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008 水の曜日の例のアレ8
リュシアンは右手に掲げた杖の先を回して、妖精の粉の結晶をあたりいっぱいに降らせた。金銀に光る粉は見る分には十分綺麗だが重力を吸い取ってしまう。身体に浮かぶにはバスタブいっぱいの粉をかぶらなければいけないが、髪や服はある程度かぶってしまうと空気より軽くなって熱気球のようにぷかぷかと浮かんでしまう。服が捲れたり髪が乱れるのを防ごうとミーガンは必死になって粉を払った。迷惑千万。
制服と髪をバサバサとはためく音でいっぱいになったあたりをリシュアンは満足そうに目を細めて、見下ろした。
「蝶は華麗に舞い、花から花へ。いくら飽いても花は尽きぬ。されど、真に心惹かれるに咲く花は一輪のみ。その花、咲かせてみせよう。
誠の騎士、リュシアン・クロード・プジーは今ここに!
僕の愛はいつでも一途さ」
ヴァイオリンの優雅な音色と共にリュシアンの口上は響いたが、妖精の粉を払うのに一心の生徒たちは耳をかさない。槍持ちだけが髪の毛を逆立てながら叩く拍手だけが彼を讃えた。
今日の夕飯はローストチキンです