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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

聖書を捨てた悪女

作者: 白夜いくと
掲載日:2026/04/08

 エシュカ・テレスは、村一番と言えるほど美人で優しく、純粋な心の持ち主だ。そんな彼女に少年ルックは言った。


「勿体ないな。身体ぜんぶに刻印するなんて。難しい戒律なんか捨てて、こっちに改宗して、ボクのお嫁さんになってよ。自由だよ」


 静かな教会の前で掃き掃除をしていたエシュカは、ルックに「宗教ジョークは言ってはならないのよ。怒られるんだから」と言った。

 風が吹く。落ちてきた紅い葉っぱをルックの栗色の髪の上に乗せた。


(ふふ、リスみたい)


 エシュカが微笑むと、ルックは気まずそうに葉っぱを手に取った。そして、


「ボクは、ルック・D・ダルシマン」

「貴族の息子なんだぞ、でしょ」

「そう。エシュカを世界に連れ出せる男だ」


 いつも通りのルックの言葉を聞いたエシュカは、笑った。ルックには、この世のどんな絵画よりも美しく見えていた。


 

──1ヶ月前。


「ルック様! お逃げください! ぐはっ!」


 貿易のために隣国を訪れようとしたルックの馬車が山賊たちに襲われた。命からがら逃げ延びた先には、一つの村が広がっていた。


 入り口らしき所には男が二人立っている。事情を話すと、金2粒で村へ入れた。


 その名もムルン。

 一つの宗教でまとまっている、厳格な規律で守られた村だ。


 ムルンの女性は成人と同時に、身体中に女神の予言を意味する刻印を授けられる。女性は決して村の外に出ることは許されない。女神の予言通りに生きなくてはならないのだ。

 そう説明された。


(生きづらそうだ)

 

 ルックは異文化を感じつつ、応援隊が来るまでこの村に留まることになった。



 ふと、風に視線を送る。


 ふわり流れる絹のような金の髪と、陶器のような肌。ルックのことに気づいた女性は、水を汲む手を止めて、ルックのもとへと走ってくる。


「擦り傷が出来ていますよ、旅人さん」

「……」


 手当をする彼女は彫刻のように美しく、また親切だった。手当が終わるとルックは彼女の名前を尋ねた。


「──私は、エシュカ・テレスです」


 ルックは、彼女のことが知りたくなった。と同時に、刻印で彼女の産まれ持った美しい肌が汚れることを惜しんだ。


 だから、連れて行こう。

 そう思った。



 ルックの自由人ぶりは、村人の規律を乱し始めた。それをよく思わぬ者が、彼に罪を着せた。


「聖書を盗んだ」


 と。


 村人たちは、真相など端から分かっていた。そんなことなど、どうでもよかった。集団としての輪を乱されたこと、そしてエシュカを誘うことが気に食わなかったのだ。


 村女が言う。


「私だって、痛かったのよ。刻印。でも、それが女神様と繋がること。大事なことなのに。異教徒はそれが分かっていないわ。懲らしめないと」


 もう一つの理由は、村長がハッキリ言った。


「貴族なら、命乞いに金をばらまいてみせろ」


 と。


(言うねぇ)


 ルックは、縛られた両手で村の中央に立たされた。石や砂が掛けられる。


 視界の先には、


「エシュカ」


 右手に聖書、左手に石を持っているエシュカが悲しげに立っていた。


 村長は言った。


「迷いを捨てよ。エシュカ」


 それは、石を以ってルックを殺すか、聖書を捨てて処刑されるかを選べということだった。


 エシュカの表情を見たルックは、


「いいさ。ボクは山賊に襲われて死んでたかもしれないんだから」


 そう言って目を閉じた。


(恋した人に殺されるのも、悪くない)


 満足そうな顔をして。


 しかし、ルックは彼女のことを何も理解していなかった。エシュカは、聖書を捨てたのだ。


「私は、私が美しいことをルックに教えてもらった。女神の刻印をするくらいなら、死んだほうがマシよ。私の心に素直に生きたい」


 村人たちは、怒り散らして、彼女を縄で縛り付けて石と罵声を投げかけた。


「ああ! 異教徒に恋をして、騙されて! 頭がおかしくなったのね! かわいそうに!」


 ある村女はそう言い、


「あなたには女神様の加護はこない! かわいそうに!」


 ある村女はそう言い、泣きじゃくった。それは、彼女に対する涙ではなく、他の物へ流した血のようなものに、ルックには見えた。



 霧雨が降るなか、ルックは解放された。


「せめてもの情けだ。速やかにここを去れ」


 村人たちは「お前のせいでエシュカは死ぬことになった! かわいそうに!」と言って、泣いていた。


 ルックが呆然と立ち尽くしていると、空が晴れてきた。


 虹が出てくる。

 同時に、村人は何事もなかったかのように動き出した。まるで彼女を忘れるかのように。規律に守られた村を生きていた。


 ルックは気軽に異文化を持ち出したことを反省した。


(エシュカ、ごめん)


 空に祈りを捧げる。彼は、明るい日差しに救いを求め、当てもない旅に出た。償いの旅へと。


(自分の心に素直に生きる)


 エシュカの言葉を、胸に刻んで。

最後まで読んでくれてありがとうございます。


初めてあらすじから書いてみましたが、プロット通りに書けないものですね。でも一応「終わりまで書く」は出来ました。少しずつ物語が書けるようにリハビリします!

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― 新着の感想 ―
 まだ小さなコミュニティ内だから異端者の排除で済んでいるんですよね。これを外部に持ち出せば間違いなく戦争となるでしょう。  価値観の相違とはそんなもの。郷に入りては郷に従えこそが人間関係の基本。たとえ…
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