第七話 シルバースターで夕食を
午前一時半、俺は店内の椅子に一人で座っていた。優一と優二は先んじて徒歩で出発し、すすき公園周辺にアンブッシュしている。彼らは目立たないよう拳銃や暗視ゴーグルのみ携行し、あとの装備は俺がまとめて持って行く手筈になっている。
サングラスにも一応連絡を入れたが、現在おとり捜査中で出来れば手を出したくないようだ。その代り、相手方の情報を収集するという条件付きで、事後の処理を頼む事が出来た。
優一が調べたところによると、これから対峙するであろう相手は日本国内の暴力団、いうところのやくざの末端である可能性が高いらしい。何とか会……そう、日華会といったか?サングラスに聞いてみたところ、その本部は中国にあるようだ。ブラックキャットの一件によって連中の信頼は著しく低下し、配下の組織もかなりの数が摘発を受けた。俺達は藪をつついて、蛇の皮をはぎ取ってやったわけだ。そのせいで危うく噛み殺されるところだったが。
「定志、ちょっといいかい?」
店主が俺の前の席に座った。
「例のUZIだが、サングラスに調べてもらったところ、やっぱり日華会から出て来たものだ」
「だろうな。他には考えられん」
「おとり捜査によって、連中がそれ以外の武器も運用している事が分かっている。AK74は分かるな?」
「FPSでおなじみAK47の小口径型だ。高初速で貫通力の高い5.45mm口径の弾をばらまける。47に比べれば一度に携行出来る弾薬の量も増やせるし、集弾性もはるかに高いだろう。射程とタフさに固執する訳じゃなければ、最も高性能なAKといえる。何度か使ったが、それがどうした?」
「連中は現在あれの生産に力を入れているそうだよ。AK74Mに準じた、木製部分を樹脂製部品に置き換え、かつ折りたたみ銃床としたモデル。これがかなり高品質で、連中は中国製の弾と共に紛争地帯で活動するオペレーターに供給しているらしい。買い手はたっぷり居るそうだ」
「砂漠や湿地帯で使ってもびくともしないからな。M4が使いものにならんというのは言い過ぎだろうが、悪環境ではAKが歓迎される」
そう言いながら、砂漠での戦闘を思い出した。あの時使っていたのはイスラエルから流れて来た中古のガリルARMだったが、仲間のM4やM16が度々ジャムを起こしていたというのに、俺のガリルは数度だけ装填不良や閉鎖不良を起こしただけだった。それも、ハンドルを引いたり蹴ったりしてすぐに直った。丈夫であるという事は、接近戦で相手を殴りつけたりするにも役立つ。M4ではハンドガードの元からポッキリ折れてしまいそうなやり方でも、びくともしない。
「オウム真理教を思い出すな。あれはまったくもって使いものにならなかったらしいが」
「良かったな。日華会はサリンは持ってない。いや、持ってるのかもしれんが、まだそこまでは分かっていないんだろう」
「そこも含めて情報収集だ」
俺がそう言って体を背もたれに預けた時、店のドアが開いた。冨野だ。うまく隠しているつもりなのだろうが、やたら肩かけ鞄を気にしているのを俺が見逃すとでも思っているのだろうか。
「よし、トランクを開けてくれ。荷物を積む。あんたは運転席に居てくれていい」
そう言って俺は奥に戻り、ショルダーホルスターを身に着けた。ファイブセブンの装填を確認して装備し、タイヤメーカーの大容量ベストを着て隠した。装備は全てポケットに詰め込んである。ワイヤーと麻酔も、かさばるものではないので携行する。
ケースを肩にかけて出て来た時には、富野の軽乗用車が店のすぐ前でアイドリングしていた。店を出、開いたトランクに装備を押しこんで、助手席に乗る。時計の針はもうすぐ二時を指す。
「少し遅れるかもしれん」
そう言うと、富野は一言「急ぎます」と言って車を出した。急ぐ事はない。お前さんの娘も連中の仲間なんだからな。
「安全運転で頼むぜ」
俺はそう言ってシートベルトをして、シートを少し倒した。犬小屋から四つの目が、心配そうにこちらを覗っていた。
午前二時五分、俺と冨野はすすき公園に着いた。近くに車を停め、冨野は紙くずを詰めたバッグを抱えて、公園の中に入っていった。トイレの前で二人の男が電気ランタンを持って立っていたので、暗視ゴーグルが無くてもそちらを覗う事が出来た。車から降り、小型の双眼鏡を取り出してそちらを覗くと、何やら口論しているようだった。車の中で俺を撃たなかった事に関してだろう。無理もない。生身の人間を撃つのは訓練を受けた兵士であっても簡単ではないのだ。
視線を動かしてみると、やはり例の廃墟に光が見える。車のライトだろうか?
またトイレの方を見ると、富野と男二人はその廃墟に向かって歩いていた。そして、その後ろにはひとつ人影が見える。間もなく人影は片方の男の首をホールドし、銃を構えた。男も慌てて懐に手を突っ込んで銃を出そうとしたが、その前に人影はかかえている方を締め落とし、もう一人を掴み、投げ倒した。間もなく冨野に銃を突き付け、伏せさせる。俺は襟を持ち上げ、声をかけた。
「流石だな、優二。いい仕事だ」
間もなく人影がこちらに手を振って来た。
「任せろよ。優一が車の方を確保してる。すぐに行くぞ」
「その前に木偶の坊をどこかに隠そう」
「了解」
優二はそう言ってランタンのスイッチを切った。光源が消え、その周辺は暗闇に包まれた。俺は暗視ゴーグルを装着し、そちらに近づいた。
優二が気絶した敵をトイレの中に隠している間、俺はその壁で冨野に銃を突き付けていた。冨野は壁にへばりついて怯えている。
「よくも騙してくれたな。お前の娘は今頃カルトのあんちゃんのベッドの上か?」
「嘘じゃないんです、信じて下さい……。あの子を貧乏させて来たのは本当で、この組織に従っていたら生活を助けてもらえるんです」
「麻薬や武器を売りさばき、罪の無い人間を平気で痛めつける組織だぞ。そもそも、お前の家の生活はそこまで悪いとは思えん」
「周りと違うんですよ?いい物を身に付けていなければ、見下されるんです。耐えられませんよ……。あなたに何が分かるっていうんですか」
「ああ、分からんね」
俺はそう言って冨野を立たせ、壁の方を向かせた。スチール製の注射器を取り出し、その首に針を刺して注射した。間もなく冨野は意識を失い、くずれ落ちた。
「終わったぞ、定志」
優二が手をパッパと叩きながらそう言って来た。俺は頷き、富野をそこに座らせ、優二と共にトイレから出た。
「ま、待ってくれ!俺は本当に何も……」
廃墟に入ってみると、優一が敵の一人を壁に立たせ、銃を突き付けていた。顔を見ると、春樹だった。
「久しぶりだな、春樹。やくざの下っ端の仕事とは、お前も地に落ちたな?」
「ち、違うんだ。俺は里香に誘われて……」
またあのメス犬か。今度という今度はとっちめてやらんとな。
「分かった、奴は俺が排除するから任せておけ。心配するな」
そう言って、俺は春樹の腹部を殴り、続けて首に手刀を叩き込んで意識を奪った。まったく、こいつも気の毒な奴だ。
俺が春樹の服を探っていると、優一が車から自動小銃を引っ張り出して来た。黒いストックのAK。例のAK74Mか?優一はそれをじっくり観察した後、口を開いた。
「AK101だ」
「5.56mmを使うやつか。これもプライベートオペレーター向けに輸出しているんだろうな」
中には三丁が隠されており、それぞれまだ新しいようだった。弾丸は30発装填され、予備の弾倉もアタッシュボードに入っていた。これはいい。
5.56×45mm弾は、現在西側諸国の殆どが採用している弾丸で、つまり米軍のM16、M4をはじめとした小口径ライフルの標準的な弾薬となっている。
シルバースターで話していた通り、AKシリーズはそれらの銃とは一線を画す信頼性を誇っている。だが、西側の兵士は民間軍事企業のオペレーターであっても、味方との共同作戦を有効に進めるため、5.56mmの火器を使用したいと考える。そこで、このAK101だ。
AK74Mと同様の操作性、整備性、信頼性を誇り、同時にM4と同様の弾頭を使用できる。彼らにとっては適した武器といえる。日本の自衛隊、並びに警察の一部の特殊部隊でも5.56mmのアサルトライフルを使用している。この国で活動するなら、5.56mmの方が都合が良いのは間違いないだろう。
「こんなものを作ってるとはな。しかしAKとは懐かしい」
優二はそう言って、AK101をいじっていた。
「さぁ、行くか。春樹がこの車に乗ったオフィスの場所を吐いた。俺が運転するから、優二は助手席で道を見ててくれ。定志は後部座席で後ろを見張ってくれるか?」
俺と優二は頷き、AK101の銃床を折りたたんで車に乗った。
「おい、だいぶ明るいぞ」
車は市街地に入り、やっと通れるような細い路地をいくつか抜けて、女郎屋の並ぶ通りに入った。黒い、何だったか、ベンチ?ベンツか。あれが時折停まっているのが見える。ピカピカにしてあるが、ボンネットに一発貫通させてやったらどんな顔するかな。もしかしたら帰りに確かめられるかもしれん。
俺達が乗っている白い軽バンはかえって目立ち、時に妙な目線を感じる事もあった。おそらく、そいつはこの車に乗って公園に行き、トイレに詰め込まれた連中の事を知ってる奴だ。
「そろそろ着くぞ」
明るい通りを抜け、間もなく暗いシャッター街に入った。その中に一つ、やけに明るい事務所がある。そこが目的地だった。
AK101を片手にぶら下げ、三人で車から降りた。人質の救出ではなくなったので、狙撃銃は必要無い。銃床を展開し、入口のドアをノックする。間もなくドンドンと足音が鳴り、強面の男が一人出て来た。
「今何時だと思って……」
言い終わるまでにその顔面を銃床で殴り付け、続けてその後頭部を壁にぶつけて倒した。
「おい、何やってんだ!」
階段の上から一人、もう少し年かさの男が出て来て、俺達を見るなり懐に手を突っ込んだ。銃が出て来る前に優一がその手と胸を撃った。銃声が鳴り響き、次の瞬間にはその角から拳銃が飛び出し、あさっての方向に弾を連射した。俺と優一はそこに牽制射撃を行い、手が引っ込んだのと同時に優二がフラッシュバンを投げ込んだ。直後に爆音と閃光が階上を包み込み、中に居た男達はあまりの音にギャアギャアと喚き回った。
男達の視力が回復した時、彼らの目の前には銃口が突き出されていた。その奥には、彼らが追っている男達の顔が見える。男達は慌てて手を上げた。
「お前達に危害を加えるつもりはない。だが、妙な真似をしたらすぐにその頭を吹っ飛ばしてやる」
「何が狙いだ!」
酒瓶を傍らに置き、机の向こうで椅子に座っていた男が言った。俺はその頭に銃を突き付け、答えた。
「あんたが責任者か?おたくらの銃があんまりにもいい品でな。あんまりにも良すぎるから文句を言いに来たのさ」
「銃ならくれてやる。弾もやる。さっさと俺の目の前から消えやがれ」
男は銃を向けられているというのに、その表情は怒りに満ちていた。かつ、顔が真っ赤だ。もうすっかり出来上がっているようだ。
「言われなくても貰って行くさ。あと、出来れば情報というものを頂きたい。これは殆どの状況にあって、最強の武器になるからな」
「じゃあ教えてやる。俺達は警察からスパイを送り込まれているがな、そいつはもうとっくに俺達の仲間だ。偽の情報を警察に送り込み、連中を誘導してるとこだよ」
「偽の情報?」
「そうだ!」
男は笑いだした。
「俺達の麻薬流通拠点を漏らし、逆に連中を待ち伏せする。馬鹿共め、御自慢の特殊部隊と機動隊を失ったらどんな面をするかな?」
これはいい情報だ。だが、急いでサングラスにでも連絡をつけなければならない。しかしこの連中、この重大事項を話したという事は……。
「さあ、冥土の土産はこれだけだ!地獄に落ちろ!」
男がそう言うと同時に、室内に居た他の3人が匕首に手をかけた。が、即座に射殺。男だけが目の前に残った。すぐにその胸に狙いを定め、言う。
「動くな」
男は静止にも関わらず、机の下に手を伸ばした。俺はその胸に二発撃ち込んだ。その死体は窓ガラスを破り、地面に転落していった。すぐに男の手が伸びた所を確認すると、どうやら警報ボタンらしかった。まずいな……増援が来るかもしれん。
「優一!車に戻って準備しててくれ!優二は携帯電話を奪え!俺はラップトップを持って行く!」
今聞いた情報は何らかの形で詳細が残されている筈だ。それをサングラスへの土産にしてやる。もちろん、生きて帰れればの話だが。
俺達が大慌てで車に乗り込むと、今通って来た方向から黒のベンツが数台走ってきていた。夜なので中は見えないが、何か俺達にとって嬉しくない物を持っているのは間違いない。
優一は回転数を上げてクラッチを繋ぎ、急発進して間もなく転回した。アクセルを全開まで踏み込み、急加速してベンツの間めがけて突っ込む。すれ違いざまにベンツのミラーが砕け散り、しかし同時に弾丸が発射され、俺の頭のすぐ右の窓ガラスが割られた。続けて弾が飛び、後部ガラスが割れる。俺はシートから銃と頭を出し、背もたれに銃を当て、ハンドガードを上から抑えつけて、タイヤを狙って数発ずつの連射をした。お互いに動いているのでなかなか当たらなかったが、こちらのトランクスペースを一発敵の弾丸が貫通した時に、向こうの車を一台パンクさせ、スリップさせた。後続車が避け切れず、その側面に突っ込む。女郎屋通りに差しかかった頃には、追っ手の車は二台になっていた。
その時、大きな破裂音が鳴り、車がステアリングを失った。何とか持ち直したところで、優一は怒鳴った。
「車を捨てる!荷物持って逃げるぞ!」
優一が先に出て、今降りた車を遮蔽物にして追手に向かって撃ちまくった。その隙に携帯電話はポケットに押し込み、ラップトップは俺が左手に抱えた。その他の荷物は冨野の軽乗用車に置いてある。
「よし、行こう!」
俺はそう言って優一の肩を叩いた。俺はすぐ側面にあった女郎屋に押し入った。ベンツが止まり、ドアが閉まる音が不快に聞こえる。間もなく銃声。だが、俺達はその前に階段を駆け上っていた。接客のおばちゃんの悲鳴が聞こえるが、構いやしない。
階段を上り切ると、男と娼婦が情事の真っ最中だった。二人は下での惨事に気が付き、すぐに俺達を見て目を丸くした。
「部屋の隅に行け!」
優二がそう言うと、二人は慌ててその言葉に従った。優一が階下にフラッシュバンを投げつけた。俺は窓に向かって数発撃って、足で蹴ってそれを破り、くぐり抜けた。優一もすぐに続き、優二はスモーク弾を部屋に放ってから来た。
屋根の上を駆け、すぐ裏の少し低くなった建物の屋根に飛び移る。続けてまた低くなった、一階建ての建物に飛び移り、今度は地面に飛び降りた。衝撃に襲われたが、パラシュート降下よりはましだ。落し物が無い事を確認し、すぐにまた走りだした。
少し走ったところで、俺の目に見覚えのあるビーノが見えた。その隣にRZ50。近付いてみると、やはり思った通りだった。ここはどうも茶髪の家らしい。隠れるには丁度良いな。
俺は二人に考えを伝えて、その家の玄関に近づいた。チャイムを鳴らしたが、誰も出て来ない。しかし電気はついている。
窓を割ってしまうと隠れ場所にならないし、ピッキングするにしてもこれは二重カギだ。向こうさんに出て来るつもりが無いなら、このプランは無しだ。と、その時だった。
「カギが刺さってるぞ」
優二が二台停まった原付を見て言った。見てみると、二台とも鍵がハウジングに刺さったままだ。運が良い事に、サイクルロックも付いていない。
「盗む事になるが?」
優一がRZ50に乗って言った。優二はビーノのメットインスペースにラップトップを押し込んだ。乗って先導してくれるつもりのようだ。俺は優一の後ろに無理やり座り、答えた。
「いや、ちょいと無言で借りるだけだ」
追手のライトが近付いて来ている。俺はスモークを家の窓に向かって投げつけた。窓を割り、間もなく中から煙が漏れ出て来た。今回は忙しい。この程度で簡便してやる。
俺達がシルバースターに到着したのはその三十分後だった。物はすすき公園に停め、冨野の軽乗用車から残った荷物を出して、徒歩でシルバースターまで向かった。追手は茶髪の家の前で止まっていたらしく、あの後はそう忙しくはなかった。
店主がもう帰ってしまっていたので俺達は合鍵を使って入り、奥の部屋でAK101を分解・清掃していた。時計は午前五時を指し、朝日が出てきている。
コンバットハイの反動か、三人ともあまり元気が無かった。
「結局ファイブセブンは使わなかったな」
優一がぼそっと呟いた。
「拳銃を使うような仕事じゃなかったからな」
優二も疲れた様子でそう言った。銃の整備はもう終わっている。俺は眠気こそ催さなかったが、ただ少し疲れていた。
気がつくと、優一も優二も居なかった。どうやら俺は眠ってしまっていたらしい。眠くないと思いながらも、疲労は大きかったようだ。
店に出てみるともう既に開店し、テーブルの一つにサングラスが座っていた。俺は目を擦りながらラップトップと携帯電話を持って、そのテーブルについた。
「よう、サングラス。早いね」
「いま七時になったとこだ。それが情報?」
俺は荷物をサングラスに渡した。
「あー、このラップトップはモニターが割れてるな。ハードディスクは大丈夫そうだが」
「お宅らの送り込んだネズミが向こうに取り込まれてる。近いうちに大掛かりな摘発をやるんだって?」
サングラスはそれを聞いて、目を丸くした。
「おいおい、一体どこから聞いたんだ」
「連中が教えてくれたよ。気をつけろよ、罠らしいからな」
「何てこった。親父の知り合いでベテランなんだが」
「決して裏切ったと決めつける訳じゃないが、慎重になった方がいいと思う。場合によっては消さなきゃならないかもな」
俺はそう言って席を立ち、いつものチキンバーガーを注文した。そこから席に戻ると、サングラスは何か電話で話していた。すぐに切り、珍しく深刻そうな様子で口を開いた。
「定志、潜入の仕事を引き受けてくれないか?」
「通り抜けられるような換気ダクトがある場所なら即オーケーを出そう。そうでなければ条件付きだ」
「残念ながら後者だ。条件を聞かせてくれ」
「チキンバーガーのお代を払ってくれ」
間抜けな表情をしたサングラスを傍目に、俺は大きく伸びをした。うむ、悪くない朝だ。面倒な仕事が舞い込んで来さえしなければ最高の朝だったのに、残念だ。
「じゃあ、後でまた連絡する。それまではゆっくり休んでてくれよ」
「ああ、おそらく単独潜入になるだろうからな。体力を温存しとくのが賢明なのは分かってるさ」
「それじゃあ……」
サングラスはそう言って、サンドイッチを少し残して出て行ってしまった。さて、今日は学校の優一達の様子でも見に行ってみるか?
俺は残ったメニューを全てたいらげ、奥を少し片づけてから店を出た。