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「したらばミイちゃん、役所とやらに書類出しに行こうか。街中も見たいし、案内してくれる?」
「いいよー。でも着替えたら?外歩いたらもっと暑くなるよ?
そうだね、と私はクローゼットの中から麻のチュニックを選んでお借りすることにした。
下はまあコットンパンツだしこのままでいいや。
ミイちゃんと家を出ると太陽は少し傾きかけていて、濃い緑の常緑樹が葉をきらきらと光らせている。
道は石畳で狭いが坂道はあまりないため歩きにくくはない。
両脇に白くて四角い石造りの平家がまばらに並んでいる。
なんとなく以前行った竹島の風景を彷彿とさせる街並みだ。
それぞれの家には庭があり、塀があり、門がある。
窓枠がパステルカラーで、家によって違うのが目印になりそうだが、それがないとどれが自分の家かわからなくなりそうだ。
一本道を10分ほど歩いていくと、家の数が少しずつ増えていき、道も広くなってきた。平家だけではなく二階建てや三階建の建物も建っている。
路面に花屋や八百屋のような商店もあり、レストランやブティックらしきものもみつけた。
こちらの世界の人間にも何人かすれ違ったが、少し色黒の普通の日本人みたいな見た目の人がほとんどだ。
目を見張るほど大きいとか、髪の色がピンクとかそういう感じの人はいない。
なんだかちょっとした国内旅行に来てるだけのような気分になってくる。
「ここだよー。役所。家からはまっすぐ来るだけだからわかりやすいでしょ?」
一際大きな3階建の建物にたどり着くとミイちゃんはとことこと入り口へ入っていく。
ペット不可とかじゃないんだろうか。
でもそのくらい緩い感じが私は好きだ。
何でもかんでも規則で決められて、昔に比べて窮屈な世の中になったと感じていたのを思い出した。
「うん、いいところに来れたのかもしれない」
そう呟いて私はミイちゃんの後に続いた。