番外編@品評会3
店を出た後は通りの店を覗いたり、公園で休憩をしたりしているうちに時間はあっという間に過ぎていった。
街歩きで色々買い物をしたせいで荷物が増えたこともあって、一度お互い荷物を置きに宿に戻ることにする。
ナムルさんは会場近くの宿に泊まっているのだそうだ。
私も今回はネモフィラ亭は予約がいっぱいで泊まれなかったので駅のそばの宿を取っていて、ご飯だけネモフィラ亭に食べに行くつもりだった。
一泊だけだしネモフィラ亭の予約もできなかったので、今回ミイちゃんとアオにはお留守番をしてもらっている。
本選でまた王都に来る予定だし、ネモフィラ亭も予約できたので、その時こそ一緒に来ることを約束して、2人には渋々ではあるが納得してもらった。2人にもお土産のボンボンチョコレートをあげるつもりだ。
夜ネモフィラ亭で待ち合わせる約束をして、一旦ナムルさんとは別れた。
ナムルさんとは花瓶の試作をしている間、一緒に作業することも多かったので、工場でもよく話す間柄になっている。
ナムルさんも手を怪我した時のことを未だに恩義に感じてくれているのか、何かと私に気を遣ってくれる。
それが押し付けがましくなくさりげない優しさが多いし、一緒に居ると会話も楽しいしで、私の気持ちは友人よりもう少し特別なものだと思う。
そもそも私は昔からクリエーターと言う存在にめっぽう弱かった。
自分が平凡な人間だからなのか、何かを作り出す仕事をしている人を見ると無条件に尊敬してしまうのだ。
作家、画家、陶芸家、建築家、料理人。
想像力の必要な仕事をしている人は本当に憧れる。
ナムルさんがあのサイコロを持ってきてくれた瞬間に私のナムルさんを見る目が変わったのは、過去の実績に照らし合わせてもまあ、仕方ない感じだ。
ナムルさんもよく声をかけてくれるし、時々ご飯を食べに行ったりすることもある。
私の事が嫌いじゃないのはわかるけど、その好意が恋愛的なものなのかはまだハッキリしない。
この微妙な関係はある意味恋愛の醍醐味だと私は思っているので、しばらくはこの状況を楽しめたらいいなと思っている。
宿でほっと一息ついてから荷物をまとめ、私はネモフィラ亭に向かった。
付き合い始めたリンドさんとミルヒさんの関係がどう変わっているのかも楽しみだし、ネモフィラ亭のご飯に関しては言わずもがなだ。
しかも今日はナムルさんも一緒となると私の足取りはどんどん軽くなり、移動の疲れなんて微塵も感じないほどだった。
ネモフィラ亭の変わらない青い看板にほっこりした気分になりながら食堂に向かうと、リンドさんとミルヒさんはすでに席についていて、私を見つけて笑いながら手を振ってきた。
「キヨコさん、こっちこっち!」
「リンドさん、久しぶり!元気そうだね!」
「き、キヨコさん、お久しぶり、です。」
「ミルヒさんもお久しぶりです。なんか前より若々しくなりましたね。」
少し悪戯心が出てニンマリ笑ってミルヒさんに話しかけると、ミルヒさんは赤くなって照れたように顔を背けた。
「あ、ありがとうございます。」
リンドさんもそれを見てにこにこしている。
2人がいい関係なのが見て取れて私は何とも嬉しい気持ちになった。
「良いですね〜。幸せそう。私もあやかろうっと。」
「そうでしょう。幸せだもの。ミルヒさんを連れてきてくれたキヨコさんには感謝してるの。」
「ぼ、僕もリンドさんに、あ、会えたことが、ほ、本当に幸せ、です。キヨコさん、あ、ありがとう、ございました。」
「私は何もしてないですよ。運命ですね!」
私が片目を瞑ると、リンドさんとミルヒさんは顔を見合わせてふふふと笑い合った。
いいわねー、と改めて思っていたところでナムルさんが食堂に入ってきた。
「ナムルさん!ネモフィラ亭へようこそ!」
「あはは。まるでキヨコさんのお店みたいな口ぶりだね。」
「あら、ほんと。でもぜひ紹介したかったんです。ここの料理は絶品ですから。
こちらがネモフィラ亭の看板娘のリンドさんと、研究所でお世話になったミルヒさんです。」
「キヨコさんと瓶工場で一緒に働いているナムルです。はじめまして。」
私が紹介するとナムルさんはにっこり笑って2人と握手を交わした。
好きな場所に好きな人達、今日は本当にいい日だなと私はしみじみ幸せを感じていた。




