第五話 シルバースターで昼食を
今度は徒歩でシルバースターまで戻ると、11時半と、丁度良い時間になっていた。店主にチキンバーガーの分を今すぐ作るように頼み、出入り口が見やすい席に陣取った。武器は持っていないが、何とかなるだろう。さて、三十分間どうやって暇をつぶすかな?そういえばホルスターがあったな。
俺は店主に一声かけて、奥の部屋に入った。あまり広くはないが、俺と優一が使うステアーAUGが壁に二つ掛けられている。その下に拳銃用のレッグホルスターとショルダーホルスターが人数分ぶら下げられている。そのいずれもM1911などの大型拳銃用で、その上マジックテープである程度サイズを調整できるようにしてあるので、たいして問題は無いだろう。サプレッサーを装着したまま出し入れ出来るように、銃口側には穴を開けてある。
以前は俺がM1911A1を、優一・優二がUSPを使っていた。ただ、そのいずれもある仕事をこなした際に、護衛していたターゲットに渡したままだったので、ここにはそのホルスターだけしか残っていない。いずれもサプレッサー装着用に、延長してネジを切った銃身を組み込んであった。
かつての護衛任務に思いを馳せていると、気がつけば時計は正午を差していた。扉の開く音が聞こえ、店主の声も聞こえる。そして、間もなくその男が部屋に入って来た。
「はじめまして、ミスターカワカミ・サダシ。いや、サイレントハウンドとお呼びした方がよろしいですかな?」
「いや、そのコードネームは使ってない。定志で頼む、レッドハット」
その老紳士は名前の通り赤い中折れ帽を被っていた。そして、手元には紙袋を二つ提げている。
「まぁ、座って下さい」
そう言って机の椅子を指すと、老人はその通りに座った。俺も同じように、その向かいの席に腰かける。引き出しから金の入った封筒を出し、机の上に置く。
「これが資金だ。確認して頂きたい」
「いや、貴方がたの事は信用しておりますから」
そう言って老人はそれを懐に収め、紙袋をこっちに渡して来た。
「ファイブセブン拳銃三丁、専用サイレンサー三つ、交換用インサーともお付けしております。あと、弾をとりあえず100発。ご注文いただければいつでも届けます」
「ちょっと見せてもらいますよ。子供は新しいおもちゃが大好きなんだ」
そう言って中を見てみると、確かに拳銃が包まれていた。出してみると、間違いなくFNのファイブセブンだ。特に珍しい点は無いが、バレルだけはサプレッサー装着用に交換されている。
「これは民間向けモデル?」
「いや、軍用モデルです。貫通力と殺傷力は保障します」
「なるほど、いい品だ。これからもよろしく」
そう言って右手を出すと、レッドハットは一瞬考えてから握手をした。何と言うことはなく、握手を終える。
「あんた、.45をお好みで……?」
「その通り。M1911A1のバレルとサイトを交換したやつを使ってた。今ここの店主にハードボーラーの5.1インチとパーツを頼んでるんだけど、なかなか手に入らなくってね」
「お手に入ったらご連絡ください。.45もこちらで扱っておりますから」
「その時になったら頼みますよ。さて、おやっさん!チキンバーガー一つはテイクアウトにしといてよ!」
そう言って銃を置き、レッドハットを連れて店に出る。紙袋に入ったチキンバーガーを受けとって、レッドハットは嬉しそうに店から出て行った。
「気のいい爺さんだが、軍用のファイブセブンを手に入れるとは、ただものじゃないね。FNとコネクションがあるのかな?」
そう言うと、店主はチキンバーガーをこっちに寄こしながら、答えた。
「まぁ、一応品物をチェックしておこうよ」
「そうだね」
俺はもう一度奥に戻って行った。夜までに準備しておこう。
ハンバーガーを食い終わり、三人分のファイブセブンを清掃・注油しようと思ったが、分解して見てみるとかなり念入りに清掃され、注油も的確な場所に、適量よりやや多めになされていた。サプレッサーにも異常はなく、弾頭も程度の良いものばかりだった。こんな商売してよく赤字にならないもんだ。
さて、拳銃はこれでいい。狙撃銃も構えておくか?ここにあるもので十分の筈だ。
壁からAUGを取り、簡易分解して組み替える。通常の5.56mmの構成に、銃身を高精度の長いものに換装したもので、おそらくこれで事足りるだろう。さらにサプレッサーを装着し、机の上に乗せておく。ブラックキャットでも使ったケースを用意して、銃身とサプレッサー、弾倉を外した状態で格納する。
拳銃の弾倉に20発装填し、装填する。一度スライドを引いて薬室に一発送り込み、弾倉を抜いてさらに一発押し込む。これで21発を連射出来る訳だ。サプレッサーを装着し、ショルダーホルスターに突っ込んでおく。あとはウェストポーチに暗視ゴーグルとその他の便利グッズを突っ込んでおけば完璧だろう。
時計を見ると、午後二時だった。それなりに時間をかけてやったもんだ。夜になるまでに照準器を調節しておきたいが、おやっさんに頼んでみるか。
荷物を持って部屋を出て、店主に声をかける。
「新兵器の試し撃ちとAUGの調整をしたいんだけど、どっか無いかな」
「そう言うだろうと思って警察のレンジを一つ貸してもらうように言っておいたよ」
毎度、気の利くおやじだ。
「分かった、今からカブで行くよ」
「あー、でも迎えの車を出すって言ってたよ。あ、言ってる間に来た」
そう言って店主が指差した方向を見ると、覆面パトカーが駐車場に入って来ていた。中から一人、サングラスをかけた男が笑いながら手を振って来ている。おいおい、なんて送迎バスだ……。
俺はため息をつきながら店を出た。
「定志、元気だった?」
「微妙だよ。例のブラックキャットの一件の疲れがまだとれてない。ラブホに潜り込んだのは初めてだ」
「いずれは行く事になるかもしれないよ?」
「はいはい、さぁ出してくれ。今日も夜に仕事があるんだ」
そう言うと、サングラスはハハハと笑いながら車を出した。この男は警察署長の息子で、これも警官をやっている。一度仕事を手伝った事があるが、それから気に入られてしまった。ゲイではないらしいが、家に誘われたら断りたい。
「しかしファイブセブンか。珍しいものを手に入れたね」
「優二が取り次いでくれたんだよ。レッドハットっていう武器商人なんだが、いい爺さんだ。もし彼が何かヘマをしたら、その時は俺が思うように計らってくれるんだろうね?」
「もちろん、あんたは恩人だからね。よほど悪事をしてない限り、その爺さんには便宜をはかろう」
恩を売っておいてよかったとつくづく思う。持つべきものは背中を任せられる友人と、権力を持った友人だ。
車は山道を走り抜け、警察の射撃場へと着いた。射撃場といってもそれだけではなく、CQB訓練場も建っている。
レンジに行ってみると、ニューナンブからP230、M700やMP5が火を吹いていた。ライフル用のレンジに陣取り、AUGを出して組み立て、しっかりと構える。スコープで狙い、セミオートで射撃すると、思った通りの場所に着弾していった。少しだけ調整し、あとはセミオートで5発撃った。全て命中。まぁ、この距離なら俺でもいける。もっと離れれば優一でなければ当てられもしない。
拳銃用のレンジに移動し、射撃。.45ACPと比べれば軽いが、ここまで小さい銃口から発射される弾頭が100m先のボディアーマーを貫くとは、信じられないな。6mmBB弾より口径が小さいんだ。
何発か撃って分解・清掃を行い、一杯コーヒーを飲んでから俺は射撃場を後にした。またサングラスの車でシルバースターまで帰った訳だが……。
シルバースターに戻ってまたコーヒーを一杯飲み、道具を置いてカブに乗ってすすき公園に向かった。昼間はまったく人が居ないが、夜になるとたまに変なのが集まって来る。そういえば一昨年ぐらいにここで一人男子高生が惨殺され、その報復の仕事を頼まれた。その後だったか、犯行グループを全員事故に見せかけて殺害した後処理をやってもらう代わりに、サングラスのちょっとした仕事を無料でやった。彼とはそれからの付き合いだ。
とにかく、このすすき公園で金が引き渡される。引き渡し方法が指定されていないという事は、人間がそこで待っている訳か。そいつを締め上げれば何とかなるか?或いは向こうは複数かもしれん。婦人も一緒に連れ去られてしまうかもしれない。そうならないように仕事をするまでだが。
辺りを見回してみると、すぐ近くに廃墟があった。これまた妙な連中のたまり場のようだが、実は車が隠せる程度のスペースがある。おそらく金はそこに運び込んで、車で運ぶつもりなんだろう。他にはものを隠すのに丁度いい場所は見当たらない。とにかく、どこに隠されていようと車を拝借するのがベタな方法か。
俺はすすき公園を後にして、近くにある廃墟に入り込んでみた。ここは元々診療所だったが、俺がこっちに来るまでに他の新しい建物に移り、この建物には一切その面影が無い。ありがちな怪談も聞いた事はないが、だが不気味である事は間違いない。
一階建てで、天井はところどころ崩れている。そして、少々荒々しい運転をする事になるだろうが、入口だった部分がだいぶ崩れて、軽自動車一台なら楽に通れるような穴が開いている。
よし、だいたいつかめて来たぞ。俺の思い通りなら作戦はサクサクと進み、帰りは三人でドライブを楽しめる。運が悪くて、ちょいと弾薬が減るぐらいだ。
俺はようやく気が済んだので、家に帰って仮眠を取る事にした。時間になったらどこかで夕食をとって、また来るとしよう
「サイレントハウンド!おい、ハウンド!」
こんな夜に俺をゆすり起こすのは、なんだ優一か。朦朧としながら起き上がると、優一はフェイスペイントを施していた。その手に持っているのはM14自動小銃にスコープを乗せたものだ。俺の手元にはM4A1カービンが転がっている。サプレッサー付きで、レシーバー上部には1.5倍スコープ、アンダーレイルにM203。中身は確か煙幕弾だ。
「どうした、ポーラースター。何かあったのか?」
「デザートアローから通信だ」
デザートアローは優二のコードネームだ。偵察に出て、何か見つけたんだろうか。無線機を受け取り、名乗る。
「こちらサイレントハウンド。何か見つけたか?」
「少数民族虐殺の現場を見ちまった。現在進行形で血が流れているが、どうする?連中はどうやら敵のコマンド部隊のようだが」
「なら少し寄り道だ。何か重要な情報を持っているかもしれん。ここから近いか?」
「目と鼻の先だ」
「よし、なら今すぐ行く」
そう言って、ポーラースターに座標を聞いておくように言って、武装を確認した。M4A1の他には、レッグホルスターに1911。サプレッサー装着用のバレルに換装し、サイトを大型化したものだ。ん、ファイブセブンを買ったばかりじゃ……まぁ、下らない事を気にしていると死ぬ事になる。
「座標を聞いた。準備はいいか?」
「オーケーだ。いつも通り俺が先に行く。気をつけて行こう」
俺達は暗視ゴーグルを装着し、デザートアローの居る所を目指した。