第20話:やられた……。
夕食を用意していたら上階から蕾が降りて来た。
「えっと~おじゃましてます~」
「いらっしゃい蕾ちゃん、お家には連絡したから、今日は泊っていきなさい」
「えっ……でもぉ~」
「今日ご両親もお姉さんも仕事でしょ? それに私もうお酒開けちゃったし」
そう言ってお酒の缶を振っている。
「って母さん!? いつの間に!?」
「帰りに買ってきたのよ、蕾ちゃんもまだ寝てると思ったから飲んじゃった♪」
「母さん……っと、蕾すまんな。危なかったし勝手に連れてきちゃったよ」
「あ~うん~それはいいんだけどぉ~」
「大丈夫、服を変えたのは私だから!」
由愛が横から生えて来る。
「それは~よかったよ~」
「由愛、火はどうした? 卵焼いてるだろ?」
すると途端に焦げた匂いがしてくる。
「あ゛! やばい!!」
台所に飛び込んだ由愛が気まずそうな顔をする。
「お兄ぃ……やらかしたぁ……」
由愛の手元には真っ黒く焦げた卵焼きがあった。
「仕方ない……少し切って使おう。残りは俺がやるから盛り付けを頼む」
「はぁい……ごめんお兄ぃ」
「はいはい、任せとけ」
落ち込む由愛の頭をポンポンと叩き卵焼きを作る、料理もやり慣れたもんでちゃっちゃと薄焼き卵を作る。
「ほい、完成。由愛、後は頼んだ、フライパンは熱いから触るなよ」
フライパンをコンロの端に避けておく、熱が冷めた後じゃないと痛むからな。
交代した由愛がお皿に冷やした面と具材を乗せていく。
「あ、そうだ蕾。冷やし中華はゴマダレと醤油ダレどっちがいい?」
リビングに居る蕾に問いかけると少し悩んでゴマダレが良いと返してきた。
「いえーい蕾さんもゴマダレ派だ~」
「はいはい、良いから早く仕上げてくれ」
仕上げた冷やし中華にタレをかけていく。
「ほい蕾、アレルギーとかは無かったよな? 食べれない物あったら言ってくれ、母さんはそっちで食べるの?」
「いや~そっちでたべるわ~」
「ありがと~これ。翔が作ったのぉ~?」
「あぁ、とはいっても麺は市販品だけどな」
「あら、でもタレはあなたが作ったじゃない」
「まぁあんまり好きな味じゃなかったからね」
「ふぇ~しょーはすごいなぁ~私はぁ~ぜんぜんだよぉ~」
「そうなの? じゃあ翔なんて良いんじゃない? 料理も洗濯も出来るわよー」
「母さん……今何本目?」
「三本目ぇ~」
飲み過ぎだ!
「飲み過ぎ、なのでこれは没収」
置いてある缶を回収して冷蔵庫へ入れる、グラスに残ってるのは悪いのでそのままに。
「え~後生だからぁ~今飲んでるのだけぇ~」
「はいはい、ご飯食べたらね」
「ふぁーい……」
「お兄ぃ、ついでにマヨネーズ持ってきて~」
席に着いた由愛が言う。
「わかった、というかタレかかってるだろ?」
「あはは~トマトだけは、マヨで食べたいんだもん」
「私もぉ~貰って良いかなぁ~」
恥ずかしそうに蕾が手を上げる。
「わかった、じゃあ持って行くな」
冷蔵庫からマヨネーズを取り出し蕾へ手渡す。
「えーお兄ぃの差別だぁ~」
「いや、蕾はお客様だろ?」
「むぅ……仕方ない……」
むくれながら意味不明な譲歩をしている。
「はい~ありがと~、つぼみちゃんもどぞ~」
「はーい、ありがとうございます!」
「それじゃあ、いただきます」
「いただきます」「いただき~まぁ~す」「うぅ……いただきます……」
◇◆◇◆◇◆◇◆
その後、夕食を食べ終えた俺と蕾は、母さんに向き直っていた。
「それで~、蕾ちゃんの用事は何かな?」
「えっとですねぇ~実は私ぃ~こんなモノを作ってましてぇ~」
蕾が鞄からホチキス留めされた冊子を取り出す。所謂コピー本というやつだ。
「印刷所に出す前のぉ~試作品なんです~」
母さんはぱらぱらと冊子をめくる。
「ふーん……翔の部屋にもあったわね、そういえばこんな薄い本が」
「母さん!? ちょっとどういう事!?」
なんてことを暴露してくれてるんだよ!!。
「いや~春にアンタ入院したでしょ? その時に着替えが必要だから箪笥を見たらねぇ~流石に服の下はバレるよ?」
「NOOOOOOOO!!」
頭を抱えて悶絶する、仲の良い女子に知られるの凄く恥ずかしいんですが!?。
「あはは~しょーも男の子だねぇ~」
「うぅ……」
悶死しそうな俺の背中をポンポンと叩く蕾。
「まぁ蕾ちゃんがそんな本を作ってる事はわかったんだけど、それで何でウチに来たの?」
「それはぁ~真白からぁ~こんな画像をいただきましてぇ~」
いつものおっとりとした様子と違いスマホをささっと操作する。そして見せて来た画像はこの間俺がコスプレした時の写真だ。
「あ~すっごく好評なヤツね。お陰で先方も滅茶苦茶喜んでてくれたわよ」
「そ~なんですねぇ~クオリティが凄いですからぁ~。それでぇ~しょーがやったコスプレのキャラクターのぉ~本を出すんです~」
(ん? なんか嫌な予感が?)
そんな俺の嫌な想像が俺の頭を掠めてる間にも蕾の話は続く。
「そこでぇ~売上アップの為ぇ~しょーに売り子をお願いしたいんですぅ~」
「面白いからOK!!」
「ほんとですかぁ~」「母さん!?」
俺の悲痛な声を無視してどんどん二人が盛り上がっていく。
「俺の意見は? ねぇ!」
そして俺の夏休みの予定が、俺の知らない所で一つ決まってしまったのだった。
作者です。
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