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第六話 シルバースターで間食を

 目的地に着くと、デザートアローが無線で居場所を指示して来た。木の上に立ち、そこから双眼鏡で様子を覗っていた。ジャングル戦においては、少なくとも俺の知っている中では彼の右に出る者は居ない。

 アローは木から下りて、俺達と合流した。

「男は殆どやられてしまったようだ。女子供はこれからじっくりいたぶられる」

「だろうな。“だるま”を見るのは嫌だ。すぐにやるぞ」

 俺はそう言ってM4を背負い、M1911にサプレッサーを装着した。ポーラースターはアローの代わりに気に上り、狙撃に備えた。アローはUSPをホルスターに突っ込んではいるが、それより腰にぶら下げた大型のナイフの方が役に立つようだ。

 その小規模な村に、茂みから侵入する。俺もアローもウッドランドの迷彩服を見に纏い、遠くから見ればほとんど景色と同化していた。茂みのカモフラージュからゆっくり這い出て、建物の角に陣取って敵を探す。目の前に一人、やや遠方に一人。アローと目くばせをして、俺が目の前の一人を始末する事を伝えた。

 足音を殺して背後まで近付き、口を塞ぐと同時に急所を数度にわたって刺し、えぐる。その間にアローの放った矢がもう一人の胸に突き刺さった。死体を角に隠し、再び角から様子をうかがう。

「こちらスター。ハウンド、敵はあと6人見える。二人は建物の中に入っていったが……」

「了解。スター、四人はここから見えている。あとの二人は頼んでいいか?」

「いいだろう。そっちの進行具合にしたがって撃つ」

「任せたぞ」

 ナイフを収め、1911を抜く。角から銃だけを出して、見えているうち二人を撃った。残った二人が振り返り、すぐにこちらに銃を向けて来た。が、撃つまでもなくアローが矢を二つ同時に構え、放った。敵の首は矢尻によって大きくえぐられ、血を大量に吹きだしながら倒れた。

 間もなくサプレッサーにかき消された銃声が二発聞こえ、スターから通信が入った。

「二人始末したぞ。俺はここで見張っておくから、中のは頼む」

「了解」

 俺はアローを連れて、その建物の壁に張り付いた。入口から少しだけ顔を覗かせると、敵が一人見張っているようだ。もう一人は部屋で何かやっている。子供の悲鳴が聞こえるが……ここに残った村人は集められているのだろう。

「アロー、あの見張りを頼む。俺は中の奴を」

「了解、任せとけよハウンド」

 アローはそう言って、敵が俺達の鼻の先まで近付いて、これから外に出て様子を覗おうという時、それを捕まえてナイフを突き立てた。その脇を通り抜けて、部屋の中に入り込む。一人がナタを持ってこちらを振り向いたので、その右手首をすばやく切り付け、武器を捨てさせた。そしてその首にナイフを突き付ける。

「動くな」

「待ってくれ!俺は命令されて……」

 男が先ほどまで向いていた方向を見ると、まだ幼い女の子が四肢を切り落とされていた。しかも裸で。男の方を再び見ると、ズボンのチャックが開いている。ナイフを持つ右手が震えるが、それを押さえて尋問する。

「どういう任務だった。教えてくれれば、俺はあんたを殺そうとは思わない事だろう」

「こ、この先にサイレントハウンドとポーラースター、デザートアローが野営していると聞いて、そのついでだったんだ」

 くそっ、情報が漏れていたのか。ヘッドクォーターに連絡した時に盗聴されていたのかもしれない。

「あと、異民族が居れば排除しろと……これは常に優先される任務なんだ。そう、任務なんだよ」

「ほう、まだ10にもならんような少女の手足を切り落としてレイプするのが任務か」

「きょ……協力したろ?助けてくれ」

 兵士は涙を浮かべながら、手を合わせた。

「ふん、この子はもう手を合わせる事も出来んぞ。だが俺は約束を守る。俺はあんたを殺すつもりは無い」

 そう言って、俺はナイフを兵士の胸に突き立てた。

「うっ……なん……で……」

「この子はあんたを殺しても、それでも足りないだろうよ。俺の意志じゃない」

 そう言って抉り、もう一度刺してとどめを刺し、その体を蹴りながらナイフを抜いた。ついでにその野戦服でナイフを拭き、鞘に戻す。そして今度は銃を抜き、まだ動いている少女の頭に銃口を向けた。ここではもう生き返らせる事は叶うまい。

 迷わず一発撃ち、もう一発を心臓に撃ち込んだ。

 銃をホルスターに戻してそこから背中を向けると、他の生存者がいっせいに泣きだした。安心したのか、それとも目の前で起こったあまりにも救いの無い光景を目の当たりにしてか。

 いずれにせよ、ひどい気分だった。


 建物から出ると、アローとスターが目を伏せていた。さっき中で起こったことを全て聞いていたのだろう。

「埋めてやっている暇は無い。重要な書類はあったか?」

 そう聞くと、アローが一枚の地図を出した。穴が開いているが、重要な部分は少し血で汚れているだけだ。

「何てこった。この印がついてるのは俺達が出て来た拠点じゃないか。無線で知らせておこう」

「もうやったよ。連中、今すぐ帰って来いとさ。休暇を出してくれるとよ」

「そこまでたいした働きじゃない筈だ。全員気を抜くなよ。もしかしたら消されるかもしれん」

 俺達はこれまで、少年兵の割には大きな権限で仕事をしてきた。だが、最近監視の目が厳しくなっている。そこに付け込んで、情報を持った少年兵を“保護”し、“おしゃべり”を楽しんだ後に、“決して飲み食いに困らない環境”を用意した例があると聞く。情報を保護するにはそうなる前に消すのが一番だろう。


 明朝俺達は拠点に着き、いつも通り鶏肉のメニューと、大量の酒を用意された。調理担当の兵が高級品だと言っていたが、俺達は口をつけなかった。決して俺達を油断させるためではなく、暗に抹殺計画を知らせるためのものだった。

 結局、俺達はその日の夜、負傷者を一人も出す事無く脱走した。といっても、実質は逃がしてもらった訳だが。

 その後の事は、少々複雑になる。要約すれば、俺達はその後とある諜報機関に引き抜かれ、日本に送り込まれた。命令を待てと、それだけの指令を受けて。

 その後は通知表の2の数字を見る度に安堵し、勘を鈍らせないために半ば殺し屋のような仕事も引き受ける事にした。そうして、四年が経った。


 目が覚めると、俺は自分の家の台所に居た。椅子に座り、そのまま寝てしまっていたらしい。窓の外は暗く、もう時計は九時を指している。体が痛いが、これからシルバースターまで道具を取りに行かなければならない。

 その辺りのチンピラなら何とでもなるが、そうでなければ情報が流れないように処置をとる必要が出て来る。しかし、大変な事件が起こったものだ。

「14歳の少女……か」

 平和な国だと聞いて来てみれば、中二の少女が金目当てで売春し、それが誘拐されたと聞いても警察は仕事をしない。いや、或いは介入できない組織が関わっているのかもしれないな。とかくホットな国、その中でもホットな街に住みついてしまったもんだ。

 急にあの時の、少数民族虐殺の光景がフラッシュバックした。四肢を切り落とされた少女の姿も。そして急に意識が薄くなり、椅子から横に倒れてしまった。頭を打ち、意識がさらに朦朧とする。

 いや、違う。頭を打ったのが原因ではない。これは……ガスだ。


「捕えましたよ、少佐。間違いありません、ハウンドです」

「多少はアカ抜けたか。だが、目は変わらん。コードネームの通り猟犬のように野蛮で、そして鋭い」

「健康検査の結果は良好です。解放しても?」

「ついでだ。シルバースターだったか?あの店まで送ってやれ」

 二人の男の声が聞こえていたが、目隠しをされていたので分からなかった。そして、その後すぐにまた意識を失った。くそっ、麻酔か。


 気がつくとシルバースターの、奥の部屋に居た。

「おやっさん!俺をここに連れて来たのは誰だ!」

 ドアを勢いよく開けて店主に詰め寄ると、店主は首を横に振って、カウンターの上に乗せてあった札束をこちらに寄こした。なるほど、口止めされたか。まぁいいだろう。何者かは分かっている。

「あと、プレゼントだと言ってこれを……」

 そう言って店主は小ぶりな木箱をひとつ渡して来た。受け取って中を見てみると、暗殺用のワイヤーと麻酔薬、そしていくつか注射器が詰め込まれていた。

「有効に活用してくれって言ってたけど、これは戦闘用の装備ではないよね。もしかして……」

 店主は少し心配した様子でそう言った。俺はため息をついて、頷いた。

「もしかしたらおやっさんに何か仕事が来るかもしれん。その時はすぐ俺に連絡を入れてくれ」

 俺はそう言って木箱を閉じ、奥へ持って行った。どうやら来るべき時が近付いてきているらしい。だが、その時まではこの道具も自由に使わせてもらうとしよう。

 このワイヤーはどうやら強化樹脂製で、何に使うかと言うと、絞殺以外にはあまり使いようが無い。出血を抑えて対象を殺害する事が出来るが、限定されない状況ならナイフの方が便利だ。しかし金属探知器をパスする事は出来るだろう。その上、銃やナイフのように隠し場所に困る事も無い。しかし、そんな厳重な警備の下に送り込まれる可能性があるという訳か。

 麻酔薬の方は、まぁ相手を眠らせるぐらいしか役に立つまい。諜報機関の新薬か?すぐに眠らせるほどの劇薬なら、たいてい眠るだけでは済まないだろうが。


 木箱を装備棚に置いた所で、携帯電話から着信音が鳴った。相手は優一。すぐに電話に出る。

「定志、今何処に居る。まだ行ってないだろうな?」

 その声はやや慌てているようだった。

「ああ、例の組織に眠らされて、今はシルバースターに居る」

「良かった。夜の仕事の件だが、罠だ。俺の所に連中から暗号化されたメールが来た。翻訳して驚いたよ」

 罠だと?

「どういう事だ」

「ブラックキャットを裏で操ってた連中は、やはり中国の犯罪組織だ。連中、あんたを捕まえて殺すつもりだったんだよ」

「というと、14歳の少女の話は?」

「あの冨野という女に娘は居るが、名前は里香だ。この前のアバズレだよ。覚えてるか?」

「まさか……」

「定志!女の話を信じてたのか!?」

「すまん。子供が絡む話となるとつい……」

 まずかった。迂闊だった。

「とにかくだ!連中を迎え討つぞ。例の場所にはお前とその冨野だけで行け。今すぐ行くからな。それまで待ってろ!」

 そう言って優一は電話を切った。時計を見てみると午前0時。冨野が車をよこしてくるのは午後1時。まだ余裕があるにはあるが……。

 俺は携帯電話を机の上に放り、椅子の上にどかんと座った。くそっ、だまされた。だが、現場調査で得た情報は多少は役に立つ筈だ。おおまかな作戦は変更しなくていい。出て来た連中を排除し、車を奪う。その中で可能なら情報収集だ。

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