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プロローグ

はじめまして、あるいは こんにちは。

ことな、と申します。

これから投稿していきます。よろしくお願いいたします。


 太陽が傾いてきた。


 夕日を受けて明るさを増す若草山の稜線を目で追いながら、決して交わらない空との境に目を細める。この前読んだ詩集で、誰かが空の青さをうたっていたが、その青さがオレンジに染め上げられていく。


 もうすこし時間が経てば、日没の美しい景色が見られるだろう。今日はじいちゃんと一緒じゃないから、もう帰らないといけないけれど。


 読んでいた本を防水鞄にしまい、設置していた竿を片付け、オールを操作し船首の方向を変える。脱いでいたライフジャケットを羽織り、チャックを上げて周りに障害物がないか確認した。


 いい天気だ。

 風は心地よく、穏やかな日差しが降り注いでいる。たまに汗をかいても、すぐに乾いてしまうくらいの気温で、とてもすがすがしい。


 舟の下にはアジやイワシなど旬の魚が泳いでいて、何匹も取れた。これだけあれば、じいちゃんの一週間の食事になるし、売って小遣いにもできる。明日は安心して(・・・・)高校へ行けそうだ。


 じいちゃんが子どものころは、学校は歩いて行ける距離にあったらしい。船に乗って、二時間かけて行く今とは大違いだ。


「……もうちょいで読み終わるし、まあ、仕方ないか」


 行きたくないなあと呟きかけて、今日読み終わった本の続きを借りる予定があったことを思い出す。

 本は、こちらでは売ってないし借りられない。


 水が跳ねる音がした。鳥が水面の魚を捕ったようだ。力強い羽音が水面を波立たせる。

 そちらの方に目をやると、若草山のなだらかな稜線が光を受けてきらめき、影を際立たせ、存在感を増していた。


 両親は、おれが生まれる前からこの若草山で暮らしていたが、生駒山を超えた向こうにあるスカイタウンで数ヶ月前から働いている。「義務役(ぎむえき)」という、スカイタウンに永住権を得るための条件の一つで、任期を終えれば家族全員でスカイタウンに移り住むことができる。


 与えられた居住区に住みながらできる仕事もあれば、救助船のように泊まり込みであちこち行かないといけない仕事もある。どれに関わるのかは適性と運によるらしい。


 おれもじいちゃんもスカイタウンで暮らしたいと思っていない。しかし、元々は同じ意思だった両親は、度重なる天災により「やっぱり命が大事やから」とスカイタウンで暮らすことを望みはじめた。


 水面から顔を出した大仏さまが見守る中、おれは漁を終えた。興福寺の屋根に仕掛けていた網も回収しつつ、若草山へ戻る。


 奈良の都は、この地球が今抱えている問題には素知らぬ顔をして、今日ものんびりとした時間が流れていた。

奈良が好きで、奈良の都を舞台にした話をずっと書いてきました。でも今回SFちっくなお話を書けたので、せっかくだし投稿していきます!

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