番外編@品評会6
1週間後、私は王都の駅に再び降り立った。
もう18時間移動に慣れてきてる自分が少し怖い。
今日からの宿泊はネモフィラ亭なので部屋に行き少し休ませてもらうことにする。
今日の受付は女将さんだった。
本選は今日が4日目で明日が最終日だ。
明日には社長と工場長も王都に来ると言っていた。
本選は予選を勝ち抜いた各部門の10作品ずつを一つの会場で一挙に展示する形になっている。
予選と違い一般の人は入場が制限されているのだけど、私は出展してる会社の関係者なので入場する事ができるのだ。
この1週間興奮と緊張がかわりばんこに押し寄せてきて私はずっと寝不足気味だ。
ベッドに体を横たえて目を瞑ると、ネモフィラ亭の部屋の優しいアロマの香りが鼻をくすぐって、私はついつい眠り込んでしまった。
ハッと目が覚めるともうだいぶ陽が高い。
時計を見ると午後1時になっている。
私は慌てて身嗜みを整えて本選会場に向かった。
別に時間が決まっているわけでもないし、早く向かう必要はないんだけど、気持ちが落ち着かなくて足が勝手にどんどん動いて、途中からはほぼ走っていた。
若干息を切らしながら会場につき、カバンの中から招待券を出して提示すると、すんなり中に通される。
走ってきたから額に汗が噴き出てきて、少し恥ずかしい。
ハンカチで汗を拭いて深呼吸してから私は一歩踏み出した。
最初は絵のブース。
どれも大きめの絵で人物画も風景画も抽象画もある。
中には壁一面を覆うくらい大きな絵もあって迫力がすごい。
次が陶器のブース。
白磁で絵付けの綺麗な皿から色付けで勝負している大きな花瓶までこちらも色々展示されている。
彫刻のブース、インテリアのブースと進んで行くとその奥にガラス工芸のブースがあった。
ゆっくり見回すと、ガラス工芸のブースにはやはり予選でも目を引いていた物が展示されている。
ガラスで出来た大きな虎の置物、鈴蘭の花をひっくり返したような形の金魚鉢に色とりどりの魚が泳いでいるように見えるランプ、シンプルながらものすごく薄くて繊細なワイングラス。
その中でもナムルさんの花瓶はやっぱりひときわ存在感を放っていた。
まず色がいい。
ガラスってどうしても薄い色になりがちなのだけど、この花瓶の色の濃い部分はガラス自体に厚みがあるせいか、本当に重厚な色味で光を僅かにしか通さない。
そのわずかに通した光で色を変えて輝くのだ。
本来の染料の魅力を十二分に発揮している。
更にそこから模様を削りだすことによって、薄い色のよりキラキラ輝く光も楽しめるし、濃い部分の本当の色合いを楽しむ事だって出来る。
光に反射して台に映る影ですら芸術作品の一部となっているのだ。
はばたくアオ(っぽい鳥)もその光を受けて本当に幻想的だ。
何度見てもため息が出るし胸が高鳴る。
はぁ〜、すんばらしいわ。
私は心の中でまたもや拍手喝采を送りながらガラス工芸のブースを出た。
ナムルさんの花瓶を見た後は胸がいっぱいになって他の作品の記憶は全くない。
結構スルスルと会場を出てきてしまった気がする。
会場を出てこの間ナムルさんに教えてもらったチョコレートの美味しいケーキ屋さんに行くことにした。
いざ歩き出したところで「キヨコさん」と声をかけられて振り向くと笑顔のナムルさんが立っていた。
デジャヴかな?
「ナムルさん!お疲れ様です!」
「いや、別に疲れてないけど。」
「花瓶を見た後なので、花瓶製作に対してのお疲れ様です、です。」
「あはは!ありがとうございます。」
私がお辞儀をするとナムルさんもお辞儀を返した。
「ナムルさん何してるんですか?」
「ちょっと会場を見に来たらキヨコさんが入っていくのを見かけたから、出てくるのを待ってたんだ。」
「入る時見かけたなら一緒に見ればよかったじゃないですか。」
「いやー、なんか自分の作品誰かと見るのは緊張するし恥ずかしいよ。」
「そんなもんですかね?」
「そんなもんだよ。」
話しながら私とナムルさんは何となく一緒に歩き始めた。
なんかこの何となく一緒にいる感じ、たまらないわね。




