剣士じゃなくて拳士です~神との邂逅~
始まりの合図とともに俺は魔力を足に貯め蹴ると同時に放出する。
ルイ先生は『にぃっ』と笑い腰をどっしりと下ろし剣を正面に構えた。
恐らく上段でかかってくると思っているのだろう。
しかしハズレだ。
構えた瞬間俺は振りかぶり剣を全力で投げた。
ルイ先生は予想外だったのかびっくりしながらも片手で剣を振るい投げた剣を弾いた。
俺は本来剣士ではなく拳士である。
この魔力と魔力操作も毎日の演舞で身につけたものだ。
俺にとって"剣"は囮であり囮をより囮として扱うべく剣を習っているのだ。
それをルイ先生は知らない。
俺にとってこれは奥の手ではなく譜石、今後の戦いへの譜石。
俺が剣を囮に使うと意識させるための譜石。
今回の戦いは今後への譜石。
勝つつもりなど最初から無い。
だから全力で放つ。
ルイ先生の目の前へ到達する。まだ片手は上がったままだ。
防げる手は片手しか無い。狙いはどっしり落としたため目の前にある腹。
さすがルイ先生だ。瞬時に腹へ魔力を貯め硬化する。
だが無駄だ。
片足が地につく、半歩、先生に向かいステップを入れる。
「崩拳」
半歩崩拳、あまねく天下を打つ。
中段突きといってしまえばそれまでだ。
しかし洗練されたその型は力を無駄なく対象に伝える。
それだけではない。残りの魔力を全て注ぎ込み拳に伝える。
鎧通しとはその衝撃波を持って接触面の"奥"へと力を伝えるものだ。
壁が意味を成さない。
俺が打てる最強の一撃。
「カフッ」
ルイ先生は血を吐き、先ほど剣を払った手で俺の頭を殴る。
――意識がなくなる瞬間、俺は子供のように笑うルイ先生を見たのだった。
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俺が意識を取り戻したことに気づいたルイ先生は優しい笑みを浮かべ言った。
「おはようシン、あんな技どこで習ったんだ?」
「内緒」
ルイ先生は崩拳を気に入ったのだろうか。
「剣士じゃなくて拳士だったとはな」
「……ええ。あんな技教えたことも見せたこともないはずなんだけど、うちに来る人に拳士はいないし」
まずったか。
「シン?一体どこであんな技を?」
「内緒」
内緒と言っておけば嘘探知にもかからない。この件に関しては誰であろうと教えると問題だ。
リリケット先生が俺に抱きついてきた。俺の頭をうっとりした顔で撫でている。
ロリ神よ……偉大なるロリ神よ……私のような愚者に祝福をくださるとは……誠感謝感激極まりなく思います。
「ねぇシン?どこで習ったのか、私に教えてくれない?」
「夢で知らない人に教わりました!」
ロリにはできるだけ真実を教えなければならないと思う。だけど今回は違う、"真実"と見せかけることしかできない。ロリ神様……すみません。紳士として俺は……!
『かまわぬのじゃ今のは過ちではないぞシン・クライス……いや、英雄神大淀新よ……!』
頭に誰かの声が響く……これはもしや……!
『貴方様が……!?』
『そうじゃ……わしが……ロリ神じゃ……』
なんと素晴らしきことか……ああ……なんと言えばいいのだろうか。
『ちなみに神としての格は他世界とはいえ英雄神であるお主の方が上じゃ……』
『ロリの前には貴方の方が格上です、しかも私は今過ちを犯したのです』
『いや……いいのじゃ。時にはロリに対し嘘をつき世の中を教えることも必要なのじゃ……』
『ありがたきお言葉!!』
『これからも精進するのじゃ……』
時は経っていなかった。これも神の御業なのだろうか。
「嘘ねシン」
この人は化け物かなにかの類なんだろうか。
何か発動した気配がないんだが……。
「ホントは知ってる人。でも誰かは絶対教えれない」
これでバレることはない。
「そう……。輪廻転生……ということかもしれないわね」
正解じゃん。化け物かよ。化け物かよ。
「とはいえ、だ」
どこからともなくととが現れ場を一旦区切った。
「シン」
「なに?」
「君の"ソレ"は聞く限りでは達人級だと思う。違うかい?」
そう。自分で言うのはなんだが俺の技は達人級だ。仮にも英雄神だしな。
「どこから達人級なのかはしらないけど、そうだと思う」
「じゃあ何故それを隠して剣を習ったんだい?君の体術があればカストルにバカにされることなんて無いだろう」
たしかにそうだ。カストル如き文字通り瞬殺できるだろう。
「彼を知り己を知れば百戦して殆うからず」
五歳から出る言葉ではない。
「意味がわかっているのかい?」
「答えとして成立してるでしょ?」
すこし苛立って答えてしまった。ととは察しが良い、気づいてしまったかもしれない。
「君は何者だい?いつものシンと空気が違う。シンはどこだ」
ドスの利いた、殺気の交じる声になる。やはり前世が出てきてしまったか。
さてどうしたものか。
「……俺は……シン……この小僧がさっき述べた"誰か"だ」
嘘をついたとて、元一流の冒険者四人を相手にしても意味が無い。
「何者だ?」
剣を抜いたルイ先生、魔力を漂わせるリリケット先生、剣の鍔に右手をかけるとと、心配そうに見つめるかか。
この問にどう答えるべきか……
「俺は……気づけばこの小僧の中にいた。正体はとあるところで英雄として扱われている者だ、こいつは見込みがある。力が強い。だから俺の技を継がせたい」
嘘ではない。この肉体に後継させたいのは事実。
「害意はないんだね?」
「当たり前だ、後継者を潰しはしない」
「君はいつでも出れるのかい?」
「出るつもりはない、夢に出れればそれで十分だ」
「そうか……いつか君の正体を知りたいね」
「無理だな」
そう言って俺は意図的に意識を遮断した。
無理やり隔日更新や……!
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