壁
活動報告にも書きましたがインフルです。A型です。
今回はカストル氏にスポットを当ててみました。
シン・クライス――
リア王国軍剣術指南役エルリック・クライスの三男。
英雄病で、バカで、五歳のくせに女の子に対して積極的で、そのくせ大人に対してはちょっと人見知り。
ルイ先生に一撃で認められて、俺によく突っかかってきては返り討ちにあって不機嫌になって。
それから……そう、俺のかわいい弟。
だと思ってた。
でも実際は憑き者で、体術が達人級で……俺なんかよりすっごく才能があって……。
たぶん、俺に突っかかってきたのとか、父さんにいろいろ聞いてたのとか、技を見切るためだったのかな……とかそういうことを考えてしまう。
たとえそうだとしても、かわいい弟には変わりないし、気にすることはない、俺は俺にできることをすればいい。
きっとシンは冒険者になって、迷宮都市で莫大な富と名声を得るんだろうし、引退して帰ってきた時に優しく迎え入れてやるとか、そういうことを頑張ればいいかなって。そうやってソロンと将来について考えてたけど。納得したつもりだったけど、納得できなかった。
納得出来ない自分が嫌いだし、嫉妬する自分が嫌いだし、自分が下に見てた奴に抜かれて憤りを感じてる自分が嫌いだ。
年齢を考えれば憑き者に負けるのは仕方ないとか、シンは伸びしろがあまりないけど俺にはすごくあって努力すればシンを抜けるとか、道が違うのだから気にすることはないとか、小さいことを気にすると強くなれないとか。
そういうことを父さんや母さん、ルイ先生やリリケットさんに言われたけど。
止められない。
自分がシンより弱いのは分かってる。
だけど止められない。
自分がどれぐらいやれるのか試してみたい。
父さんを超えてるとかルイ先生を超えてるとかは思わない。
だけど、俺がどれくらい強いのかわからないから試してみたい。
父さんが教えてる駐屯兵の人には勝てたり勝てなかったり。
父さんは本当のことを教えてくれてるのかわからない。
ルイ先生も本当のことを教えてくれてるのかわからない。
リリケットさんはただ「井の中の蛙」とか「魔法なしで勝っていきがってるガキ」とか『弱い』ってことしか教えてくれない。
俺は知りたい。
自分が達人に対してどれくらいなのか。
純粋な技でどこにいるのか。
だから俺はシンとリリケットさんが寝てる部屋に入って布団を剥いだ。
★☆★☆★☆★☆★☆★☆
「起きろ、闘え、そして教えてくれ」
カストルの声で眠りが妨げられる。リリケット先生に起こしてもらいたかったのに。
リリケット先生は寒さを感じて少し俺を強く抱きしめる。
まぁ、許してやるか。
闘え
そうカストルは言った。
俺が達人級だと知ってのことだろう。
教えてくれ
自分の実力のことだろう。
「わかった」
俺も知りたい。実際にこいつの技に対してどれほど俺の武術が通用するのか。
この世界の武術は魔力を自分の得物に浸透させて使う。
だから俺の武術の防御面は全く通用しないと言えると思う。
だから武器を持ってから来る日も来る日もカストルや父さんの技を見ていた。
「リリケット先生、起きて」
攻撃面が通用しないわけではない。十分に殺せる。
「んぅ……シン……」
今は可愛さにかまけてる場合じゃない。
「カストルと殺しあうから、結界を張って」
俺がそう言うとリリケット先生は全てわかっていたのか、それともスキルの効果で何がしたいのかわかってるのか知らないけど
「わかった」
悲しそうな目で俺を見て返事をした。
★☆★☆★☆★☆★☆★☆
私は呪われている。
昔里が危ないのを知恵の神で知って教えてしまった。
里が救えるのならいいと思ったけど、あまりにもひどい呪いだった。
だから強い人を求めた。
きっと乗り越えると思うけど、悲しいな。
でも叶えてあげないと。
「わかった」
私は承諾した。
★☆★☆★☆★☆★☆★☆
「シン、魔力を使わずに技だけで戦ってほしい」
俺はカストルを見ると
「ああ、俺も使わないから」
と。
なるほど。技の練度を知りたいのか。
「わかった」
正直魔力で間合いをごまかされなければ必殺だと思う。
それほどまでに魔力の力は大きい。
カストルと対面すると
「始め」
どこから現れたかととが開始を告げた。
★☆★☆★☆★☆★☆★☆
俺は地を蹴り斬りかかった。
本来返し技を主とする柔剣だが俺や父さんの使うイチギリ流は違う。自分から切りつける技のほうが多いのだ。
「攻式初の型――一切り ――」
鞘から剣を抜き縦に振り上げる。
もちろんシンは避けるが一切りはここから横に斬る。軽い力で剣を振る柔剣の利点を活かした技だ。もっとも、この型が攻式表型で一番難しいというのが父さんの話だが。
横に振った剣をシンは避けない。五歳の体では無理と判断したのかもしれない。返し技だろうか、シンは左手を下から振り上げた。
掴まれた、剣を、だ。
わけがわからない。剣を下から振り上げた手で上に弾くものだと思っていたが掴むなんて。
格が違いすぎる。
シンは掴んだ剣を思いっきり俺から見て右に引っ張り左足で俺の横腹を蹴り飛ばした。
初めの衝撃は大したことがないと思ったし、実際この程度なら駐屯兵の力の半分もない、少し痛い程度だ。なのに気がつけば吹っ飛んでいた。
格とか次元とかじゃない。魔力を使ったのかと思ったが誰も止めには入らない。ルール無用なのか、それとも本当に使ってないのかは分からないが俺は使ってないのだと思う。
シンは俺に向かって歩いてくる。シンが俺の剣を持っているのを見て初めて俺が剣を取られているのに気づく。シンは俺の目の前に剣を刺し
「来い」
とだけ言った。
その後も俺は何度も何度も斬りかかった。
だけどついぞ一掠りもできなかった。
股の間を体で抜かれたり、剣を持った手を掴まれて引っ張られ関節を外され、挙句倒れた俺の関節を入れられもう一度戦わされた。
もう俺のプライドなんてない。
型が崩れてもいいから一掠り入れたい。
「うん、型が崩れたからもういいよ」
また訳の分からないことを……と思ったら俺の頭に柔らかい感触が伝わり意識が途切れた。
★☆★☆★☆★☆★☆★☆
「わざと崩れさせたのか」
ととが問いかける。そうだ。
「型にハマりすぎてもいいことはないから」
「どういうことだ?」
む。この世界にはないことなのか?
「イメージしたとおりに体を動かせるのが理想。だから一度型を崩して理想の形に持って行かせる。型の意味もわかる。って師匠が言ってた。師匠の経験が写ってるから僕には必要ないらしいけど」
取ってつけたような言い訳を最後に乗せて
「そんな方法が……」
やっぱ知らんのか?
「う……」
カストルが起きた。
「おはよう。型が戻って三年もすれば達人級にはなってると思うよ」
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起きて書けられた言葉は少しうれしい言葉だった。
俺もその境地に立てるのかと思うとうれしい。
「とうさん、俺は……」
「圧敗だね」
それはわかってる。言わなくていい。
「冒険者学校にいくよ」
「型が崩れたままでか?」
「指導者がいないところで型を戻したいから」
人を頼っても強くなれないと思う。自分で試行錯誤するから、意味があるのだと思う。
「じゃあね。バイバイ。今度は迷宮」
まてまて。
「来年まで行けないよ」
「ふーん」
こいつ興味ないな?てか今度は迷宮ってどういうことだ?
「お前が入ってくる頃には達人級になっているかな?」
どうせ自分次第だとか言われるんだろうな。
だけど俺に帰ってきた返事は予想の斜め上だった。
「え?俺入るの?」
興味が無いんじゃなくてわかってなかったのか……。
こいつの頭の悪さには呆れる。まぁそこがかわいいとこなんだけどな……ふふっ。
「きもい」
前言撤回こいつかわいくねーわ。
リリケットは呪われてます。
神々の加護にはいろいろなルールがあります。追々書いていくことになるかと。
次回から世界観について結構詳しく書くことになります。
やっと説明回です。
ブクマ伸びろ!
あとユニーク100超えました。テンション上がる。