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徒然異世界日記  作者: えつお
異世界のホームに戻ってきました
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番外編@ハッシ先生

僕はハッシ。38歳。イーサンで医者をしている。


この国では6歳から15歳までが義務教育で、その後は各々が働いたり、専門教育を2年から6年受けて専門職に就いたりする。

僕は医学を6年学び、21歳で医者になった。


大都市では医者は更に専門分野を細分化されてチームで働く事が多いようだが、田舎はほとんど何でも屋だ。

手に負えない物や自分では判断がつかないものは都市の病院に紹介状を書いて送る。

軽い内科疾患や怪我などの対応がこの病院での仕事の中心だ。


この病院には15床の入院ベッドがあり、外来の診察室が2つ、処置室と手術室が2つずつあり、月水金の午後は手術に当てられそれ以外は外来診療、それが終わると入院患者の対応となる。

頭痛、腹痛の他ちょっとした火傷や捻挫などの患者が時間外に来院することも多く、僕1人で対応するのはなかなか厳しい状況だ。


思い起こすとこの2年間まともに休みを取った記憶がない。

仕事が好きだからそれほど気にはならないが、やっぱりたまにはベロベロになるまで酒を飲みたいし、近くでいいから旅行にも行きたいな、なんて思うこともある。


そんなふうに毎日を過ごしていたある日、異世界の医者をしていたというキヨコさんが結構な怪我人を連れて来院した。

手際もいいし、知識も豊富な様子でぜひとも異世界の医学の話を聞きたいと思ったが、とりあえずは目の前の患者の処置だ。


傷はかなり広範囲で患者は酷く痛そうにうめいているし冷や汗をかいて体を強張らせている。

だとしてもするべき事はしなくてはならないので、そこは我慢してもらって、あとはなるべく早く治療を終えてあげることしか僕にはできない。

そう思っているとキヨコさんがいくつかの質問をしたのち、首に麻酔薬を打ち込んだ。

手の麻酔を首に?と思ったが程なく患者は力を抜き顔色も良く、穏やかな表情に変わった。


痛みを我慢しながらの処置は動いてしまったり力が入ってしまう事でこちらも大変なのだが、触っても針を刺しても全く平気なようで、その後の縫合はとてもやりやすくスムーズに行えた。


数日後に病院にきてもらって色々話を聞いたが、本当に勉強になった。キヨコさんのいた世界では麻酔科医という麻酔専門の医者がいるらしい。


僕たちは麻酔をかけるのは執刀医自身かその手術に入るチームのメンバーだ。

全身麻酔も寝かせるだけだし、術中術後の痛みはある程度は仕方がないものと認識している。


キヨコさんが言うにはたとえ寝ていても痛みは取らないとストレスホルモンで怪我の治りや全身状態に影響を与えるのだとか。

キヨコさんは「こちらの世界ではどうなのか分かりませんが」、と言っていたが、ナムル氏というあの患者の様子を見るとあながち間違いではない気がする。


キヨコさんがしたのは、神経ブロックという麻酔だそうだ。

それぞれの器官を支配する神経そのものを麻痺させるという。

薬液の種類や濃度の調節で痛覚だけではなく運動神経を麻痺させることも出来るらしい。


そんな便利な方法があるなら、僕にとっても患者にとってもメリットしかないと早速方法を教えてもらった。

基本的に神経や血管の走行は異世界の人とさほど変わらないらしく、手だけでなく足や顔面などのブロック注射も教わった。


異世界には脊髄周辺に薬液を注入する方法もあるそうなのだが魔管に影響があるかもしれないのでそれは辞めたがいいとのことだ。

是非見てみたいものだが、キヨコさんがダメだというのなら仕方がない。


キヨコさんの指導のもと何度か神経ブロックの練習をして少しずつコツを掴んできた頃にガラスで掌を切ってしまった患者が運ばれてきた。

傷は大きくないが深くて腱が切れてしまっている。


腱の縫合は1時間くらいで終わるが、力が入ってしまうと上手くいかない事があるので大概は全身麻酔で行う事が多かった。

しかし、キヨコさんがこのくらいならブロックのみで出来そうだと言うので、折角だからやってみることにした。


薬液を準備して刺入部を消毒してから首筋に針を刺す。

ゆっくり薬液を注入していると、突然患者が激しく痙攣し始めた。

薬液が多すぎたのか?でもまだそれほど注入していない。

アレルギーか?アレルギーで痙攣なんて起きることはまずない。

一瞬で色々な考えを巡らせていると、横からキヨコさんが手を伸ばし顔に酸素のマスクを当てた。


「血管内に薬液が入ったんですね。首だからすぐ頭に行くんですよ。量も少ないし、一巡すれば戻ります。戻らなくても換気しとけば大丈夫ですけど、もう戻りましたね。」


患者の痙攣はすぐに収まり、スウスウと寝息を立てている。大丈夫なのか不安になったが、キヨコさんは動じず瞳孔を見たり脈をとったりしてからこちらを見て少し目を細くした。


「大丈夫ですね。ハッシ先生、薬入れる前は陰圧かけて逆血ないか確認するように言ったのに忘れてたでしょう?」


「!!!」


「そういうちょっとした注意で防げる合併症ですからね。忘れないようにして下さいね。」


「す、すみません…」


ハッシ38歳。医師歴17年。まだまだ修行が必要だ。

ただ、この歳になると誰かに注意されることも少なくなるので、キヨコさんの態度はとても有難い。


でも、あの冷ややかな表情で注意されるのは背筋が伸びる。

キヨコさんは絶対後輩に怖がられてたと思うな…


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