001 水の曜日の例のアレ
朗々と魔法式を説く老教師の声を遮ったのは、外の騒ぎに乗じて震えた窓ガラスの軋む音だった。
「今日は水の曜日だったか。もうそんな時間か……」
老教師の言葉は講義室にいる全員の思ったことのそのままだった。その中にはミーガン・J・プリモも含まれていた。
講義室の窓際に座るミーガンは老教師が食堂のマダムクレアのシチューをよそう動作の精密さについて話始めるとペンを置いて、騒ぎの音がした方ーー窓の外の裏庭の様子を伺った。
裏庭にはオミコシというらしい十人は乗れるほどの大きい改造馬車が五台列を成していた。
改造馬車は屋根を取っ払われた代わりに宮廷のホールに吊り下げられたシャンデリアと見誤るほどの装飾が凝らされ、上部には人一人が立つのでやっとの台と手すりが据えられて一台一台それぞれに赤、青、黄、緑、桃と塗り分けられている。特に桃色の馬車は一際豪華で、大砲らしきものが二門据えられていた。
馬車を囲い慌ただしく動くのは授業を休んでまで男子生徒たちだ。彼らは大砲の点検に熱心で腕を大きく動かし声を張り上げ、これから始まる例のアレに向けての焦りと緊張を抱えているのがミーガンの目にも見て取れた。
ミーガンは視線を空にやり雨が降る気配がないとわかるとため息をついて再び馬車の列へ目を向けた。その時青の馬車から一人の男子生徒が降りてきた。