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プロローグ 夏の日に

 窓から外を見ると、たびたび車が駆け抜ける道路に、からからに干からびたミミズが転がっていた。呆然と見ていると、夏休みになって増えたバイクが数台、列を組んで通り過ぎていった。ミミズはタイヤに押しつぶされ、引きちぎられ、瞬く間に道路の端に吹き飛ばされてしまった。

 乗り出していた身を引っ込めて窓枠から片手を離し、もう片方の手を伸ばして2リットル入りのペットボトルを机の上から持ち上げる。口に含み、飲み込む。香ばしい香りが鼻まで届いた。夏は麦茶に限る。それも、今年のように湿度の高い、蒸し暑い夏なら尚更のこと。


 川上定志は十七回目の八月を過ごしていた。何も変わらぬ、去年と同じような夏。いくつか違う点があるとすれば、原付免許というものを持っているという事、親が事情で家に居ないという事、そして何より、去年より蒸し暑いという事だ。

 おまけに、ここ数年機嫌の悪いエアコンがついにへたばり、スイッチを入れるたびに血のような、錆びの匂いがする扇風機しか、楽して涼をとる道具が無い。

 おかげで彼の家の冷蔵庫は、その殆どのスペースを麦茶の入ったヤカンやペットボトルに占拠されている。

「アイスクリームの一つでも用意しといたらどうだ?女の子はそういうのが好きらしい」

 夏の初めにたった三日でアルバイトをクビになり、それ以降毎日のように遊びに来る、上浦春樹という友人が、六十円のダブルソーダを二つに割りながらそう言ったのを覚えている。

「女なんぞ来ないから安心しろ。自分の心配しろよ、色男」

 俺は少し大きく割れた方を取り上げてそう答えた。


「ごめんくださーい!」

 麦茶を冷蔵庫に戻したところ、昨日の夕方ぶりの声が聞こえた。



 その日、俺は新しい物語に出会う事になった。



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