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ジーヴェン  作者: シェルちゃん
3/6

この世界に身を浸して

「………」

「…」


 ぺリルと私の間に、暫しの静寂が流れる。


「…行きます!はああああ!」


 先手を取ったのはぺリルだった。

 やはり速い。けど今度は堅実に行く。


 動きの癖…モーションパターンは見切った。

 後は私が、合わせるだけ。


 美しい音と共に、私の手羽先とメリルの槍先がぶつかる。


「ふぁっ…!?」


 こちら向きのベクトルが発生する直前に当て身をすることで、そのベクトルはそのままぺリルの方へ帰って来る。

 その反射は大きく体幹を削り、ぺリルの型を完全に崩す。

 その隙に、ラッシュを叩き込む。


「…ぐっ!」


 崩れかけた姿勢のぺリルが、体勢を立て直しながら槍を横にしガードをする。

 けれど。

 この状況に持ち込んだ時点で、


「私の…」


 不意を打つように、外縁スラスターを二つ点火。


「勝ち」

「きゃあああああ!」


 槍が折れると共に、メリルは腹に大きな衝撃を受け壁に叩き付けられた。

 相手の得意で勝負をさせない。

 対人ゲームが教えてくれた事だ。別に私が特別強いとかそう言う訳ではないけど。


「…たた…肋骨に…内臓も全部やられましたわね…これはわたくしの負けですわ………え?わたくしの…負け…???」

「先輩の顔は立てておいた方が良かったですか?」

「負け…わたくしの…負け…つまり………!」


 瞬時に消える。

 気付いたら、私の脚にくっついてた。


「ようやく見つけましたわ!わたくしのお姉さまぁ!」

「……………は?」

「幼いころから常に強者である事を強いられ…不敗が故に誰にも頼れず…うう!でもそんな日々ももうおしまいです!」

「え。嘘。は?ちょっと待ってまさか…」

「はい!最初からこれが目的ですわ!」


 困惑九割。

 だけど、妙な納得感もあった。

 だってギアを振り回しているだけじゃ、絶対に無理だったもの。

 初めて自分自身が認められた気分だった。妙な形だけど。


「そっか。それじゃあこの学校を案内してくれないかな」

「かしこまりましたわ!」


 色んな場所に連れてかれた。

 教室、訓練所、食堂、また訓練場。


「開校当初は数百人規模を想定していたらしいのですが、現在は全校生徒100名弱。ギアノイドに至っては僅か20名と言う体たらくなのです。江戸時代からの名残で、地元に根付いた企業や団体が、各々自分の担当地域のネガに対処すると言う形が定着してしまっていて…天音さん?」

「廊下の突き当りの扉。あそこは?」

「あそこへは絶対に近付いてはいけません!特に貴女は…」


「おお~~~!やっと見つけましたぞ~~~!」


「あぁ…見つかった…」


 変な男が声をかけてきた。

 既に生理的嫌悪感がやばい。


「あああ失礼。お初にお目にかかります!小生名をケンと申す!専攻はギア生理学!天音氏の事は存じ上げておりますよ!」


「何こいつ」

「ただのギアオタクですわ。行きましょ」


「ああお待ちをぉ!せめて!せめてそのギアの名前を聞きたくはありませんか?」


 そこで、私の脚は止まった。


「名前?」

「はい!全てのギアには、その形に応じて名前があります!これに関しては…」

「ジーヴェン」

「ぐぁっ!」


 流石に知ってる。


「いこっか。ぺリル」

「はい!こんな奴放っておきましょう!」


「ま…待ってください!せめて触らせてぇ!」


 アカデミーの中は広かったが、使われていない教室も多くある。

 迷う心配も無いだろう。


「今日はありがとね。ぺリル」

「お姉さまのお役に立てて光栄です!またいつでもお申し付けください!」


 かくして、ぺリルと私は寮の前で別れた。


 ネガハンターアカデミーは、その名の通りネガの討伐に特化したカリキュラム。

 一応テストはあるが、ネガに関する事以外の座学は殆ど行われず、基本は各自、寮で自習する事になる。

 自習は私の得意分野だ。


「おい」


 また男に声をかけられた。


「ここ女子寮の前ですけど」

「だから来た。お前女だろ?」

「この学校には変な男しか居ないんですか?」


 背が高い。

 私よりも年上そうだ。


「それで、何か用ですか」

「俺と戦え。ぺリルに勝ったんだろ。お前」


 既に手足の先が麻痺している。

 明日も寝込むの確定だ。

 これ以上戦いたくない。


「嫌です」

「そうか。なら」


 男の手首が光り、細身の剣が現れる。


「リアクターを壊させろ。この剣で」

「第二訓練場が開いてたはずです。行きましょう」


 今の一言で確信した。

 こいつは実績だけ欲しいタイプ。

 無視したら、平気で寝込みとか襲ってくるだろう。


 訓練場に向かう途中、ふとガラスに私が映る。


 重めの長い黒髪。

 高くも低くも無い身長。

 我ながら、光の無い黒い目。

 可愛げのない真顔。


「どうした。天音」

「別に」


 これから戦う事が増えるなら、この髪も縛るなり切るなりした方が良いのかな。


 そこは、訓練場と呼べるほどの場所でも無かった。

 ただの広い空間。

 ギアノイドにはこれで十分なのか、それともこれ以上の物を用意する事ができなかったのか。


 男は剣を構え、私を睨む。


 灰色の短い髪。

 金色の瞳。

 機動部隊みたいなごつごつとした服。


「俺はジル・ボビン。お前に勝てば、俺がぺリルのお兄様だ」

「そう言う事ね」


 ぺリル、倍率高いのかな。


「行くぞ。天音」


 ジルは駆け出す。

 速さはぺリルと比べ物にならない程、遅い。

 でもその歩みには確固たる芯が通っている。

 ぺリルとは別ベクトルの力を感じる。


 ジルの剣がやってくる。

 刃が空を唸る音は恐ろしげだけど、ぺリルの後だとちょっと…


「遅すぎる」


 見てから翼を広げ、手羽先でパリィを決めるまで余裕だった。

 だが、ぺリルほど体制が崩れない。

 ジルは跳ね上げられた剣を再び切り返す。

 パワーと持久力が高い。


 けど、動き自体は直線的。

 ぺリルのようなPvP感は無く、これはどちらかと言えばリズムゲーだ。


 リズミカルな金属音。

 リズミカルな動き。


「は…は…はぁ…ぐっ…まだまだ!」


 彼は私のこれがガードで、押し続けていればいずれ崩れるとでも思っているのだろうか。

 ぺリルほどの効果はなくとも、確実にその衝撃はジルへ跳ね返ってきている。


 剣舞のリズムが崩れたこの瞬間、その腹に思い切り蹴りを入れた。


「がっは!?」


 消耗しきったジルは、いともあっけなく吹っ飛んでいった。

 そんな強く無かった…


「な…何故…この俺が…こんな…負け方を…」

「攻防一体。聞こえはいいけれど、あなたのそれは随分バランスが悪いですね」


 待てよ、なんで私こんなに強いんだ?

 それともこの学校の生徒が弱いだけ?

 なんにせよ、この先が不安だ。


「…失礼します」

「覚えてろ…枕荒らしをしてでも背中のそれを叩き切ってやる…!」


 そんな捨て台詞を吐く物だから、暫くは凄く警戒した。戸締りとか。

 でも、実際に事が起こるなんてことも無く。


「やっと体が動くようになってきた…」


 一週間寝込んだ後、漸く外出できるまでに回復した。

 久々に授業に出ようかと思い校舎へ向かう。

 けれど、その日は凄く物々しかった。


「何事?」

「ジルの奴が騒いでるんだ。天音って子を出せって。でも何だか様子が変で…」


 妙な胸騒ぎがした。

 訓練場まで走っていくと、その胸騒ぎは確信に変わった。


「ジルさん…その姿…」

「驚いたかぁ…天音ぇ…俺はぁ…お前を倒す為だけにぃ…」


 光の灯っていなかったその剣は赤に変わり、右目も、赤色に。

 あの日と同じだ。


「ギアに魂を売ってやったのさ!」

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