彼の存在(1)
存在を知ったのは何時だったかな?
一度、会っているはずなのにそのときの事を思い出せない。
でも、これって運命かな。
一弥との出会いを聞かれるたび、いつ、どこで、出会いがあるか分からないことを考えさせられるんだよ。
「と、言うわけなんだけど、集まりそうならコンパしてやってくんない?一弥と!」
仕事帰り、マイちゃんからの着信履歴に気づいてかけ直したらコンパの女幹事を頼まれた。
コンパに行くのに、少し飽きてきた頃だった。
数をこなしても、当たりは来ず、お金と時間の無駄だと思い始めて友達と遊ぶ楽しさを改めて感じだした頃、久しぶりの誘い。
「あたしは彼氏出来たばっかりだから断ったんだけど、美緒がよければ・・」
「一弥くんって、何回かコンパをドタキャンした一弥くん?」
「そうそう!!もし美緒が出来るなら、絶対おごるように言っとくからさ!」
おごりの一言で、あたしは決めた。なんて、単純・・・。
でも、その電話がなければ・・・マイちゃんが私に頼まなければ一弥と会えてなかったね。
「えぇ?!マイちゃん本気??」
週に一回は必ずある、マイちゃんとのデートでの爆弾発言。
二週間ほど前、駅前を二人でいたときに声をかけてきた(つまり、ナンパ)男と付き合うと言い出した。
マイちゃんは私より三つ年上の27歳。相手の男はその三つ上の30歳。30にもなる男がナンパをしてくる時点で、私は嫌だった。
「美緒は反対するかなって思った。」
私の反応に納得するように、そして楽しそうにマイちゃんは言った。
今日はお互い仕事帰りの制服のまま、行きつけの居酒屋に来ている。
もともと、声が大きい私がさらに大きな声で叫んだので、店の中にいる人全員の視線が刺さったのを感じた。
「美緒ちゃん、どうした?」
マスターが意味ありげな、ニヤニヤした顔で聞いてきた。内容を知りたいような口ぶりだった。
「マスター、あとでね!!!」
ビールのおかわりを頼んで、マイちゃんの方に向きなおした。
マイちゃんは悠々とサラダをつまんでる。
「なんで?どうしてそうなったの?タケダさんは?」
「あいつ、連絡くれないし、付き合ってても将来ないでしょ?」
「タケダさんは、忙しいじゃん?それでもいいって言ってなかった?」
「美緒、あたしもう27だよ?あいつは36でしかもバツイチ。人間として尊敬はしてるし、今でも大好き。たぶん、一番好きになった人じゃないかな。でも、結婚は・・・してくれないと思う。将来がないのに、いつまでも一緒にいられないよ。ユウサクがナンパしてこなければ、今でもあいつと付き合ってたと思うけどね。月に一回しか会えなくても、その一回で一ヶ月分充電できてたんだけど、最近ケンカもよくしてたし・・・」
女の子が持ってきたビールをゴクリと飲んで、マイちゃんを見たらマイちゃんもビールを片手に笑ってた。
「マイちゃん、ユウサクに取られちゃったな」
枝豆に手を伸ばし、口に入れるとマイちゃんが幸せそうに言った。
「人生、どこで出会いがあるか分からないね!」