第三話 潜入と破壊
午後七時、同じような色のカブとリトルカブがシルバースターの駐車場に停まっていた。店は一応営業しているものの、カウンターに店主の姿はなく、代わりにベルが置かれている。その奥で、俺達はこれから忍び込む場所の見取り図を確認していた。
「おそらく、この排気ダクトを通って侵入するのが一番やりやすい方法だろうが、ちょっと狭すぎるな……。地下室に入れたらあとは通路を進み、礼拝堂に押し入る。警備があれば無力化、無ければ平和的にいこう」
俺がそう言って図の上を指でなぞっているのを、優一は短機関銃の弾倉に弾薬を詰め込みながら眺めていた。店主は奥からスタングレネードを四つ持って来て、机の上に乗せた。
「あとは任せるよ」
そう言って店の方に戻って行く。
「なぁ、店主の噂。こういうものを準備出来るって事はやっぱり……」
優一がそう言う。
「まぁどちらでもいいさ」
俺はそう言って見取り図から目を離し、弾倉に弾薬を積める作業に移った。オーストリア製、ステアーAUG。この銃はアサルトライフルとして設計されているが、銃の部品がモジュール化されているため、必要に応じて軽機関銃相当の分隊支援火器や、短機関銃に組み替える事が出来る。今手元にあるのは9mmパラベラム弾用に組み替えた、AUG SMGで、さらにサプレッサーを装備してある。
「こいつを使わなくて済めばいいがね。だが、向こうさんはやる気満々で居るだろうよ。気付かれないように始末をつけたいが、礼拝堂に侵入するところで敵と鉢合わせする事になる。どうすればいいと思う?」
そう優一に聞くと、優一も少し悩んだ。
「血を流さずに、しかし気付かれないように始末をつけるには……陽動しかないな。だが適当な道具が無い。照明を落としてやるか、それとも変装するか……」
「たいして大きな組織じゃない。特殊な衣装がある訳でもないんだから、変装してもすぐに気付かれる。照明を落とすのが正攻法かな。それで駄目ならこいつを使う」
俺はそう言って銃に弾倉を突っ込んだ。
「ブレーカーは地上かな……事前に客として侵入するのが手堅いかな」
「客として?」
俺は何か聞いちゃいけない事を聞いたかもしれない。
「そうだ」
「同性愛者お断りだったらどうする気だ」
「おいおい、何考えてるんだ。俺とお前で入る訳じゃない。例の里香という女、俺の知り合いが住所と連絡先を知っていた。茶髪はすぐには動けんだろうから、あの女を使う。そうだな、俺は顔を知らないから、お前がやつを連れて入れ。深夜になったら照明を落として、俺に連絡だ。いいな?」
待ってくれ、今さっき締め上げた女のツレだぞ。
「俺は……」
「心配無い。あの茶髪も、無理に迫られて付き合ってたようなもんらしい。あわよくば17年の童貞人生にピリオドを打てるかもしれんぞ?」
「クソったれ。梅毒病みの畜生と寝るぐらいならアレを撃たれるほうがマシだ」
「奴が元気ならこの役は奴に任せるとこだったが、残念だね」
優一はそう言って、暗色の戦闘服のポケットに、見取り図のコピーを押しこんだ。装備ベルトにスタングレネードを四つ下げ、弾倉入れも取りつける。それだけでなく右の足首の内側にも一つ、予備弾倉をテープで張り付け、AUG SMGに装填されている分はテープで上下逆に連結してある。
「ジャングルスタイルか。この前それでジャム起こさなかったか?」
俺は優一の銃を見て言った。
「違う。あれは運悪く排夾口に木片が突っ込んで来たんだ。こいつが原因じゃない」
「ならいいさ」
俺はそう言って、銃を拾い上げた。安全装置をかけ、ケースに入れて背負う。
「よし、行動開始だ。そいつとはどこで待ち合わせればいい?
「ここだ。そろそろ来ると思うんだが……」
その時、シルバースターの入口ドアが開いた。店主が機嫌良さそうな顔で出て来る。
「待ち合わせの方ですか?」
「はい、待ち合わせです……」
「では、奥へどうぞ」
店主はそう言って、俺達の居る部屋まで案内して来た。
「よう、お嬢さん」
優一は完全武装したままで、里香に向かってそう言った。当の里香は目を真丸くして、目の前の優一が何を持っているかをおおまかに理解し、一歩下がった。
「心配するな。安全装置はかかってる。役者が揃ったならもう行くか?準備は出来てるからな」
「あの、まだ来たばかりで……」
里香はそう言ってあたふたしていた。
「お前の仕事は簡単だ。俺と一緒にブラックキャットへ入り、朝まで寝るだけ。何かあったら起こしてやる」
銃のケースを片手に持って、もう片方の手で里香の手首を掴む。里香は拒もうとしたが、構わず引っ張って外に出た。
駐車場まで引っ張って行くと、里香が手を振り払った。
「一人で歩けます!」
声からして怒っているようだが、暗いので表情は分からない。まぁ、逃げるつもりが無いならそれで構わんが。
「よし、じゃあついて来い。金は俺が持ってるから安心しろ」
そう言ってカブの脇まで歩み寄り、ヘルメットを取って被る。里香は俺の後ろで何か言いたげだ。
「用があるなら言ってくれよ。落ち付かないだろ?」
「わ、私はそういう女じゃ……」
なるほど、日本語を喋ってくれるつもりは無いようだ。俺はキックスターターに足をかけた。が、まだ喋りかけてくる。
「コンドーム持ってないんですよ!どうするつもりなんですか!」
「うるせえスケベ女!クソったれの茶髪野郎の女になんざ興味ねぇ!分かったらさっさとエンジンかけろ!」
俺はそう言ってキーを捻り、力強くキックスターターを蹴った。
目的地に着くまでそう時間はかからなかった。里香はヘルメットを脱ぐなり、またさっきの続きをまくしたてていた。もう相手にしてられん。ブラックキャットの扉を開くと、受付が里香の知り合いだったらしく、すぐに部屋へ案内された。
部屋は薄暗く、どうやらシャワーもあるらしい。まるでラブホだ。実際ラブホなんだが。
「じゃあ私はシャワーに……」
部屋に入るなり里香がそう言って離れようとしたので、その手を掴んで止めた。代わりに俺が浴室まで行って、シャワーを出しっぱなしにする。里香を引っ張って来て、小声で話しかける。
「念のために聞いておくが、盗聴器の類は隠してないだろうな?」
「そんなもの……」
「俺を騙そうなんて思うな。俺が何を持ってきてるかよく分かってるだろ?」
そう言うと、里香はしばらく沈黙した後、ヘアピンを外して差し出した。受け取ってよく見てみると、確かにマイクらしきものが取り付けられている。水たまりになった水の中にそれを放りこんで、シャワーを止める。
「あれは何だ?ダーリンからのプレゼントか」
「今日来る前にお見舞いに行ってたの。その時に……」
やるじゃないか、茶髪。或いは誰かから指示があったか……。となると、俺がここに潜り込んでいるという事が事前に知られてしまっている訳か。俺達の素生も調べたかな?見つかりはしないだろうが。
「よし、いいだろう。シャワーを浴びて来ても良い。だが、妙な考えは起こすな?その時は茶髪もろとも黙らせてやる」
「……」
里香は何も言わず、浴室へ入って行った。それを見送ってすぐに、トランシーバーをセットする。イヤホンを耳に付け、マイクを襟元へ隠す。早速通信を開くと、優一が応答した。
「どうした、定志。潜入に失敗したか?」
「いや、成功したが……作戦がバレてる可能性がある。あの女、ヘアピンにマイクを仕込んでた。少なくとも、俺が潜入した事は明かにされている」
「人選をミスったか……。俺もヤキが回って来たかな?作戦決行を速めよう。相手が武装してるとなれば、強行突破もやむなしだ。現在時刻は八時。もう外は暗い。他の客が少ない今のうちだ」
「了解、これより行動を開始する」
俺はそう告げて通信を閉じ、銃のケースを確認した。この格好で持ち歩くと少々目立つな。これはこの部屋に置いておこう。
ケースをベッドの下に放り込んで、シャワールームの方を見る。この女はどうしたものだろうか。
「里香。まだ終わらんのか」
そう声をかけるが、返事が無い。俺は扉を開け、中に押し入った。
「きゃ!何を……」
わめきたてる前に口をふさぎ、引っ張り出してベッドの上に突き倒す。
「そこで大人しくしてろ」
そう言ってシャワールームに戻って、シャワーを止め、バスタオルと着替えを取って出て来る。それらを里香に投げ渡し、小さなウェストポーチから暗視装置と戦闘用ナイフを取り出す。鞘に入ったナイフを腰の後ろに、ベルトに通して横に取り付け、暗視装置を頭に取り付ける。明かりを消して、正常に見えるかどうか確認する。良好だ。
明かりをつけて暗視装置をウェストポーチに戻し、シャツでナイフを隠す。これでいいだろう。
「俺が戻って来るまで誰も入れるな。絶対にだぞ」
おびえている里香にそう言って、俺は部屋のドアを開いた。
ブレーカーは受付の奥、事務室にあるらしい。ここは三階、少し遠いが怪しまれる事はないだろう。照明を落とせればまた戻って武器を取り、優一の援護だ。
エレベーターを使わず、階段を下りてラウンジに入ると、すぐに受付係がこちらを見て来た。手がカウンターの下に伸びている。そこまで歩み寄ると、すぐにこう問いかけて来た。
「何かございましたか?」
「ああ、いや照明が……」
周りに誰も居ないのを確認して受付の髪の毛を掴み、カウンターに叩きつけた。一撃で気を失い、受付はカウンターの奥に沈んでいった。
「明る過ぎるんだよ」
そこを飛び越えて受付の手を見てみると、やはり短機関銃を持っている。だがこれは……。
「優一、受付係がUZIで武装していた。こいつは好都合じゃないか」
「俺達のと同じ弾を使う銃だ。何かあっても内部でやり合ったようにカモフラージュ出来るかもしれんな。こっちはもう準備完了だ。そっちは?」
「今からやる」
そう言って事務室の扉のドアノブに手をかけ、ゆっくりと回す。中に何人ぐらい居るだろうか?まだ暇な時間だ。二人ぐらいしか居ないだろう。
ドアを押し開け、中に入る。予想に反し、一人が書類を整理しているだけだった。足音を消して背後に忍び寄り、左腕でその首を押さえ、右手でナイフを抜いて首に突きつけた。
「動くな。地下室への入口を教えろ」
「あ、あんたは例の……」
「早く言え。でないと一生懸命整理した書類が、汚れて使いものにならなくなるぞ」
「クソッ。裏口から入れば、地下室への扉がすぐ足元に見える。だが見張りが居るぞ」
「問題無いさ」
見張りの首を力を込めて締め上げ、気絶させる。すぐにブレーカーに歩み寄り、メインスイッチに指をかける。
「優一、今から電気を消す」
そう告げてスイッチを“切”の位置に動かし、さらに力を込めて樹脂製のスイッチをへし折った。明かりが消えたのを確認し、すぐに暗視ゴーグルを装着する。周りが昼間のようによく見えた。
さあ、武器を取りに行こう。
優一は暗視装置を装着し、AUG SMGを構えて茂みでじっとしていた。今夜は月が出ていない。市街地からも少し離れたこの場所なら、殆ど真っ暗の中で事を進められる。
定志から通信が入って間もなく、ブラックキャットの明かりが消えた。
「消灯を確認した。これより行動に移る」
裏口の周りに、一人煙草を吸っている男が居た。肩にはUZIサブマシンガンがかけられている。優一は音をたてずにそのすぐ傍まで接近し、首に手刀を叩き込んだ。
「ぐっ!?」
とひとつうめき声を出して、男はぐったり倒れた。それを引きずって茂みに隠し、いよいよ裏口を開く。中は真っ暗だったが、暗視ゴーグルのお陰で昼間のように見えている。入ってすぐ、足下に感覚の違う部分があった。紐がついていたので引っ張ると、階段が現れた。銃を構え、ゆっくりと下りて行く。その時、突然目の前が真っ白になった。
「俺だ!」
そう言って部屋のドアをノックすると、慌てて里香が内側から鍵を外し、ドアを開けた。片手には携帯電話が握られている。
「どうしたの?急に明かりが……」
「お前の役目は終わった。先に帰ってろ。何かあったらすぐに連絡して来いよ」
そう言ってベッドの下のケースを引きずり出し、開いて中のものを取り出す。外しておいたサプレッサーを装着し、安全装置を解除する。予備の弾倉は優一が余分に持っている。奴と合流してから受け取ればいい。
その時、その優一から通信が入った。
「クソッ!地下は別の予備電源があるようだ!突然切り替わって暗視ゴーグルがイカれたところで見つかって、一人射殺してしまった」
「何てこった。そこで隠れて……」
俺が言い切るまでに銃声が連続して響いた。直後に甲高い音が鳴り、通信が途絶した。まずい事になってるかもしれない。
「里香!急いで逃げろ!」
唖然としている里香に向かってそう怒鳴りつけた。里香はやっと自我を取り戻し、携帯電話のディスプレイの光を頼りにドアを抜け、階段を駆け下りていった。
「待ってろ優一、今すぐ行く」
俺は窓を開け、ベランダに出てその手すりにロープを巻きつけた。下にロープを下ろし、銃を肩にかけてロープにつかまって滑り降りた。着地してすぐドアの開いた裏口をくぐり抜け、足下の、地下室への進入路に入る。駆け降りようとすると、やはり明るいようだった。暗視装置を切り、銃を構えて先に進む。どうやら空調設備はある程度整っているようだが、やはり多少じめじめする。コンクリートの内壁に弾丸の跳ねた跡と飛び散った血糊を見つけながら、角を曲がった瞬間……。
「誰だ!」
そう言って銃を向けて来た優一に、こちらも反射的に銃を構えていた。慌てて銃口を下に向け、片手を上に上げた。
「定志か……無事だったんだな」
優一もすぐに銃口を下ろして、そう言った。
「お前こそ大丈夫だったのか?敵に見つかったって……」
「ああ、すぐに射殺した。二人で組んで巡回してきたようだが、一人は俺が撃った。もう一人はその後銃を乱射して、そのお陰でトランシーバーがやられた。すぐに木箱に隠れたんだが、跳弾でな」
なるほど、そのせいで通信が途絶していた訳か。まさかこの男がこんなところでやられるだろうとは思っていなかったが。
「そのもう一人は?」
「俺のトランシーバーと同じ運命を辿ったよ。馬鹿な奴」
コンクリートの壁は考えもつかない程跳弾する。木箱や土嚢なら留める事が出来るが、それでなければ見当違いな方向に弾が跳ね回り、運が悪ければその警備と同じように、自分が撃った弾丸で死ぬ事になる。
「さて、合流に成功したところで……仕事にかかるか」
優一がそう言った。
「ああ、俺が奥へ進もう。お前はここで見張っててくれ」
「了解、気をつけろよ」
優一はそう答えて、手近な木箱に身を隠して銃を構えた。外から誰か入って来たら背後を撃たれる事になる。奥に進むのも見張るのも、一人で十分だ。
奥へ進み、角を曲がると、優一とやり合ったという敵が二人倒れていた。一人はみぞおちのあたりと肺に一発ずつ、ほぼ即死だろう。毎度、見事な腕だ。もう一人は腹部に一発、跳弾にやられたという話で、辺りは血の海になっていた。
さらに進むが、敵の姿は無い。この二人だけだったという事は無いだろう。どこかに潜んでいるか、怯えて隠れているか。
内部はそこまで広くはなく、見取り図の通りであれば、次の角を曲がって直進すれば礼拝堂となる。足音をたてないよう気をつけながら角に近づき、向こう側を覗う。
その時、すぐ目の前を銃弾が横切った。とっさに頭を引っ込めると、弾が壁に当たっては跳ねた。と、数発は二度ばかり跳ねて、木のようなものにめり込んだ。音からの判断だが、それなら相手は木箱を遮蔽物にしている可能性が高い。さっき見たときには廊下の奥の右の方が見えていたが、木箱は無かった。おそらく左側の角に木箱がある。跳弾に気がついたのか、すぐに銃撃は止んだ。その隙に銃だけを壁から突き出して木箱があると思しき場所に、軽く引き金を引いてセミオートで数発撃ちこんだ。そしてすぐに右手、右肩だけで銃を構え、右目と銃だけを角から出して、天井に取り付けられている蛍光灯を撃った。破片が飛散し、明かりが消える。
俺はすぐに暗視ゴーグルを装着した。
「な、何が起こ……」
木箱の後ろに回り込むと、男は銃を抱えたまま辺りをキョロキョロと見回していた。その背後にこっそり回り込み、首を抱えて捕まえる。
「礼拝堂の中の見張りは何人だ?」
そう聞くと、男は首を振って答えた。
「中には誰も居ない!双頭様が……」
「なるほど、それが例の犬か」
「犬などと……」
言い終わるのを待たずに締め落とし、銃を奪って肩にかける。目の前にはやや広い両開きの扉が、暗視ゴーグルではっきり見えていた。取っ手を掴んで引いたり押したりしてみるが、動かない。扉に耳を当てて向こう側の様子を探る。確かに人の足音は聞こえず、代わりに獣の寝息が聞こえている。
何にしても鍵を開ける必要があるが、どうしたものか。解錠用の溶液は持ち合わせていない。ガンパウダーを使えばいけるか?
奪ったUZIから弾倉を外し、弾薬を一発抜き取ってナイフを使って弾頭を外す。火薬が残ったままの薬莢を鍵穴にあててトントン叩きながら中に流し込む。空薬莢を放り捨て、今度は木箱を蹴って叩き壊した。中身にはドッグフードの子袋がいくつか入っていた。まぁ、これでいいだろう。ウェストポーチからガムテープを取り出し、袋を鍵穴の周りに数個重ねてべたべたと貼り付ける。ちり紙を取り出して鍵穴に接するように張り、導火線代わりにする。さて、仕上げだ。
マッチを擦り、ティッシュに火をつけ、すぐに脇に寄って耳を塞ぐ。間もなく爆音が鳴り、コンクリートの内壁に響いた。
「何があった!」
銃声と勘違いした優一が慌てて駆け寄って来る。
「マスターキーを忘れてな」
と答えて、張り付けてあった子袋を外していった。袋はほとんどが破れ、焦げた中身がぼろぼろと足元にこぼれた。見てみると、思ったとおり鍵は破壊出来ていた。取っ手を引いてみると、楽に動いた。成功だ。
「流石だな。ブランクは感じさせないね」
優一がそう言って手を叩いた。
「そっちこそ」
と答えて、扉をさらに開く。中から光が漏れ出している。暗視ゴーグルをはね上げ、今度こそ扉を開き、すかさず銃を構えた。
「何だありゃ……」
優一がそう言って指差したのは、そう大きくはない犬だった。確かに頭が二つある。金の首輪を巻かれ、金の鎖につながれている。突然頭のうち片方がこちらを向き、優一は反射的に銃を構えた。が、その頭はもう気が済んだかのように、元の方向に戻った。犬の目線が向いているのは……骨?犬の骨だ。
銃を下ろし、ゆっくり近づいてみると、確かに犬の骨だった。それも、この犬と同じように頭が二つあるが、しかしそこには細工した跡がある。
「おい、定志。そんなに近づいたら……」
優一がそう言ったが、構わず犬に近づいた。鎖をガシャガシャ言わせながら、犬もこちらに向かって来る。
「なぁ、ワン公。お前は悪くない。そうだよな?」
そう聞いてみると、キュウンと言って、足下まで寄って来た。そしてこちらを見ながら伏せ、その次には寝返りを打って腹を見せて来た。服従のサインだ。
「良いだろう、今日から俺達がお前の仲間だ。それでいいな?」
「ワン!」
お座りをして、二つの頭が同時に吠えた。
「よし、伏せろ。自由にしてやる」
犬は言ったとおりに伏せ、鎖が床に垂れた。そこに銃を突き付け、一発撃ち込んで鎖を壊した。
「おい、定志。作戦では……」
「やかましい。勝手に撃ったら承知せんぞ」
そう言って優一の元まで歩み寄る。犬もすぐ後ろについて歩いて来た。優一は一瞬戸惑ったが、すぐに呆れたような表情を浮かべて承諾した。
「分かった。だが、とりあえずシルバースターに連れて行こう。あと、あの里香とかいう女だが、連絡がとれん。こっそりあいつのビーノにGPS発信機をつけておいた。位置だけは分かるんだが、どうも家には帰っていない」
となると、茶髪にでも捕まったか?俺達に危害が加わる事はないだろうが……。
「優二がもう回復してる頃合いだろう。奴に任せとけ」
「分かった、連絡しておく」
優一はそう言って携帯電話を取り出した。さあ、尻尾を巻いて逃げ出すとするか。犬は……どうやって乗せたものか?