね」
「ひでぇな」
コートの中にいる大淀の表情は硬くそして苦しそうな表情だ。
(これはあの子と一緒の表情かな)
南森は、毎日絶対下校十分前に現れる少女の顔を思い浮かべる。名前を知らないこの学校の生徒の。
ラノベの高校を目指すにはキャラもラノベのような人じゃないといけない。




