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ジーヴェン  作者: シェルちゃん
1/6

天音 珀

 薄暗い部屋の中。

 見てないのにテレビも付けっぱなしにし、今日も画面の奥で英雄を目指す。


『ダイオウエナジー社は、今季トップハンターのメイ・ぺリルさんを公式アンバサダーに任命しました!それを記念して…』


 テレビはいつも通り、私と遠く離れた現実ばかりを放映している。


 いつからだろう。

 自分が孤独だと気付いたのは。


 むなしさとやるせなさ。

 そして眠気が、今日も私の意識を沈めていく。


 そしてまた、部屋の電気さえ付けっぱなしの自室で目を覚ます。


『ネガの脅威もさる事ながら、近年では原因不明のギアノイド暴走が多発しており…」


 シャワーを浴び、カバンに適当に教科書を詰める。

 一階に降りると、昨日買っておいたコンビニ弁当が袋ごとそのままになっていたのでかき込む。

 歯を磨き、顔を洗い、制服に身を包み、登校する。

 昨日と変わらぬ今日。きっと明日も同じことをする。


「ねぇねぇさきっち~聞いた?B組の伊藤さん、ギアノイドになったんだって!」

「うそマジで!?6人目じゃーん!てっきり赤ちゃんの時とかになるものかと思ってたー!」

「ねー珍しいよねー。そういえばさきっちもギアノイドだけどさぁ…」


 最後に授業以外で声出したの、いつだっけかな。

 父は刑務所。母は働いてる。友達は居ない。

 そしてきっと、私は少し前から、取り返しのつかない人生の失敗をしたのだと思う。


「伊藤さんがギアノイドになられたという事で、今日は予定を変更してこの時間を保健体育にします。そもそもギアとは地球外生命体であり、彼らが人の身体に寄生し共生関係を築くと、その人はホモ・サピエンスからホモ・ギアノイドと昇華します。然しこれは決して特別な事では無く、生物の遠い祖先はミトコンドリアを…」


 時間を厳守して、きちんと授業を受けて、真面目に勉強していい点取ってれば、いつかは幸せになれると、そう信じてた。

 でも、この道の先に幸せや安定なんてないって、高校生にもなれば嫌でも理解してしまう。


「ねえ聞いた?天音さん、学費払えなくて中退するかもしれないんだって」

「嘘ぉ!真面目にバイトしてるイメージあるし、そう言うとこしっかりしてるのかと思ってたー」

「でもまあしょうがないよねぇ。お父さんがあんな人じゃ…」


 父。

 その単語を聞くと、きっと私は無自覚に顔に出てしまうのだろう。


「ひっ!聞かれた…かしら?」

「行きましょう。怖いわ」


 教室から人がはけていく。

 暫く居残っていると、担任の先生が来た。

 先生は私の前に座り、書類を手に神妙な面持ちでこちらを見る。


「天音。何で呼び出されたか、分かるよな」

「………」

「確かにうちはバイトを禁止していない。だが、流石に枕仕事はわが校としても容認できないんだ。分かってくれ」

「………」

「別に君を責めている訳じゃない。むしろ助けたいと思っている。君のお父さんが…」


 たん。

 それは、私が机を叩いた音だった。


「いい加減にして下さい。私の事は放っておいておいてくれませんか。みんな…みんな助ける助けるって…私がそんなに可哀そうに見えますか?」


 息が切れる。

 久々だ。こんなに大声を出したのは。


「私にはもう…将来なんてない。それを今必死に受け入れてる最中なんです。容認できないなら、私を追い出してください。私がろくに学校生活も送れない不出来な娘だと知れたら、母さんも分かってくれます…」


 バックも置き去りに、私は席を立つ。


「…………申し訳ない。天音。先生には、君に言葉を届けるだけの覚悟が、無いみたいだ」

「失礼します」


 私は、逃げるように教室を後にした。


「………っ!」


 雨が降っていたが、傘もささずに校舎を飛び出す。

 すっかり日は落ち、外は真っ暗だった。


「…ぐすっ…どうして…一人くらい私を気にかけてくれたって良いじゃないか…!誰も認めてくれやしないのに!私をどう助けるって言うんだよっ!」


 先生のあの目。

 あれは私を見てなかった。

 あれは、恐怖だ。私のせいで学校の品位が損なわれるかもしれないと言う、恐怖。

 家に帰る気にもなれず、私はただ夜の街を走り続けた。


 息が切れるまで走った。

 暗い事もあり、此処がどこかも分からない。


「……隣町……の外れ……?」


「きゃあああああああ!」


 その時、悲鳴が耳に届いた。


「…え?何?」


 一瞬足がすくんだ。

 けど、次の瞬間には音源に走り出していた。


「やめてよさきっち!どうしちゃったの!?」


 そこはひとけのない路上。

 女の子が一人と、


「うう"ヴ…アアアアアアアア!"


 左半身が、白い鋼と黒いワイヤーそして赤い蛍光に呑まれた、


「ネガ…?いやでもこれは…」


 ネガはギアの悪性種。

 宿主を必要とせず、自律行動する正真正銘の魔物。

 そのはずなのに。


 "アアアアアアアアア!!!"


 あれの中には、人が居る。


「あ…天音さん!?お願いします!すぐにネガハンターを呼んでください!」


 オーダーを、呼んだらどうなる。

 襲われてる子は到着までに殺され、ネガっぽい子はハンターに殺される。


「早く逃げて!」

「嫌です」

「!?」


 奢りというより、ある種の確信。


 私の背中に埋まっているギアの心臓…リアクターに光が灯る。

 現れたのは、一対の鋼翼。

 忌々しい、私にかかった呪い。


「え…え…?天音さんも…ギアノイド…?」


 あの子のリアクターは左手首。

 この狭い場所で点火は危険。

 やるなら、ステゴロ。


 "ギギャアアアアアアアア!!!"


 ネガのギアノイド、ネガノイドとでも呼ぼうか。


 彼女は剣と一体化した腕を振り降ろす。

 私はそれを右翼で受ける。


 キィン。

 金属のうちあう音。

 だけどこれは。


「重…いけど」


 左翼を縮め、ネガノイドの腹に向けうつ。

 バキバキと硬い物が割れる音と共に、ネガノイドは大きくのけぞった。


 リアクターを攻撃する為には、先ずは傷を負わせたり力を使わせて、エネルギーを枯渇させる必要がある。

 これはネガだろうとギアノイドだろうと変わらないから、きっとこいつも同じだ。


 "ギュギュギィ!"


 メリメリと言う音と共に、ネガノイドの剣が更に長く、太くなる。


「怒った?」


 ネガノイドは大きく剣を振り上げる。

 対する私は、姿勢をぎりぎりと低くしていく。重心を、地の底まで落としていく。

 左翼を前に、そして右翼は後ろに引いていく。


 "ギャアアアアアアアア!"


 剣が振り下ろされた瞬間、重心を地の底から弾き出し、その反動で限界まで引いた右翼を放った。


 がきーん。

 凄く美しい音。

 ゲーム風に言うなら、ジャストパリィ成功?


 ネガノイドの剣が砕かれ、本体は反動で後退する。

 まるで電球が切れたかのように、ネガノイドのリアクターから光が消える。

 今だ。


「…んぐ!?」


 体が、動かない。

 そう言えば、ギアを出すのは何年振りだろうか。相当訛ってらしい。

 だめだ、今止まったら、あいつは…


 バキッと言う音と共に、ネガノイドのリアクターに何かが突き刺さった。


「は…はぁ…はぁ…此処…だよね…?」


 襲われてた子が、いつの間にか取り出したコンパスで思い切りリアクターを突き刺していた。

 リアクター全体に亀裂が入り、破壊される。


 "ア…ああ…」


 ネガノイドだった子は、倒れた。


「あ…天音さん!大丈夫ですか!?」

「大丈夫…ですから…早く逃げて下さい…」


 それと同時に、ネガハンターらしき人達がやってきた。

 騒ぎを聞きつけた誰かが通報したのだろう。


「大丈夫ですか!?」

「また暴走したギアノイド…今月何回目だ?」

「…正確に武器だけ破壊されている…これは、君がやったのかい?」


 体が、動くようになった。

 解決したなら長居も無用。


「失礼します」


 今日は疲れたけれど、少しだけ、ほんの少しだけ自己肯定感が回復した。

 翼はとっとと閉じ、此処から去ってしまおう。


「待ちなさい!」


 聞き覚えがあるのに、知らない声。


「?…!?」


 私の背後に居たのは日本一のネガハンター、メイ・ぺリルだった。

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