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建物の中は少し涼しくて自分が汗ばんでいたのに気がついた。
結構歩いたものね。
目の前には長いカウンターのテーブルと待合用なのか椅子が10脚くらい並んで置いてある。
田舎の郵便局みたいな感じだ。
受付カウンターには緩いウェーブのかかったロングヘアの30歳くらいの小柄な女性がいて、ミイちゃんは慣れた様子でその女性に声をかけた。
「こんにちはー。渡り人の登録お願いしまーす!」
受付嬢は少しびっくりした顔をした後私に向かってにっこり微笑んだ。
「あら!もう次の人が来る時期になったのね!10年なんてあっという間ね。こちらへどうぞ」
私とミイちゃんはその女性に促されてカウンターの右奥にある個室に入った。
2人がけのソファが対面で置いてあって、間に低めのテーブルがある。
かけて、と言われて奥のソファに腰をかけるとミイちゃんは足元にくるんと丸まった。
「今局長を呼んでくるから少し待っててね」
女性はそう言って扉から出て行き、部屋には私とミイちゃんだけになった。
「ミイちゃん、ここまで歩いてきた事でなんとなく見たいものとか聞きたいこととかが浮かんできた気がするよ」
ミイちゃんは尻尾をパタパタ揺らしながら私の足を軽くつついた。
「うん。突然のことだもの、はじめは何がわかんないかもわかんないよね。
ちょっととっかかりを作ってそこから広げて行けばいいよ。
いそがなくても、食べるものもあるし住むところもあるし何も心配いらないよ。
キヨコのペースで動いて、考えればいいと思う。」
「ありがとう」
なんとなく胸がキュッと痛くなると同時にほわっと暖かくなった。