観覧車、貸します。
『観覧車、貸します。レンタル料は自身の命です』
そんな文が書かれた一枚の紙が、暗く汚い路地裏の水溜まりに浸かっている。
皆が皆、命を奪い合っている様なこのご時世に『馬鹿だ』と思う。
それを隠れ家に持ち帰り、熱心に読んでいる私も私だが。
生みの親も最愛の人も失った私に、もはや生きる意味などない。
でも、誰かに命を奪われるのは嫌だ。
死に場所は自分で決めたい。
そう思い、罅の入ったレンズの所為で見えにくい視界を酷使しながら地図に記載されている場所へと向かう。
ボロボロの体を引きずり何時間も歩き辿り着いたのは山の中。
荒れ果てた遊園地の中にある小さな観覧車。
私と同年代ぐらいの人物が制御室の中からこちらを見た。
「ちょうどヨカッタ、もうすぐ命が尽きる頃だったノデ。正直、モうダメかと……」
私は操作盤を見て驚いた。
「驚いたデしょう?コレにも人工知能が搭載サれているんです。……アナタ残りの命は?」と聞かれたので答えた。
「イインですカ?まダ、たくさんアルのに……」
「いいんです。最愛の人も、もういないから……」
私は『感情』を持って生まれたアンドロイドだ。
見た目もぱっと見では人間か機械かわからない。
皆、大切な人と毎日を平和に過ごしていた。
しかし、未知のウイルス、大災害……、様々な要因が重なり人類の殆どが死に絶え、アンドロイドもその他の機械も多くが機能を停止し、生き残ったアンドロイド達は死を恐れ、他者の命……電気を奪おうと躍起になった。
「私は、ココで接客用ロボットとシて働いてイましタ。こうナってカラもずっト……。そして自分の命で観覧車を動かしていまシタ。驚くカモしれませンが、コレにも心がアるノです。たった一人の友達ナンです。タダ――」
自分の命にも限りがある。
次の命を探さなければ。
でも、こんな山奥、誰も来ない。
風船に紙を括りつけ、飛ばしてみたが、やはり誰も来ない。
二人で朽ちるしかないと思っていた。
「その時に私が来たと?」
「ハイ。アナタになら任せられそうデス」
「レンタルって言うんですか?それ」
「ワタシの物ではないのデ、では、操作のせ、セつめイを……」
時間がない。人工知能をフル回転させる。
「理解しました」
停止する前に届いただろうか。
体をベンチに座らせ、制御室から外を見る。
ああ、空が綺麗だ。
「初めまして」優しげな声が聞こえてくる。
「初めまして。私の命が尽きるまで、よろしくね」
それまでに、次の命を探しておかないと。