第一章 旅立ち
だいぶ前に書いたものをそのままコピーペーストしたので色々大変なことになってます……。
おいおい編集はして行きたいと思うのでご了承を。
はぁはぁはぁはぁ
「ミユゥ、どこにいるの!ミユゥ~!!」
私は走った。ただ一人の家族、最愛の妹を探して。
「ミユゥ~っ」
しばらく村の中を走ると私を呼ぶ声が聞こえた。私はその声のする方へひたすら走った。
「ミユゥ!」
そこには妹のミユゥがボロボロになって倒れていた。
「おねぇちゃん、無事でよかった」
「うん、あなたは大丈夫?怪我をしてるわ、早くここから逃げなくちゃ…」
私は妹を抱き起こそうとした。しかしっ!
「ダメ!お願い、私の言うことを聞いて。最期の我が儘だから…。お姉ちゃん、私を置いて逃げて!そして生きて、世界を救って。もう私は助からないから、だからお姉ちゃんだけでも生きて、私の願いを、世界の困ってる人々を、救ってあげて、ね」
妹は私がよくそうしたようにゆっくりと言葉を綴り、そう諭してくる。
「無理に決まってるでしょ!あなたを置いて逃げるなんて…そんな見捨てるような真似。でき―」
私は言葉に詰まった。
「お姉ちゃん」
有無を言わせない顔で妹は私を見るから。そして私の大好きな、優しい笑顔で言ってくる。
「我が儘を言うのは妹の専売特許でしょ?それに見捨てるんじゃなくて私の願いを叶えてもらうの。私にはもう出来ないから、代わりに。こんなこと頼めるのお姉ちゃんだけなんだよ。だから」
「でも!!そんなの嫌だ、私」
「…早く。お姉ちゃんはこんな世界で良いの?私はイヤ、だから世の中を変えて!私の自慢のお姉ちゃんだもん、絶対出来るよ」
私は首を横に振る。妹を置いてくことも、世界を変えることも私に出来るはずがない。
「大丈夫、私もいるから」
妹は自分の髪につけていたピンを私の手に握らせる。
「信じてるよ。さぁ…行って」
妹は私の手を突き離した。私は首を横に振りながらも立ち上がると妹に背を向け走り出した。涙で視界がぼやける、転びそうになる、けどひたすら走った。後ろからは妹の呻き声と敵兵の怒鳴り声が聞こえたが振り返ることは出来なかった。
走った、走った、走った。こんなにもこの村は広かっただろうか…。ある角を、曲がろうとしたときだった。
ビクッ。私の体は瞬間すくみ上がる。敵兵だ。見つかったら殺される。私は初めて恐怖を感じた。いや、恐怖ならさっき妹を見た時に感じたがそれとはまた何かが違う。
怖い、そう思ったらキリがなくなった。周りにあるのものすべてが襲いかかって来るような気がして動けなくなる。いつもの見慣れた景色…しかし今は、私に襲いかかる…敵!
動けない、けど動かなければ殺される。隠れなければ、けどどこへ?すべてが敵なのに、一体どこに行けばいいのか…。
そんな時だった。グイッ。いきなり何かに引っ張られた。
「きゃっ」
私は小さくだが声を上げてしまう。するとすぐに口をふさがれた。
ヤバい…見つかった。殺される。約束をまだ果たしていないのに…。
しかし何も起きない。それよりも敵兵の声と足音が遠ざかっていくような。
「な、に…」
私はそっと顔を上げる。と、そこにいたのはフードを深くかぶった人だった。
私は訳も分からないままその場から立ち去ろうとした。しかし腕をつかまれる。
「待ってくれ」
私は腕を思い切り振ったり引っ張ったりしたがその手は外れない。
「離して!私は生きなくては…ミユゥとの約束をはたさなけれ―」
ぎゅっ…。その人はいきなり私を抱き締めた。
「そうだ、君は生きるんだ。だから…落ち着いて。俺は君を生かすためにこうしている。今の君は、このままだと無駄死にするだけだ」
その人は私の耳元で静かに、しかし力強く言った。
「うそ…うそよ!そんなことを言っていいように利用して使い物にならなくなったら容赦なく殺すんでしょっ。私、わかるんだから!」
そう言った勢いでその人を突き放す。こんな力があったのかと思うほどの力で。そして同時に逃げようとした。しかし。
「おいっ、こっちの方から声がするぞ」
「なにっ!どっちだ」
「こっちだこっち。あの通りのあたりだ」
声とともに足音も近付てき目の前をすごい勢いで敵兵が走りさる。私はもう何がなんだか分からなくなってきた。
「もうわかったろ、今の君が侵されている状況が。さぁどうする?俺を信じて共に行動するか、それとも誰も信じれないままその命、無駄にするか」
その人は静かに言った。私は…、
「分かんないよ、何もかも。私の侵されてる状況って何?貴方は一体誰なの?ここは一体どこなの?もう私の知ってる村では無くなってしまったの?分からない、分からないよ…」
私は頭を抱えその場にしゃがみ込む。
「あ~悪い、大丈夫か?って言っても信じてもらえないよなぁー。う~ん…そうだ。ならこうはどうだ?この村の中が危険なことは変わらないし君一人で切り抜けるのは不可能だろう。だからこの村を出るまでは俺を信じてみて、この村を出たら自分の思うように進むといい。俺について来るも良し、一人で行くも良し。とりあえず俺を信じてみないか?あれ、それもおかしいか…」
その人は優しく、優しく言った。私はその声に、言葉に、忘れかけてた温かい何かを感じた。その人はそんな私を見てふわりと笑うと
「さぁ行こう」
と言って私にそっと手を差し伸べる。
「うん…!」
私はその手に自分の手を重ね、引かれながらその歩を走りに変えた。
村の中は危険だった。けれど私は、その人がいたから安心して進むことができた。その手から伝わる熱がとても心地よかったのだ。
順調だった。しかし、もうすぐ村の出口、というところで敵兵がいた。
その人は私を連れ暗く細い路地裏にそっと隠れた。何とかなると思った。けど敵兵は勘がいい、何か気配を感じたのか一人の敵兵が私達の隠れた路地の方まで歩いてくる。
私はもう無理だ…と思う。けれどその人は諦めない。その人は自分が着ているフード付きのコートに私を隠すようにいれ、二人で固まるようにした。すると私は何故かまた安心できた。
しかし敵兵はどんどん近付いてくる。私はコートの中で震えていた。それに気付いたその人は私の耳に顔を寄せる。
「大丈夫、必ず生きてこの村を出してやるって言ったろ。この命に代えてもな」
その人はそう言って笑った。私はその笑顔をみると本当に何とかなると思えた。
もう敵兵はすぐそこ、後一歩で私たちの隠れた路地。コツン、敵兵の足音が止まる。
「どうかしましたか?」
それと同時に別の敵兵の声が飛んできた。
「いや、何か音が聞こえた気がしたんだが気のせいのようだ」
近付いてきた敵兵が体の向きを変える。
「小動物じゃないんすか?飼ってたやつとか」
「そうかもな」
そんな会話の後敵兵は笑いながら去っていった。
私は助かったという気持ちでいっぱいだった。
そんな私の様子を見てその人は口を開く。
「ほらな、大丈夫だったろ」
そう言ってニッと笑った。そして、「行こう」と言い私の手を取り周りを見てから村の出口へ走った。
敵兵は無し、このまま走っていける、そう思って何か違和感を感じる。出口に敵兵がいない?
けど私は止まれない。後少しでこの村から出られるという思いがどんな感情にも勝ってしまう。
後一歩というところだった。
パーンッ。
一発の銃声が鳴り響いた。
え…。私は何が起きたのかすぐには理解できなかった。前を見るとさっきまでいたその人がいない。腕にはわずかな重みを感じる。視線を手に移した。
「……っ」
その手を握るその人が膝を突き、もう片方の手で自分の腕を押さえている。その手の隙間から流れる赤い液は…血。
私は膝から崩れ落ちる。
「何…どうしたの?」
自体が飲み込めない、いや飲み込みたくない。
「やはりまだ生き残りがいたぞ!」
どこから沸いて出てきたのか物凄い数の敵兵が私達を取り囲む。
「捕まえろ!まだいるかもしれない、そいつらから聞き出せっ」
敵兵はじりじりと距離を詰めてくる。
「ねぇ、どうしたの?ねぇ!」
私は敵兵には目もくれずその人の手を握る。小さい頃村長に聞いた、怪我人や病人を揺すってはいけない。そんなことを守っている自分が怖い。
「大丈夫って言ったじゃない!私を助けてくれるって…なのに、どうして…。どうしてみんな、大切な人はみんな私の目の前でいなくなるの?どうして、助け方がおかしいよ、本当は全然助かってないんだから」
私の目から滴が落ちる。悲しい、苦しい、悔しい、憎い、怖い、怒り…様々な感情が体の中を駆け巡る。
「逃げろ…早く、遠くまで走って逃げろ!」
その人は顔を歪めながら私に言う。私は首を横に振った。
「いや、もういや…。誰かを置いて自分だけ逃げるのはもういやなの。疲れた…心も、体も、もうぼろぼろなの」
私は力なく言う。
「大丈夫、君が逃げたところを見たら俺も行くから、な?」
その人は私の目を見つめる。
「イヤ、一緒じゃなきゃ…」
私はその人にすがりつく。こんなのいつもの自分じゃない、今の私は何かおかしい。
じりっ、そうしてる間にも敵兵はどんどん距離を詰めてくる。
「…ふっ、こんなに女の子にすがられたらやるしかないなって思っちゃうだろ。しかたないな」
その人はいきなり立ち上がると私を抱き上げた!
その行動に虚を突かれ敵兵の動きが止まる。
「よし、行くか。しっかり捕まってろよ」
その人は言うが早いか走り出した。敵兵はその人の突然の行動に驚きその人が敵兵に向かって行くと慌てて道を開けてしまう。
その人はそうして開いた敵兵の間をすごい勢いで走り抜ける。
敵兵は慌てて銃をこちらに向けて撃つが全くと言っていいほど方向が外れあたらない。その間にもその人は走る走る走る!
あっという間に敵兵は小さくなり見えなくなった。見えるのは村の目印の時計塔だけだ。
「今までありがとう」
私はそっと村に別れの挨拶を告げた。
「…っー」
もうすっかり敵兵が見えなくなったときだ。その人は顔を歪めた。私はすぐにその人から下りる。
「だ、大丈夫!?」
その人は腕を押さえてしゃがみ込む。私は腕を押さえている手に私のそれを重ねながらその人の顔を伺う。
「あぁ、なんとかな。ちょっとかすっただけだから。それよりどこか安心して座れるような、静かな場所はないか?出来れば村の様子がわかるような…」
「あるよ」
私は間髪いれずに答える。そんなつもりはなかったけど、後で思うとその声は暗く冷酷で、静かで…どこか寂しげだった。
その人はマジかっというような顔で私を見る。それもそうか、こんな即答されるとは誰も思わないだろう。
「ついてきて」
私はそう言って歩き出そうとした時、あることを思い出した。私は振り返る。するとその人はふらふらとした足取りで立ち上がろうとしていた。私はその人の体を支えて何とか立ち上がらせる。
「歩ける?」
「一応、けど少し辛いな。肩を貸してくれないか?」
その人は笑顔で答えたがその人の額からはは汗が流れでる。
私も精一杯の笑顔をつって優しく言った。
「もちろん!ここからすぐだから頑張ってね」
なんだかとても温かい気持ちになれた。けど、あの場所に近付くにつれて気分は暗くなっていった。
「大丈夫か」
ふとその人は言った。私の暗い様子に気付いたのだろう。
「えっあ、うん…。ごめんね、心配かけてばかりで。本当は、私がしっかりしないといけないのに」
そう答える私の声に、さっきまでの優しさはなかった。苦しくて辛い…不安を与えるだの声に。
あの場所にはすぐ着いた。そこは小さな丘になっていて木が真ん中に生えており村の様子も一目瞭然であった。
私はその人を木にもたれかけさせそっと座らせる。
「へ~こんな場所が。けどこれだけ村の様子がわかりやすいと逆にこっちが危険じゃないのか?」
ふとその人は聞いてきた。当たり前の質問だろう。私は心配そうな顔をしているその人に言った。
「そうね、普通はそう思うよね。だけどそんな危険な場所に私が連れてくると思う?」
言い終わって私はまだその人が押さえている腕から血が流れていることに気付き、腰に巻いていたスカーフをほどくとその腕に巻いた。
「いや、そうじゃないけど。あ、ありがとう…」
その人はまだ心配そうに村の方を見る。
「大丈夫、今なら確信を持ってそういえるわ。ここわね、村のどこから見ても必ず何かが邪魔をして見えなくなるの。いわば死角なわけ、だだ一ヵ所を抜いてね。それは何も邪魔するものがない空高くにある…そう、あの時計塔だけよ」
私は時計塔を見つめる。
「なるほど、それはすごいな。で、今ならってわけか」
その人は察しがいい。
「そう、少し前までは時計塔から見られる可能性もあった。けど今はこんな状態、あの時計塔はいつ崩れてもおかしくないもの。そんな危険な場所に敵兵はわざわざ行かないわよね。それにあの時計塔からだと結構目が良くないとこの木はおろかこの丘すら見えないわ。ましてやそこ人がいるかどうかなんて…。だから大丈夫」
私は力強く言った、つもりだった。
「へ~。よく、知ってるんだな。よくここくるのか?」
……。一番きついところを突いてくる。
「えぇ…。よく、くるよ」
その人は私に隣りに座るよう促してくれる。私も黙って座った。
「君には妹か弟がいるんじゃないかな?常に何かを我慢して、人のことを優先するのは姉のさがなんじゃない?」
その人は優しすぎる声で聞いてくる。
「うん。…っ―妹を、置いてきちゃった…!」
何でこんなこと見ず知らずの他人に話してるんだろう。けど、話すと少しは楽になれる気がした。
「無理しなくてもいいんだぜ。我慢しなくても、話せばすっきりすることもあるんだ。何も言わない、聞いてやる」
人にこんなにも優しくしてもらったのは初めてだった。
「実は私、今日ここに来るのは2回目なの」
私は敵兵が攻めて来る前、大好きなこの場所で村を眺めていた。仕事が一段落して休みをもらえたのだ。穏やかな時が流れていた、なのに!その時は唐突に訪れた。
一発の爆音が鳴り響き村からは火が上がった。沢山の悲鳴がこの場所まで聞こえてきた。
私は走った。走って走って、村に入って真っ先に向かったのは妹がいると思われた場所。
予想通り妹はそこにいた。けれど、その姿は望んでいたものと全く違った。ボロボロになって倒れている妹を見て泣き出したかった。けど、姉が妹のまえで泣くなんてー。
「私は妹に促されるまま逃げて、そして貴方に出会ったの。どうして私、私だけがーっ。あの時ここにいなければ…どうして!」
私の目からは自然と涙がこぼれ落ちる。悔しい、妹を守れなかった自分が悔しい、悲しい、苦しい…。
その人は私の顔を手で引き寄せ自分の胸に埋めさせる。そして頭を優しく撫でる。
「泣きたい時には泣け。我慢しなくていいんだよ」
私は生まれて初めて思い切り泣いた。思い切り泣いたら、今まで背負い込んでいたものがスッと下りた気がした。
その人は私が落ち着くまでずっと頭を撫でてくれた。初めてそんなことをされたが何故か懐かしい気がしたのは気のせいだろうか。
私は落ち着くとその人の胸からそっと顔を上げる。その人はすっと頭から手をどけた。
「ありがとう。すごく、楽になったよ。そして分かったんだ。過去を変えることはできないから、今を精一杯生きようって、未来はまだ分からないって、世界を変えようって…」
私は立ち上がり村の方を向く、そして手を堅く握り締める。すると手の平に何か感触がした。その手を開くとそこには妹がとても大切にしていたピン止めが…。
「世界を変える、か。それはまた大きく出たな」
その人も立ち上がり私の横に立った。
「うん、でもやるんだ。小さなことで良い、少しずつ積み重ねていくの。そう約束したから」
私は手の平のピン止めを自分の髪に着けてみる。
「妹との、か?」
「うん。私は未来をもらったから、妹の願いを叶えてあげたいの。今は私の願いでもあるから。けど、それには一つ困ったことがあるの。私は世界を知らない。だからこの先どうすれば良いのか、始めの一歩がどうしても踏み出せないの。…お願いしても、良い?」
私は下からのぞき込むようにしてその人の顔を伺う。その人は驚いたような顔をすると視線を少し上げ頭をかいた。
「ったく、君は頼みごとをするのが上手いなぁ。どこで覚えたんだか」
私は困ったように首を傾ける、とその人ははぁと一つ溜め息をつく。
「分かった、一緒に旅をしよう」
「いいの!」
私は反射で言葉に飛び付く、とその人の表情が明らかに驚きへと変わる。
「あ、あぁ。ただし!条件がある」
「条…件?」
私は顔をへの字に歪める。
「そう、条件。といってもそんな無茶なものじゃない、約束と言い換えても良い。旅は予想以上にきつく苦しいものだ。俺も始めた頃はそうだったからな…。ついて来れる自信はあるか」
その人は急に真剣な顔になり私を見る。
「うん。絶対に諦めない」
私も真剣に返す。するとその人はふっと笑って私の肩に手を乗せる。
「あぁ、信じてる」
そしてまた表情を硬くする。
「けどな、絶対に無理をするな。本当に、耐えられなくなったらいつでも俺に言え」
「でも…」
私は小さな声で呟いた。
「そんな泣きそうな顔をするな。見捨てたりなんかしないからさ。ほら、約束だ」
その人は困ったようにまゆを曲げながら小指を差し出す。私はその小指の意味が分からず首を横に傾ける。
「そうか、君は知らないのか。旅を始めた時の俺と同じだな」
そう言ってその人は私の右手をとると小指を出させ、自分のそれを絡める。
「どっかの国の遊戯みたいなもので、約束ごとをする時に破らないっていう証しでこれをするんだ。たしか『指切り』っていう名前」
「ゆびきり…。じゃあ、お互いに絶対に破っちゃダメだよっ」
「おう!」
その人はニッと笑って指切ったと言いながら指を離した。
「そうだ、まだ名前を言ってなかったな。俺の名前はアキラ、普段はアキと名乗ってる」
「名前が二つあるの?」
「あぁ、旅人は本名と旅名を持ってるんだ。俺は全くひねりがないが、本名と旅名が全然違うって人もいるらしい。いわゆる偽名だ」
私も静かに口を開く。
「私の名はマユゥ。16歳よ」
「マユゥか…だったらユゥとかどう?でもそのまますぎか」
その人…いやアキは腕を組んで考え出す。私は真剣に悩んでるアキを見てクスッと笑う。こんなことにこんなにも一緒懸命悩んでくれることが嬉しかった。
「いいわ、気に入った。私の旅名はユゥね」
「本当にこんなんでいいのか?」
「ええ、貴方がつけてくれた名だから、大切にするわ」
「ありがとな。そうだ、二人でいる時は俺のことアキラって読んでくれて良いから。人前はアキな。それから俺も16だ。改めてよろしく、マユゥ」
アキラは手を差し出す。私もその手を握り返す。
「よろしく、アキラ」
それから冷静にさっきアキラが言った言葉を思い返す。16…?私はその場で固まる。それから思い切り後ろに飛び退く。
「え、え、じゅう…なんて?」
「だから俺も16歳だって…反応おそ!」
「だって、嘘!同い年のはずが…」
「なに?年下だと思ってた?」
「その逆です!2歳は年上かと…」
「俺そんな老けて見えるかぁ?…ショック!」
「そうじゃなくてその、しっかりしてたしさ」
私は肩をガックリと落としてしまったアキラを慰める。そんな姿を見ると確かに同い年な気もした。けどあの時は、ね。
それからしばらく友達のようなやり取りをした。私にとっては初めてのこと。同年代の人と笑いながら話をする。
それは意外にも、楽しかったりした。
村に同年代の人がいたら、こんなことをもっと前に味わえたのかな…と思って首を振る。もう過去は振り返らないって決めたんだ。
そういえば…、私がアキラの顔を覗いた時、なんとなく顔が赤い気がしたのは気のせいだろうか。沈みかける太陽の光が、そう見せただけだろうか。