【シナリオ:深海のディスプレイ】終
(物語を描けと言われたら、そりゃ描くよ)
【選択肢B:「物語を描いてほしい」という言葉を逆手に取り、ゲーム内でストーリーを書き換える!】
「物語を描いてくれ……だって?」
拓真の唇が、恐怖を押し殺すようにニヤリと歪みました。SAN値が4削られたことで、逆に彼のゲーマー&クリエイター魂に火がついたのです。
「文学部の俺にそれを頼むなんて、フラグ以外の何物でもないだろ!」
拓真は躊躇うことなく、水没しかけている床からゲームのコントローラーを拾い上げました。幸い、本体はまだ生きています。画面の端には**【文字入力(NAME ENTRY)】**のようなコマンドが、深海の文字で点滅していました。
目の前の人魚のような怪異は、拓真のその不敵な態度に一瞬だけ動きを止め、首を傾げます。
「……? 何を……」
「これより、ゲームのパッチを当てる。タイトルは『深海のディスプレイ』――ただし、エンディングは俺が決める!」
拓真はコントローラーのボタンを猛烈な速度で連打し、画面の「深海の文字」をハッキングするように、自らの意志を、物語のコードとして打ち込んでいきます。それはまさに、コマンドを最速入力するプロゲーマーの動きでした。
『――深海より来たりし使者は、主の命を受け、地上に“とある物語”を持ち込んだ。しかし、その物語はあまりにも退屈な悲劇だった。だから、ここにハッピーエンドを付け加える。使者は地上の光に触れ、主の呪縛から解き放たれ、ただの美しい魚となって静かな海へ帰るのだ――!』
拓真の打ち込んだ文字列が、画面の中で「黄金のテキスト」となって展開され、テレビ画面の神殿の門をガッチリと封印していきます。
「あ、ああ……! 体が……軽くなって……?」
デスクの上の怪異が、苦しげに胸を押さえました。しかし、それは消滅の苦しみではありません。彼女を縛り付けていた、おぞましい「深海の神」の因果が、拓真の物語によって上書きされ、剥がれ落ちていくための変化でした。
彼女の黒い髪が、見る間に鮮やかな銀色へと変わり、鋭かった爪が、柔らかな人間の指先へと戻っていきます。彼女は、拓真が紡いだ「新しい設定」の通りに、呪いから解放されていくのです。
テレビ画面が激しく明滅し、一際強い光が部屋を包み込みました。
◇◇◇
――バツンッ!
大きな音を立てて、ゲーム機の電源が落ちました。
「はぁ、はぁ……っ!」
拓真が我に返ると、部屋の浸水は嘘のように消え去っていました。床も、デスクも、ノートパソコンも、全く濡れていません。
テレビの画面はただの砂嵐(アナログテレビのザーという音)に戻っており、ゲーム機の中の「黒いカセット」は、まるで役目を終えたかのように、ただの灰色のプラスチックの塊に変わっていました。
「……終わった、のか?」
息を整えながらデスクを見ると、そこには先ほどまで怪異がいた場所に、ぽつんと**「青く透き通った、美しい魚の鱗」**が1枚だけ、残されていました。
そして、スマホの画面に、あのフレンドからのメッセージの続きが表示されます。
『あ、言い忘れてた。そのゲーム、昔のバグで「水の音」がうるさいらしいから気をつけてなー!』
「バグどころの騒ぎじゃないっての……」
拓真は苦笑しながら、その青い鱗をそっとポケットにしまいました。
これにて、クトゥルフ神話TRPG『深海のディスプレイ』――シナリオクリアです!
【ゲーム結果】
探索者: 相澤拓真(21歳・大学生)
最終ステータス: 生還(SAN値減少:-4 / 現在値:65)
獲得報酬:
クトゥルフ神話技能:+3%(合計8%に上昇。深海の神の一端に触れたため)
アーティファクト:『深海の青い鱗』(所持していると、水に関する危険を察知しやすくなる。次回の「幸運」ロールに補正がかかるかもしれないアイテム)




