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006 水の曜日の例のアレ6

 周囲が諦めのため息や食堂に行くことのできない苛立ちをぶちぶちと声としてあげていながら待ち続けること数分、耳を塞いでなきゃ聴いていられないラッパの音が中庭に響いた。

「やっと始まった」

「始まってからが長いだよな」

「早く終わらないかしら」

 なおも不満の声は途切れない中、鼓笛隊の行進のあとに足取り重い馬の蹄の音と改造馬車を引く音が続く。

 一台目は赤の馬車。その上に乗るものはおらず、ただ馬車の脇を歩く従者が花びらを模した紙片をばら撒く。振ってくる紙片を被ったものは喜ぶどころか鬱陶しそうにそれを払った。

 二台目は青の馬車。お立ち台の上にはオリヴィエが立っていた。紙片が舞う中、オリヴィエは腰に携えた剣を抜いて空へと掲げる。磨き抜かれたそれを見て、ミーガンは今日一番肩の力が抜けた。

 オリヴィエが持つ剣についてミーガンはよく知っていた。いや、頭に叩き込まされたという方が正しい。磨き抜かれた刀身は数多のドラゴンの血を吸った必殺の刃。鋼の柄には月桂樹の葉の彫刻に埋め込まれたタンザナイトには国を守る決意が強く強く込められている。厳冬の日。暖かな暖炉の火にあたりながらオリヴィエの父が、これが代々王に仕え、邪を振り払ってきた我が一族を象徴する一振りだと。オリヴィエと共に見せてくれた、赤い焔を写した刃の煌めきの力強さと畏怖は忘れたくても忘れられない。

 家宝とも言える宝剣をオリヴィエはなんにもない水の曜日に得意気に抜いて見せている。陽光の光を反射させて光る刀身からかつての面影は消え失せている。

 これをキュリーの家の方達が見たらどう思うだろう。もう何年も顔を合わせていないオリヴィエの家族の顔を思い浮かべる。皆、沈んだ顔をしていた。

 ぼんやりと立ち尽くすミーガンに構わず、パレードは続く。オリヴィエは風切る音だけは見て取れる剣捌きを二、三披露すると剣を高く空に突き上げて声高々に言葉を口にした。

「暗い夜空に浮かぶ 一つ星

見つけた者は多けれど 掴む者はただ一人

たとえ空が高くとも 手にしてみせる

王立エルドリア学園 剣聖 オリヴィエ・ヴァン・キュリー 

俺の剣を受けてみろ」

 口上は中庭に響き、バリケード役の男子生徒だけがまばらに拍手がパラパラと鳴った。エルザが「黒歴史って言葉がピッタリはまるね」とボソリと呟いたのをミーガンは聞き逃さなかった。

今日の夕飯はピカタです

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