ロリコンは蘇る
パン……カンッカラッカラカラカラ……。
日常。
発砲音、落ちて転がる薬莢。
戦闘のスターター、世界は喧騒へと変貌し『死』は充満する。
黒く長い髪、青い瞳の少女。
死んだ娘に似ていた、思わず見てしまった。
一瞬、そう一瞬だった。
飛来する黒い球形の物。
俺は少女をかばい、人生で初めての任務失敗と自分の四肢に『死』が充満するのを感じた。
大淀新、享年三十六歳。
真っ暗だ、黒い天井。手は……手錠か。
何だここは、牢獄か?俺は捕まったのか。
「起きたか、来い」
黒いフードを被ったナニカに着いて行く。
俺は一体どうなるんだ。
「大淀新……だな」
なんだ……こいつは……馬鹿でかい……ああ、こいつが閻魔大王か、そうか、死んだのか。
「俺は地獄に行くんだろ?殺しすぎた。」
「いや、貴様は転生だ。別世界に行ってもらう。」
なるほど、地獄でも扱いきれない極悪人ということか。
「違う、貴様の殺人はすべて神の試練だ。貴様は褒美として転生するんだ。自由に生きろ、説明は俺ではなく神から行われる。新たなる英雄よ、そこの扉を開け、そして歩み出せ、お前はもう殺さなくていい」
突如俺の前に扉が現れる。
英雄?俺が……か。試練か、娘も妻も、そんなものの為に死んだのか、俺を英雄にするためなんかに……。神に文句を言ってやる。この際魂が消滅してもいい。
ギィィと軋みながら扉が開く。
待っていたのは真っ白な世界。
「待っていたわよ、貴方」
そこで死んだ妻が待っていた。
「娘を連れて、転生、それが貴方への私が神に頼んだ特典よ。残念ながら私は行けないけど、アネモネをよろしくね」
「頼んだ……?どういうことだ」
「貴方は私が死んだ日、私と神との賭けによって英雄になったのよ」
「一体どういうことなんだ、お前やアネモネが死んだのは神なんていう馬鹿野郎のせいじゃないのか?」
「そうよ、だから神を恨まないで、そしてアネモネに、幸せな人生を」
「わかった」
「神から説明があるわ、また、貴方が死んだ時に会いましょう」
「ああ」
妻とくちづけを交わし、妻は消えた。
代わりに現れたのは、絢爛豪華な着物を着た美人だった。
「天照大御神、この世界の日本を管轄としています」
「よろしくおねがいします」
「今回は弟のせいでご家族が殺害されてしまい申し訳ございませんでした」
は?
「弟はとんでもない暴れ者で、弟と喧嘩して負けた神々が腹いせで貴方のご家族を……」
「どういうことですか」
いったいどういうことなんだ……わけがわからんぞ。
「うちの弟は手が付けられない荒くれ者で、どれだけきついお仕置きをしても他の神々と酒を飲んでは喧嘩をし、暴れまわるのです。さらに腕っ節が強いので極稀にですが神々は結託してうちの管轄の人間にとんでもない試練を与えたりするのです。まぁ、中には自分から試練を望む人間もいたのですが……それが拍車を掛けた形でよくうちに八つ当たりをしてくるようになりまして、いつもならちょっとの不幸で済むのですが……貴方の場合は運悪く神々が結託してしまい……すいません」
「そう……ですか……」
呆れて物が言えない、素戔嗚尊といえばキの字として有名だがここまでとは。
「その代わりといってはなんですが、転生先は優遇いたしましたので。どうか……」
「神道のトップがそんなに下手に出るものなのですか?」
「実は貴方は元の世界では第三次世界大戦を終わらせ、さらに世界義賊として大きく世界に貢献した英雄として神格化され世界中ありとあらゆるところで祀られているのです。一柱の神、それも英雄神がこれほどまでの信仰を得ることは極めて異例で、試練を与えた神々ですら貴方にビビっている状態でして、現在なので私と同格の神ですが貴方が転生先で一生を終えた時にはどうなってるか……という状態なのです」
世界義賊か……腹いせが偉くなったものだ。
「それで、転生先というのは?」
「剣と魔法の世界です、魔物も多く存在しますし、多くの国々が存在しています。貴方はそこで世界を統一するのも結構、古代遺跡を調査するのも結構。というわけです」
なるほど、銃火器がないのなら過ごしやすいな。
「転生ということは、もう一度生を得るということですよね?妻の説明では娘も一緒だと聞いたのですが」
自動で進んでいくなんてことはないだろうし、生まれてくる子が娘なのだろうか。
「娘さんは後に生まれてきます。貴方は零歳から人生を歩んでいただくことになります」
結婚できればアネモネとは会えないのか。なんとしても結婚せねばな。
「器の説明ですが、その前になにか質問はございますか」
古代遺跡と魔物と言っていたな……なんたらクエスト形式なのかモンスターなんたら形式なのか……なんたらの軌跡形式なのか気になるな。
「魔物や古代遺跡はどのように管轄されているのですか?」
「貴方はゲーマーでしたよね?英雄○説形式といえばわかるでしょうか」
「なるほど、なんたらの軌跡ですか」
ということは冒険者になるのに試験を受けなければならんか。
「はい。他に質問は?」
「いえ」
「では、器の説明をさせていただきますね」
転生先の説明か、というか娘の教育環境のほうが気になるな。
「貴方はとある王国の女給貴族の五男です。貴方の筋肉には魔力路が張り巡らされており、その身体能力は鍛えると魔物と肉体のみで戦えるようになるでしょう、ちなみに転生先の世界ではこれを『英雄病』と呼んでいます、病と言われてしまうのは、一日活動するのにも莫大なエネルギーが必要だからです。また、頭は前世の貴方ほどしかありません。ここはどうしても変えられないところでした」
そんなこと言われたら俺が頭悪いみたいな風潮が生まれてしまうじゃないか。まぁ、実際頭はよくないな……妻にはさんざんバカにされた記憶しかない……。
「なにか質問でも?」
「いえ、頭が悪いと言われると否定もできないので少し複雑な心境になるだけです」
少し微笑まれたが俺は大人の女性に興味はないし不快なだけだ。
「器の才についての説明をさせていただきます」
「才能もいじれるのですか?」
「はい、体質は変えられませんが才能は変えられるのです。体質についてはかなり複雑な自動管理をしているので難しいのです」
めんどくさいだけか……。どこの管理職もそんなもんだな。
「なにか希望はありますか?」
最初から才能をもっていても、なぁ。面白くないな。
「全てにおいて伸びしろが無限の才、というのは?」
「どういうことですか?」
「あらゆる物事を得手不得手なくこなせ、一般より少し習得が早い程度で、熱を向ければ向けるほど能力が上がっていく、というのは可能ですか?」
「めんどくさいですね」
ものすごく嫌な顔をするなこのババ……神。
「いま失礼なことを思いましたね?」
「ぶっちゃけ小さい女の子にしか興味が無いもので」
「私は年寄りですか、二十歳ほどの見た目のはずですが」
「十五をすぎればダメですね」
「貴方の妻の見た目はその歳を過ぎていたはずですが」
「小さい女の子を育てるのがいいのです、逆光源氏ですよ」
「そうですか……」
まぁ引くよな。
「希望通りの才にしていただけるので?」
「まぁ、はい」
じゃあ、頼みます。
暗転、目が覚めると俺はケツを叩かれていた。