成長ダイジェスト~家族と謎の剣士胸板ストロングマン~
痛ってぇ……銃弾撃ち込まれても泣かなかったけど泣きそう。
「ふぇあっふぇっふぇ~~~~ん」
あ~俺転生したのか。
「――――!――――――――!!」
あ~なにいってるかわかんね。
てか見えねぇ、なんだこれ。
人歴280年秋の月36日
大淀新……改"シン・クライス"出生
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未だに見えない、アネモネが生まれるときの記憶では三ヶ月ぐらいかかるとかなんとか言ってたっけ。
耳もいまいちだ。誰の声かはわかるようになってきた。理解はできてないけど。
一番高い声、キーキー声ではないけど、高くて心地良い。たぶん母親だ。
一番低い声、生まれた時にすごく泣いてた。たぶん父親。
二番目に低い声、うまれてすこししてから持ち上げられたりされた。あんまり声聞いてないから祖父かな。
しゃがれた声、ちょっと怖くてちびった。おろおろしてた。こっちも祖父かなぁ。
優しい声のする、なでるのが上手い人、祖母……?
母親と代わる代わるおっぱいを飲ませてくれる人がいるのもわかった。
あと兄妹っぽいの。
四人?かなぁ、みんな胸の硬さと撫で方とかがちがった。声の高さ的に男女二人づつ、たらい回し二人一組でだっこされた。一回落ちそうになって、落下するのがヒュンってなって泣いた。落としそうになった人も泣いた。涙腺よわすぎでしょ。
なんかいか口に指を入れられた。おっぱいかと思ったら違った。泣いてしまった。なんか怒られてた気がする。
首がすわるようになってきた。成長を感じる。あと目が見えるようになってきた。やったぜ。
やっぱ兄妹みたいだった。いっつも寝てるところに四人で来る。だっこしてくれたり、あやしてくれたり、なんかよくわかんないけど喋ってる。たぶん知ってる言葉じゃない。楽しそうだ。かってに笑ってしまう。
「あー」とか「うー」とか言えるようになってきた。
あと腕とか足とかもってぶるんぶるんされる。なんだこれ。むかつくから力入れてみた。むっちゃびっくりしてた。ざまぁ。
病院に連れて行かれた。なんか医者なんかよくわからん奴が興奮気味になんか言ってた。親はびっくりして喜んでた。たぶんアレ、『英雄病』だ。
ちょっと動けるようになってきた。回ると楽しい。なんか褒めてくれてるきがする。楽しい。
一日中寝返りに挑戦してみた。なんか集まりだしてなんか話しかけられてる。
成功した。なんか騒いでる。
ちょっと幼児退行してるきがする。赤ちゃんなのに幼児退行とはこれいかに。
ずりずりできるようになった。世界が広がる!周りがちょっと困ってるみたい。構わず動き回る。
はいはいができるようになった。ずりずりからは早かった。もっと世界が広がった。すっげー困ってるのがわかる。でも楽しさ優先で動きまわる。あと離乳食をたべるようになった。まずい。
歯が生えた。座れるようになった。「おー」って自分で拍手。
ちょっと言葉がわかるようになってきた気がする。
俺、立つ。
周りは狂喜乱舞、手を叩いて「おいでおいで」的なことしてくる。一生懸命歩く。むっちゃなでられる。
このころから気になる存在に気づく。毛玉みたいなやつだ。犬なのか猫なのかわからないけどもふもふして気持ちい。この世界特有の生物だろうか。
毛玉の名前がわかった。「アルル」というみたいだ。頑張って呼ぶ。
俺、しゃべる。
「あうう」しか言ってないんだけど兄妹がすっげーびっくりしてた。しゃべったらしい。
この頃から急速に成長し始めた気がする。兄妹の名前とか、親の名前とか。
母は「ルー」父は「エル」お兄ちゃん一号は「ソロン」二号は「カストル」おねえちゃん一号は「エコー」二号が「ニケ」一号二号ってのはわかってないからだ。四つ子に見える。
誕生日らしい。
おもちゃをもらった。転がすと音がでるボールだ。投げて跳ね返ってくるのむっちゃ楽しいんだけど。兄妹のおさがりのおもちゃもよかったけどこれ楽しいな。ぱない。
ちょっと自我がでるようになった。
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五歳になりました。
ソロンたちはやっぱ四つ子だった。今年で8才らしい。
三歳あたりから兄妹達と一緒に入るようになったけど、天国だ。
合法的にロリの裸が見れる、合法的にロリの股にダイブできる。天国じゃ。転生してよかった。ホント。
前世では"英雄"とかなんだかんだ言われてたが実は俺は甘えん坊なのだ。
よくだっこをせがむうちに一つ気づいたことがある。
なんかしらんが誰にだっこされても胸に顔をこすりつける癖がついている。
むさいおっさん相手でもだ。あとがっちりした胸板の厚い人だとむっちゃこすりつけたくなる。すっげー安心する。俺は別の扉を開いてしまったのかもしれない。
このむさい胸板ストロングおじさんは次男のカストル兄の剣術の先生らしい。今日から俺の先生になるんだと。あと誕生日に木の剣をもらった。いえーい。
この歳で学ぶようになったのはたぶん自制ができると判断されたからだと思う。
ソロン兄はカストル兄とはちがって腕っ節がてんでダメで、よく絡まれる。
三歳の時、ソロン兄がなんか投げられて困ってたからボコボコにしたのを覚えてる。
たぶんそれが原因でこの歳までなにも武術を習わなかったんだと思う。
「最初に名前を言って、おじぎして、『おねがいします』と言って稽古を始めるのだ」
胸板ストロングマンはそう言って、おじぎして
「ルイ・ストロングと言う。おねがいします」
胸板ストロングマンはストロングだった。
……あれ?先生なのにおねがいするのか?
「先生なのにおねがいするの?」
「質問は稽古が始まってからだ、お辞儀と、名前と『おねがいします』が先だ」
「シン……クライスです、おねがいします」
シンとしか言われてないから覚えてなかった。あぶねぇな。
「名前をおぼえとらんのか」
「つかわないもん」
「そうか」
呆れられた。ストロングマン絶対『脳筋なのかもしれん』みたいなこと思ってる気がする。
せやで!
「さて、おねがいするのは、教えることで自分も強くなるからだ」
なるほど、技を理解するということか。
「基礎を教えると、自分の中で基礎がわかるようになる。そして強くなる。だから『おねがい』だ。教えさせてくださいってな……お前にはむずかしかったかな」
ストロングマンは笑うとかっこいい。
「カストルは剛剣……つまり力の強い剣はむかなかった。だから基礎を教えるだけだったがお前は『英雄病』と聞く、剛剣以外つかえんだろう。とりあえず打ち込んできなさい」
ストロングマンは構える、隙がない気がする。教え子を侮るといけないことを知っている、この人は教えるのが上手い人だ。
「いやああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
ならばと俺は吠えながら突っ込んだ、体に魔力を送り込む感覚、しっかり足先に送り込んで全力で踏み込んだ。
手首に、腕に魔力を送り込む、全力、この一撃で魔力を使い果たすつもりで送り込み振り下ろす。
「ふんっっ!!!!」
片手で払われた、正面から純粋に力負けした。
勢い余ってストロングマンの胸に突っ込んだがやさしく抱かれた。
「英雄病とはいえとても五歳とはおもえんその一撃、見事だ。だが魔力を使い果たすと眠くなるのを失念しているな、今日はもう訓練できんだろう」
微笑むストロングマンにちょっと苛ついたので髭を掴んだ。
「いたた」
ストロングマンの髭はストロングじゃないらしい。
俺はストロングマンのあったかい胸板に安心したのか髭を掴んだまますぐ寝た。