73
赤ん坊はステラと名付けられた。
母子ともに健康で、一安心だ。
生まれて早々に病院に行き検査をしたそうだが、異常なしということで、幸せなことに持ってきた人工魔管は使われることなく王都に返した。
準備をしておくと何事もなく終わる事ってよくある気がする。
やっぱり準備ってお守り的な意味でも大切なのだ。
ルナちゃんとソラ君は立派にお姉ちゃん、お兄ちゃんをしている。
ユユラさんのお手伝いを率先してやったり、ステラが泣いたら駆けつけて声をかけたりするのだそうだ。
「どっちか1人だったら子供返りしてたかもしれないけど、2人だからどっちがいいお兄ちゃんお姉ちゃんになれるか張り合ってて、今はいい感じよ。」
ユユラさんはステラを抱っこしながら優しく微笑んでいた。
私は瓶工場でナムルさんと江戸切子の試作を繰り返している。
出品は少し大きめの花瓶にすることにした。
デザインはアオをモデルにして大きな鳥を中心に、花や鳥の花を掘り込んだ物にしようと思っている。
濃いオレンジのようなピンクのような下地に白く浮かび上がる模様はさぞかし幻想的な物になるだろう。
デザイン画はナムルさんが作成したが、彫刻技術だけではなくて芸術センスも素晴らしいことが発覚した。
元々私が持ってきたお酒の瓶は手法こそ江戸切子っぽいが幾何学模様を掘り込んであるだけのものであったのだが、絵のような図柄を掘り込む手法は新しいし目を引くに違いないと確信している。
品評会まではあと2ヶ月だが、今や工場長も社長も応援してくれているので、勤務時間のかなりを試作にあてることができている。
今から品評会が楽しみで仕方がない。
2人で話し合うことも多いので、ナムルさんと私の距離は少しずつ近くなり、実は今少しいい雰囲気だ。
まだ誰にも話していないけどね。
ミルヒさんとお付き合いを始めたとリンドさんから手紙で報告されたので、それに続けたらなあなんて思ったりもする。
ミルヒさん頑張ったんだろうなぁ。
病院はハッシ先生の後輩のドクターが来ることになり、人手に余裕が出たので今はお休みさせてもらっている。
品評会までは瓶工場の仕事に専念することにした。
ちなみに少し歪ながらも先日初めて1人でグラスを作り上げることができた。
なんの変哲もない透明の少し歪なグラスは記念にもらってきて家に飾ってある。
ミイちゃんとアオは相変わらず私の側でホワホワと過ごしていて、心を癒してくれる。
この生活がいつまでも変わらなければいいなと願ってはいるけれど、ミイちゃんはいつか帰る日が来るのだろうか。
怖くなってミイちゃんをギュッと抱きしめるたびにミイちゃんは「どうしたの?キヨコ」と顔をペロンと舐めてくれる。
アオもミイちゃんも一生そばに居てくれますように…
私は他愛もないかけがえの無いこの幸せな毎日に感謝しながら、今日も窓を開けてすっかり自分の居場所となった異世界の空気を大きく吸い込んだ。
おしまい
一応これで完結となります。読んでくださった方、ブックマークしてくださった方、評価やいいねをくださった方、ありがとうございました。
プロットも何もなく適当に始めてしまったので、おやおやと思うところも多かったと思いますが、最後までお付き合いいただいた方々には本当に感謝しております。




